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ローマ ROMA/派手さはないけれど滋味深い逸品

Netflixで公開されたアルフォンソ・キュアロン監督の新作ROMAを観た。メキシコを舞台にするのは「天国の口、終わりの楽園」以来。メキシコシティにあるローマという場所が舞台で、1970年の8月頃から翌年の8月頃までの1年間が描かれている。丁度ルイス・エチェベリア・アルバレス政権へと移る最中の話でもあり、途中デモや、主人公クレオの地元が政府によって開発の手が入る事が会話からうかがえる。68年には学生デモが武力で制圧されたという経緯もあり、劇中のデモはその流れの一端である「血の木曜日」を描いたものと思われる。

街にはPRI(制度的革命党)のポスターがあり、第二次大戦以前から続くメキシコ与党の政治体制というのが物語の端に刻まれている。この時代は経済成長の時代にあたり、クレオが勤める家族の生活は中流で、車はアメリカのフォード社のものが出てくることで、この家庭の経済状況が伺える。中南米でよく見られるフォルクスワーゲンのクラシックビートルの姿もこの家を含め、あちこちで登場する。

物語はかなりシンプルで、貧しい出自の召使いクレオに起こる事柄を丁寧に描いていた。彼女は主人公であるけれど、他者を見る眼としても存在している。彼女自身に起こる事以外にも、職場の家族に起こる不破にも関わり合いながら、それぞれの不幸を受け入れていく。

何よりもストーリー以上に雄弁に物語るのが映像だったといえる。ロングカットで緻密に計算された左右のパン。無理なく自然に流れ、時に部屋の中を、時に通りを駆け抜ける。

音響もかなり力を入れていて画面に映らないものも音で描いているため、サラウンドで体感すれば映画のポテンシャルが最大限に引き出されるのではないかと思う。

映像については、特にラスト近くの浜辺から荒波の中を行くシーンは圧巻。事が起こる前の静けさから、耳障りなまでの荒波の中をいく様がロングカットで描かれていて、一切揺れる事がないカメラワークに「一体どうなってるんだ?」と驚嘆する。「トゥモローワールド」や「ゼロ・グラヴィティ」でのロングカットが遺憾なく発揮されていた。「宇宙からの脱出」のワンシーンは自身の「ゼロ・グラヴィティ」へのオマージュともとれる。

とはいえ気をてらったものではなく、あくまでも家族の間にある物語を違和感なく切り取っていてるので、キャラクターそれぞれの感情もしっかりと描いている。

派手な映画では無いし、一見地味な映画ではあるものの、丁寧に描かれた滋味深い作品だったと思う。

日本国内では2019年に劇場公開されるという事。音響にもこだわりを感じるのでNetflix契約してない方は劇場で観るべし。






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