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レーザーテック社に見る空売り投資家


 「空売り投資家」と呼ばれるファンドが、日本の半導体関連装置製造業者であるレーザーテック社に関するレポートを公表しました。このレポートがきっかけとなり、レーザーテック社の株価は大きく下落しました。
 この記事では、レポートの内容やレーザーテック社についての話ではなく、「空売り投資家」について解説したいと思います。

レポートの内容と反響

 レポートの内容は、レーザーテック社が不正会計を行っているのではないかという疑惑を指摘しています。レーザーテック社は、適切な会計処理を行っていると反論していますが、この問題の行方は非常に注目されています。

レーザーテック株式会社(2024/6/5)

空売り投資家の存在

 この手の空売り投資家は、かなり少数派だと理解していいと思います。こうしたファンドは、空売りをして暴落することに賭けているわけですが、世の中そこまで暴落している株があるわけではありません。平均株価はずっと上がってきています。

空売り投資の難しさ

 空売りとは、株を借りてきてそれを売り、下がったところで買い戻しをして利益を得るという投資法です。しかし、下がるタイミングに賭けるのは非常に難しいです。株というのは、上がっている日と下がっている日がありますが、上がっている日の方が断然多いです。ゆっくりと上がって、下がる時は短期間に大きく下がるというイメージがあります。そのため、下がる方に賭けていても、なかなか利益を得ることができないことが多いです。

空売り投資のリスク

 また、買いの場合、買った株が暴落したら、最悪その買った金額全部を失うことがあります。しかし、逆に言うと、買った金額よりも失うことはありません。ですが、空売りの場合は、株価がどんどん上がってどこまで行くか分からないような状況になると、損失が無限大になります。つまり、利益が限られていて、損失は無限大の投資ということになります。そのため、非常にリスクが高いです。
 そして、空売りをするためには、株を借りてこなければならないわけですが、それにはコストがかかる場合も多いです。空売りポジションを維持しておくだけでも、じりじりとコストがかかっていくようなことも多いです。
 空売りというのは、本当に難しく、勝率の高い戦略ではありません。

空売り投資家の例:ジム・チャノス氏

 空売り投資家の世界で、有名な投資家も何人かいますが、その中で40年ぐらい前から運用しているジム・チャノスという人がいます。この人は、2001年にアメリカの大手エネルギー企業エンロンの不正会計問題が起こった時に、このエンロンの株を空売りして大儲けした投資家です。エンロンは、結局この事件がきっかけで破綻しましたが、ジム・チャノスという人は、この件で一躍有名になりました。

ジム・チャノス氏のファンド

 ジム・チャノス氏が運用するファンドは、リーマンショックがあった2008年には、資産残高が80億ドル(約9,000億円)に達していたと言われていました。しかし、それが2023年には2億ドル(約230億円)にまで減少し、ファンドを閉鎖せざるを得なくなりました。最近では、長らくテスラなどを空売りしてきましたが、全然運用がうまくいっていませんでした。
 こうした手法で40年もやってきたというだけでもすごいことですが、こうした有名なファンドでもやっていけなくなっているところも多く、ここ10年はあまりこの手の空売り投資家が元気になる環境ではありませんでした。

空売り投資家の資金源

 空売り投資家というのは、要は投資信託を運用する会社のため、そこにお金を出している投資家がいるわけです。では、どのような人たちがそうした空売りファンドにお金を預けているのでしょうか。

空売り投資家の資金調達の難しさ

 年金基金や生命保険など、顧客に運用の説明をしなければならないような投資家は、こういうファンドにお金を出すのは難しいです。不正会計をしているのではないかと指摘してレポートを出すわけですが、そのレポートに書いてあることが誤っていた場合、逆に訴えられる可能性もあります。
 年金基金や生命保険など、クリーンで透明性の高い運用をしなければならない機関投資家は、お金を出すことが難しいです。そうした意味でも、こういう空売りファンドに投資をしているお金というのは、そこまで大きな機関投資家からは出ていないと言えます。資金の出し手の都合を考えても、空売り投資家というのが大きくはなり得ないということが分かります。

空売り投資家の社会的役割

 ここまでの説明で、「空売り投資家」というのが、決してたくさんいるわけではないこと、難しい投資をしている、人の不正を暴くことに賭けている、危険な賭けをしているということがお分かりいただけたと思います。

空売り投資家の使命感

 では、なぜ彼らは無謀な投資を続けているのでしょうか。もちろん、一発でお金を稼ごうという思いもあるでしょう。しかし、世の中の不正を暴こうという、そういう正義感も少しはあります。
 日本の場合、企業がお金を調達する時は銀行からの融資が多いので、不正をしているかどうか、銀行が怪しいところにはお金を貸さないようにしてモニタリングをする役割を担っています。
 
しかし、アメリカの場合は、銀行からお金を借りるよりも証券市場からお金を調達する方が多いので、そういう不正を見抜いてモニタリングするという役割をファンドが担っています。

空売り投資家の評価

 空売り投資家というのは、日本でのイメージとアメリカのイメージは大きく異なるということを覚えておく必要があります。もちろん、会社側と空売り投資家で、どちらが言っていることが正しいのかは、案件ごとに精査する必要があります。
 日本では悪者のような見方をされることもありますが、空売り投資家は使命感を持ってやっている場合も多く、社会において一定の役割を果たしているのも事実です。空売り投資家なんていつも誤っている、そのように一方的に片付けられるものではないということです。


ご参考

リーマンショックの前後で最も安定したリターンを獲得したのは、年金運用などがよく採用している資産配分を一定に保つ戦略だったとされました。

金融危機時の機関投資家の投資戦略の振り返り


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