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【映画】一晩中 Toute une nuit/シャンタル・アケルマン


タイトル:一晩中 Toute une nuit 1982年
監督:シャンタル・アケルマン

1976年の「家からの手紙」の描き方も凄かったけれど、こちらはさらにメタな表現が炸裂している。細切れに男女(中には同性も)の出会いと別れのシーンが次々と映し出される。というかほぼそれだけを撮影したものを数珠繋ぎで合わせている。一軒家やアパルトマン、バーやカフェといった場所の軒先で出会い、ある時はリビングやベッドルームで恋人や夫婦が別れる場面が延々と繋がれる。一日の終わりに恋人に会いに行って抱擁する場面や、ベッドルームで身支度をして家を出る場面など、映画のワンシーンのごとくひとつのピークになり得る場面がぶつ切りにされている。前後のドラマが断絶されているため、出会いも別れもその動機から切り離され、ただ人生の中の一瞬の出来事だけがそこにある。現代美術のインスタレーション的でありながらも、アケルマンが描く各シーンはとても映画的で、本来ドラマティックなはずのそれぞれのシーンは扇状的なはずの場面に湧き上がる高揚感は感じられない(人によってはそうでもないかもしれないが…)。場面ごとに異なる人々が現れる事もあれば、同じ人が何度も登場したり、同じアパルトマンの玄関の前で異なる人達が同じ様な境遇のもと出会いと別れを繰り返す。
面白いのは、その前に撮影された「アンヌの出会い」(窓から見える線路)や「ジャンヌ・ディエルマン」(部屋に佇む姿)の様なそれまでの作品と、2000年に撮影された「囚われの女」(窓から顔を出すシーン)を思わせる場面が随所に現れていて、あらゆる時代の作品に共通した作家性が垣間見られる。劇映画でありながらも、ポストモダンへと昇華したメタな恋愛作品という体裁はとりつつも、「ジャンヌ・ディエルマン」という作品からいかに逸脱していきたかったのかがこの時期のアケルマンのテーマだったのかなと感じた。映画として成功しているかはともかく、代表作を一通り観た上で鑑賞すると彼女の中にある一貫したテーマは感じられる。
映画後半では夜が明けて、朝から昼、そしてまた夜へと時間が流れる中、出会いは繰り返されていく。音がぶつ切りになる辺りは、ゴダールへのオマージュにも感じられるが(カフェで男女3人が別れるシーンが一番良かったがゴダールとトリュフォーへのオマージュだろうか?)、ヌーヴェルヴァーグの息吹は事の時もまだアケルマンの中で暴いている。宙ぶらりんになったカタルシスと、着地出来ない感情の揺れ動く様がエンドロールが訪れても、終わる事なく続き続ける。そんな不思議な作品である。

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