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次世代都、広州で時代のはざまを歩く

2019年も暮れようとする師走、私は香港から中国第三の都市、広州に向かう高速鉄道の中にいた。

列車の中では北京語の簡体字で「初心忘れるべからず」というスローガンがモニターに繰り返し流される。満席の列車はにぎやかな話し声で活気にあふれていた。

広州につくと一気に近未来に来た気分になった。

新市街にある地上530メートルを超える「CTF金融センター」などの超高層ビル群を下から眺めると近未来の日常に迷い込んだ錯覚に陥る。

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驚いたのは未来的な街並みだけではない。広州は中国でも代表的なスマートシティの実験場だ。よく見ると生活の様々な場面にデジタル技術が浸透していた。

まず驚いたのはマイナンバーカードに相当する「居民身分証」の存在だ。

中国人であれば高速鉄道の入国審査も検札も身分証を機械にかざすだけで済んでしまう。さらに滞在先の高層マンションでは中国人は身分証をエレベーターキーとしてかざす必要がある。宅配業者も身分証の提示が必要で、誰がどこのフロアに行ったかまで記録に残る。個人情報がデジタルで管理されることで市民は監視と引き換えに治安と利便性を手にしている。

もう一つ驚いたのがアリペイなどのスマホ決済文化。

中国の現金使用率は14%程度しかなく、現金はもはや絶滅寸前だ。特に地下鉄の券売機や施設内の自動販売機などはスマホ決済しか受け付けないものも多い。このため現金しか持たない私はしばしば難儀した。「この前QRコードを持って物乞いする人を見たよ」と広州に住む日本人の友人が教えてくれた。スマホがないと施しも受けられないなんて、もはやSFの世界だ。

スマホ文化は新しい文化も生み出している。スマホ注文で自宅に食事を届けてくれるフードデリバリーは中国全土で4億人が利用する一大サービスだ。滞在中、先述の友人宅でも広州を代表するレストラン「広州酒店」の本格中華をふるまってくれた。中国では朝食のコーヒーとパンからランチ、夜はフルコースのディナーまで3食全てが熱々の状態で自宅に届く。

「90後」と呼ばれる20代の新世代の間ではスマホで食事からショッピングまで済ませるのがトレンディーなのだそうだ。

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一方で広州では古き良き中国も楽しむことができる。旧市街の庶民のデパート「万菱広場」、漢方食材や乾物でむせ返る匂いの「清平市場」、様々なスーパーコピー商品を扱う「城」と呼ばれる雑居ビル群。エネルギッシュでたくましい中国文化もまだまだ健在だ。どこかショールームのような仮面をかぶったピカピカで人工的な新市街から来ると、庶民の伸び伸びした姿にほっと体の力が抜け、人間臭い生活臭を感じられる。

現在の中国は新しいテクノロジーを取り込み、急速に発展を続けている。新しい時代が古い時代を飲み込みつつある今だからこそ旅行者は時代の転換点の目撃者になるだろう。

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