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スーパードライが売れない私でも道はある

岸田奈美さんの『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』を読み終えて、ちょっと腹筋が痛い。とにかく笑った。星野源の『甦る変態』以来こんなに笑った。

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自分の人生が壮絶だったとはあまり思っていないけど、周りからは「結構すごいね」と笑ってもらったり若干引かれたりしてきた。でも岸田奈美さんはそれより遥か宇宙の壮絶さでいつも笑顔の写真を思い出すと何か次は泣けてくる。すごい人だよこの人。

その中でも読み終わってから自分の中で大事にしたくてしばらく動かずにいた話が『アサヒスーパードルゥゥァイいかがですか』だった。物凄く爆笑して母に音読までして聞かせたけど母はピンと来なかったようでこの温度差にビックリ。
でも分かった。母はいつもスーパードライを売ることができる人間だったのだ。
(黙っていれば)小さくてか弱そうで
(黙っていれば)可愛くて朗らか
そんな母はいつも選ばれし女子だったし、今もそれは変わらない。
スーパードライを売れなかった人間の気持ちやそれを面白おかしく笑える気持ちが理解できなかったのだ。羨ましい。

自分の容姿に自信がなくなったのは、思春期を迎えて女性らしいフォルムを通り越しムクムクと横に広がり始めた頃。ご飯は美味しいし、高校生くらいになるとバイト代でお菓子を買ったりもしたから痩せる気配は微塵もない。小さい頃は「健康そうでいいね」と褒められたのにいつの間にか「もうちょっと痩せた方がいいんじゃないの」という周りの大人からの無言のメッセージを感じるようになった。そして自分も隣にいるあの子と自分では周りの扱いが違うんじゃないかなと思うようになる。
化粧をしても何だか不恰好だし、男子からはコメディアンポジションにされていく。女友達からはさり気なく引き立て役にされていたり。次第に「あー、多分私ってそうゆう側の人間なんだな」と自覚して、それを恨んでいた。多分私一生結婚とかできないし、モテることもないんだ。そうゆう人生、絶対損だ。そう思って自分を呪っていた。

社会人になり、人前に出る仕事をしていた頃同い年の女の子から「そんな容姿で人前に出るなんてすごいね」と悪意なきマウントを取られて呆然としたのが今も記憶にある。
当時150センチない身長に対して体重70キロ超えていて、ズボンが股擦れするの。安くて大きめの服だけで生きるしかない。
いつだって面白おかしいポジションで、美人で細くて何もかも許容される人間になりたい。そこにいるだけで大丈夫な人になりたい。そっち側に行きたい!!そう思えば思うほど悪足掻きをして面白おかしくなっていく。
多分、私があの時の岸田さんだったらコーヒーを売ることなくスーパードライを売る女の子を見ながら恨言を吐いていただけだったと思う。

岸田さんの一言一言に笑いながら、もすごくスッとした気持ちになった。
スーパードライを売る女になれなくても、私の人生には無限大の可能性がある。
あの時、草陰から美人を眺めては爪を噛んでいた時間でやれることはワンサカあった。嗚呼!!この本を持ってタイムスリップしたい。
大丈夫だ!お前は!やれる!

「人は見方を変えて工夫するだけで驚くほど世界が拓けていくんだ」

この本には、未来の拓き方が詰まっていた。
一つ一つのエピソードを読み終える度に自分を肯定していく。まるで自分探しの旅をしているかのような感覚。岸田さんの言葉に触れる度に私は心から笑うことで自分の心を取り戻していた。

嫌われたくなくて、酷い事を言われたくなくて、いつも笑っている。解決できないくらい傷付いているのにそうでないフリをしている。いつも自分は相手より劣っていると思うことで攻撃することを避けて生きてきた。それが優しさだと思っていたから。
「自分が嫌いだと他人に評価を求めようとするからね」
あとがきの言葉に涙が止まらなかった。自分に自信がなくて自分が嫌いだから、誰かに好きだと言って欲しい。誰かに感謝されることで自分の価値を認識したいと足掻いてきた自分を思い返していた。
岸田さんの言葉の中には大好きで大切な人達への愛がぎっしり詰まっていて、その人達を彼女の100%愛が溢れる言葉で語っていた。だから笑えるし感動することができる。自分の言葉とは愛するものへ向けた時ここまで人の心を鷲掴みにしすることができるのかと感動した。
私の未来のドアが物凄い勢いで開いていく。もう結構錆び付いてギシギシだったドアが岸田さんの言葉にグイグイ動かされいった。

できなかった、なれなかった私だからできることがある。
それを教えてくれたこの1冊は一生の宝物だ。

※『キナリ読書フェス』に参加したかったのですが、時間の都合上参加できないため読書感想文として掲載しました。

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