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Philip K. Dick::トータル・リコール ディック短篇傑作選【Memorandum, Reading impressions】

3冊目の感想文に時間が掛かってしまったので(途中で読むのを止めていた)4冊目以降は、読み停まる前に記事にしようと思う。

この本は随分前に文庫で読み、Kindleでも読み直した記憶がある。

何度か読んでいるので、今回の読書は記憶の確認であり追憶。
「トータル・リコール」の原題は "We Can Remember It for You Wholesale"
邦題は『追憶売ります』



「トータル・リコール」 We Can Remember It for You Wholesale


アクションシーンや惑星間旅行があるわけではないのだが、2度映画化された内容よりも物語の設定は大きい。
主人公が、地球全体の運命を巻き込む事態でクロージング。
(ここは覚えていた)


「出口はどこかへの入口」 The Exit Door Leads In

服従に慣れてしまった人に、新しい出口はない

「地球防衛軍」 The Defenders

ロボットに導かれた、戦争のない新しい世界
こうでもしないと人間は戦争をやめないのかも知れない

「訪問者」 Planet for Transients

核大戦から350年後、放射能汚染に対応できない人類は地球を去る

「世界をわが手に」 The Trouble with Bubbles

「世界球」を弄ぶ人類は、自分たちが住む世界球を意識していない


「ミスター・スペースシップ」 Mr. Spaceship

宇宙船の頭脳に成り変わった老教授は、教え子夫婦を乗せて新世界を構築する


「非O」 Null-O

「非O」とは「O(オブジェクト)は実在せず、宇宙は莫大なエネルギーの渦」を思想に持つ人々。彼らは全宇宙を非O化するため、地球を手始めに星々を破壊していく


「フード・メーカー」 The Hood Maker

「Hood」は「頭環」
人の心が読める新人類(と思っていた本人)は、真実を知る人の心を読んで後悔する

「吊されたよそ者」 The Hanging Stranger

ディックには珍しいミステリー
冒頭と結末に出てくる、街灯からぶら下がる死体


「マイノリティ・リポート」 The Minority Report

映画は原作の設定に忠実だが、展開が全く異なることを初めて知った。
原作を忘れていたようだ。
この物語は映画版を好き過ぎて、原作の組織同士の争いに違和感を感じた。


編集あとがき(編者:大森望)

この短編集のあとがきも「あとがき」というよりディックに思い入れのある解説文。少し引用したい。

作品のテーマは、記憶の不確かさ、放射能汚染の恐怖、監視社会の抑圧など多岐にわたる。それらが醸し出す強烈な緊張感と生々しい迫力は、発表から半世紀以上を経ても、全く衰えていない。”9・11以後” を直接想起させる作品もあれば、3・11を経験した今だからこそ身近に感じられる作品もある。

編者あとがき(2012年7月発行)


雑感

どの物語も読んだ記憶が頭の隅っこにあり、そういう意味での目新しさはないが、以前読んだときと比べて今の世界が大きく変わったため「こんな未来に近づいているのかも」と思わせる。

核戦争後のディストピア(dystopia)が舞台となるストーリーが多く、ディックが生きていた第二次世界大戦後の冷戦期ならではの設定だが、21世紀の今も世界を取り巻く状況は変わらず、人間(為政者とそれを選ぶ人々)の愚かさを改めて感じる。

 
 
MOH
 
 


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