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スタバの店員さんに名前を聞かれたときの話

平日は、お昼休みにコーヒーを買う。日によって選ぶものはまちまちで、だいたい400円くらい。この無駄遣いを「ラテ・マネー」と言って、これを我慢してコツコツ貯金すれば、数十年で約500万円、うまく運用すれは1,000万円以上の資産ができるらしい。

いや、それやらなくていいよね?毎日いちおうマジメに働いてます。コーヒーを考えないと買えないほどお金も時間も余裕もない生活なんて、息詰まるわ。

数年前の夏休みにLAに行った。その頃、私はあまり海外旅行の経験がなく、アメリカ大陸は初めてだった。

たまたま、旅行慣れして英語も完璧な友達が、今現地に会社の同僚がいて、滞在中は案内もしてもらえるし、行ってみようよと誘ってくれたので、軽い気持ちでついて行ってみた。

友達の同僚とは、見た目は剣道でもしてそうな古風な日系の男性だったが、生まれも育ちもアメリカンらしい。彼は親切にも空港までの出迎えや、その後何日か、LAの街を車で案内してくれた。同僚の2人は共通の話題がたくさんあるようで楽しくおしゃべりしてたけど、私は英語が分からないので会話に入れず、ぼんやり車の窓から流れていく外の風景を見て過ごした。

「LAは、みなとみらいみたいでしょ」と彼は言ったが、本当にその通りだと思った。東京に比べてビルの間に空間があり、何となく横長の風景。カフェやレストランには駐車場があり、ゆったりと席がとってある。違うのは、LAは、港というより海岸というイメージで、街全体が妙に黄色く、砂っぽいことだ。たぶんこれは思い込みです。郊外に行くと、普通の日なのに、星条旗を掲げてる家が結構ある。長い間出しっぱなしなのか、日に焼けて色褪せたのが風景に馴染んで、古い映画のような独特の雰囲気がある。レストランは、オーガニック野菜を使ってヘルシーさを推してくるお店が多い。そう、これもみなとみらいのカンジ。側にある自然とのコントラストが大きいせいか、東京よりも断然、人工的な街だと感じる。

せっかくの旅先なのに、あまりに受け身すぎるなと思い、1人でスタバに入ってみたいと申し出た。とりあえず、アメリカのコーヒーは本当に薄いのかを確認してみたかった。

店内に入り、メニューで1番スタンダードそうなコーヒーを指差しで伝えると、レジの不機嫌そうなお姉さんがこちらの目を見て聞く。

「Your name?」

「‥は?」

「Name」

「は?」メニューの確認ですか?と思って指差す。

「Name」

「は?」

「What's your name?」

「は?‥え、‥Rumi、ですが、何で?」

「What?? Japanese〜??」

完全にイライラされている。何で国籍なんて聞くの?まさかニュース観てないこの数日で、コーヒー買うのにパスポート必要なくらいの国際問題が起きた?

カウンターで私の後ろに列ができる。焦ってキョロキョロ周りを見たら、受取カウンターで、「Jay」とか呼ばれたお兄さんが、コーヒーを受け取っている。

単純な話で、出来上がりをレシート番号などではなく名前で呼ぶために、カップに書いているのだ。

改めて「Rumi」と言ったら、注文が完了できた。名前を呼ばれてコーヒーを受け取ってみたら、「Yumi」と走り書きされている。そういえば、ネイティブの人に先頭が「R」の名前は呼びにくいと言われたことがある。聞き取りにくい名前だから、繰り返し聞かれたらしい。

いくら私でも、さすがに「What's your name?」くらいは分かる。でも、スタバのカウンターで聞かれるとは思ってなくて、変に考え込んでしまった。

コミニケーションの難しさとは、結局、相手の言葉を聞くことができないということに尽きると思った。この数日、友達とその同僚に任せていたせいもあり、何も困らず観光ができ、買い物やレストランの注文も、こちらの意思を伝えるだけなら、適当な英語でも問題なくやり過ごせた。あれが欲しい、これを見せてくれ、あそこに行きたいけどどうしたらいいのか。自分の言いたいことは、わりと簡単に発信できる。

でも、問題は聞くことなんだよな。相手から自分が想定していない言葉が発信されると、単語のレベルで理解できても、急に適当な対応出来なくなり、物事が先に進まない。

薄いコーヒーを飲んだら、ぼんやり砂っぽかった視界がどんどんクリアになった。カフェインの力は本当に偉大。

また違う街に行っても、コーヒーを買いに行こう。




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