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【映画】フレンチアルプスで起きたこと Force Majeure/リューベン・オストルンド

タイトル:フレンチアルプスで起きたこと Force Majeure 2014年
監督:ルーベン・オストルンド

ハイジャックや船の沈没といった大惨事の後に多くの生存者カップルは離婚しています。また、多くのケースで、男性は彼らがなすべきとされている紳士的な勇敢な振る舞いにそっては行動していません。生か死かという状況で、人々は自分の生存が掛った場合は、男性の方が女性に比べて逃げ出して自分を守るという傾向があることも明らかになっています。

ルーベン・オストルンドインタビュー
https://www.magichour.co.jp/turist/production_note/

人間関係に亀裂が入った時、亀裂が元に戻る事は無い。不可逆的な状態のまま人生が進んでいく事は誰しも経験している事だと思う。特に夫婦や家族の繋がりは他人とは違って守るべき存在であるために、致命的な亀裂が入ってしまうと修復はより困難になる。友人や知人であれば、関係はそこまでで断たれるだけで終わるかもしれないが、夫婦や家族となると例え離婚や離縁しても繋がりは一生続く。だからこそ、当然の事ながら関係を保つために修復を試みる。この映画で夫トマスの行動は観客には丸見えになっていて、雪崩の最中に起きていた事実を目の当たりにしている。彼が嘘を付いているのも分かっているし、妻エバは夫がありのままを受け入れない様子に困惑し裏切られたと感じるのも当たり前だとは思う。しかし、夫婦でお互いの責任を責めあっている状況でもある事も間違いない。
生真面目に考えると、こういった場面に出会した時にどうなるのかを考えてしまうし、映画全編で漂う気まずい雰囲気はいたたまれない気持ちになる…のだけれどこの映画が面白いのが、ブラックユーモア的に描かれている所だと思う。事故につながるような出来事に対して、夫婦のいざこざに巻き込まれるマッツとファンニのカップルの軋轢まで巻き起こって(トマスとマッツが同じ表情をしている場面は見どころ)、笑ってしまう。
後半トマスがプライマルスクリームさながらの叫びが盛り立てた後の、泣き崩れるシーンは腹を抱えて笑ってしまった。こんな自分は嫌だとシャツを頭からかぶるシーンは涙が出るほど腹が捩れる。しかし、子供達にとっては普段と違う親の姿は家庭が崩壊するような大惨事に映ってしまう様子は、単純に夫婦間だけを描いたものではないのがよくわかる。だからこそ、吹雪の中で遭難した振りをしてお互いを修復しようと試みる。
ラストのバスでの出来事は、社会性の中での困難に出会した時にトマスとマッツは対応出来る人間として描かれているが、雪崩という自然災害(人的に起こされたものではあったが)に対面した時の対になっている。社会というシステムの中ではそつなくこなす事は出来ても、自然の猛威という非日常に対面した時に彼らの本性が炙り出された結果がそこにある。
ドラマも素晴らしいが、アルプスの山々を映し取った映像も美しい。監督のインタビューを読むと、かなりCGが使われているという事で、かなり驚いた。途中挟まれる雪崩の回想シーンは流石にCGっぽさは拭えなかったものの、白銀の世界の生々しさは中々スリリング。ホテルの場面など構図も素晴らしい。画的にも満足出来る作品だと思う。

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