見出し画像

【映画】ゴールデン・エイティーズ Golden Eighties/シャンタル・アケルマン


タイトル:ゴールデン・エイティーズ Golden Eighties 1986年
監督:シャンタル・アケルマン

冒頭からアケルマンらしい固定されたカメラアングルの中で、ハイヒールを履いた女性たちの脚だけが画面に映り、右から、左から忙しなく行き交う。狂騒じみて騒がしい雰囲気が常に溢れていて、落ち着く暇もない。アケルマンは「ジャンヌ・ディエルマン」の焼き直しを求められていたらしいが、当然そんなことをする訳もなく真逆の作品に仕上がっている。しかし「ジャンヌ・ディエルマン」が少ない会話はあれど大半が沈黙したシーンで作られていたのに対して、「ゴールデン・エイティーズ」はミュージカルという事もあるが常に何かしらの音がなり続ける。極端な静けさと極端な騒々しさは、実のところ似ている所がある。騒々しさも常になると耳が慣れてきて、鳴り続ける音の感じ方が耳が感じる標準になってくる。真逆でありながらも、本質的な所は同じなのかもしれない。デルフィーヌ・セイリグが演じる役名がジャンヌというのも皮肉っぽい。
音に限らず、色使いもカラフルで赤や黄色など華やかな衣装が目を引く。ジャック・ドゥミのミュージカル映画「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」は当然リファレンスに上がっていたと思うけれど、60年代のゴダール「女は女である」や「気狂いピエロ」あたりのキッチュな色使いも思わせる。60年代のフランス映画でよく目にした色使いを復活させているし、音楽も四人のコーラスグループなど50〜60年代の雰囲気は意図していたのではないだろうか。少し前に50’sリバイバルもあった時代だろうから、その辺りの視野も含めて作り物っぽいイメージが全面に溢れている。80年代のゴダール作品に限らず、この時代はこういった色使いはなくなっているし、60年代特有のカラフルさへのオマージュとも受け取れる。
何よりも驚かされたのが、ラスト近くでジャンヌの腕に収容者番号が書かれた刺青が映った時だった。ジャンヌとイーライの別れがただ単に異国の地で出会って別れた話だと思いきや、ジャンヌがホロコーストに収監されていた事がこの時分かってくる。終戦後にホロコーストから生き延びて、連合軍として従軍していたイーライと出会い別れたバックグラウンドがはっきりしてくる。アケルマンの母がかつてホロコーストに収容されていたという事実が、この映画でも記されている。単純に女性たちが生き方を模索する映画かと思いきや、終戦後の残り香が込められている事に気づくと不条理な現実が浮かび上がってくる。こういった辺りがアケルマンらしい仕掛けになっているのだなと。
マドを演じるリオの姿も60’sっぽさがあって、印象に残る。あまり動いているところを観たことがなかったので、リオってこんな感じだったっけ?と思ってしまった。
サントラで音楽を聴きたいのだけど、サブスクにもYouTubeにも無し。気長に盤を探してみるかな。


この記事が参加している募集

#おすすめ名作映画

8,152件

#映画感想文

66,776件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?