見出し画像

cakes炎上と、編集者不要論

こちらのnoteが、かなり話題になっていました。Twitter上でもトレンド入りして、多くの作家がFacebookなどでも言及していました。で、実際に内容を読むと、これは事実ならcakesが酷いと言える内容。本業が編集者の立場からも、物書きや作家もやっている立場からも、二重三重に問題です。新興のWeb系媒体の様々な問題点は、編集者の質の低さと相まって、前々から話題にはなっていたのですが……。

もちろん、あさのますみさん側の意見だけ読んだだけですから、cakesの言い分もあるでしょう。その是非は現時点では解らないので、いったん判断保留です。なので、自分としては一般論というか、ネット媒体で実際にあった問題や、出版業界内部の経験から、新興のWeb系媒体・出版社と編集者の問題に絞って、想うところを書きます。ちなみに、cakesはnoteを運営しているところと同じ経営母体。cakes批判がcakesのサービスで成される時代の面白さ。

■編集者や出版社は不要か?■

SNS上では、作家による出版社批判や担当編集者批判が、けっこう盛んです。自分の本業は編集者ですし、もし自分の出版社勤務時代に今ぐらいネットやSNSが普及していたら、絶対に炎上していた自信があります(キッパリ)。そういう意味では、編集者や出版社には、キツい時代ではあります。編集者批判が日常化した先に、編集者不要論が出てくるわけで。それに対して、作家側からはこんな意見も。

本来編集者は、縁の下の力持ちで、目立たない方が良いんですよね。だからこそ、裏方仕事の良し悪しは、見えづらい。「あいつら大した仕事をしていないのに、高給取りやがって」と、怨嗟の対象になる。実際、内側から見ても編集者の80%は無能だと思います。ただ、その80%のほとんどが、自分は有能だと思っている、歪な社会でもあります。しかし世の中には〝無用の用〟もあるのも、これまた事実。

編集者のノウハウと言っても、実はかなり多岐に渡ります。プロデュースやマネージメント、権利関係の管理などなど。専門分野によって、ファッションの知識や科学知識、芸能、文化芸術、趣味の分野。マンガの編集者だと、作話能力的な部分も求められます。でもそれは、個人でも対応可能な部分。では、編集者や出版社の機能とは、いったいなんでしょうか?

■出版社のデータベース機能■

先ずひとつが、トラブルのデータベース機能でしょうね。過去に、こんなクレームがついて大問題になった、言葉狩りの対象になった、ヤクザが押しかけてきた、似非同和が脅してきた、権利上のトラブルが起きた……そういう事例が、法務部や校閲部に蓄積され、事前にチェックする機能になるわけです。この事例は膨大で、個人では把握しきれない判例みたいなもんです。

ところが、コレが機能しないこともあるからややこしい。しかも、大手出版社で。具体的に言えば、週刊少年ジャンプのような大手の老舗でも起きちゃう。『燃える!お兄さん』の回収事件は、実はほぼ同じ内容で新田たつお先生が筆禍事件をやらかしていて、マンガ評論の第一人者である呉智英先生が、著書で紹介もしてるわけです。つまり集英社のジャンプ編集部には、その知識を持ってる人間も呉先生の本を読んでる人間もいなかった、ということです。

いたかもしれないけれど、担当編集者も作業グループを仕切る班長もチェックする複数の副編集長も責了した編集長も、知らなかったということですから。もっとも週刊少年誌の編集者は時間に追われているため、校閲部を通さないため、校閲的な知識や過去事例に疎いことが多い、実は技術や知識や経験が偏った、歪な編集者が多いのですが……。大手出版社でも、こういうことが起きやすいんですよね。でもWeb系ネット媒体は、これがもっと酷いわけで。

■増え続ける新興媒体の問題■

実は、ウチの講座ってプロの受講も多いですし、そういう人から仕事上の相談されることが多いんですよね。担当にこんなことを言われたんですが……と相談された内容が、だいたい著作権法的にアウトなブラック契約だったりして、そっち方面に詳しい弁護士を紹介したり、相手のいってる点のデタラメぶりを教えてあげて、対処方法をアドバイスしたり。そういう基礎知識や出版業界の常識に欠けるWeb系メディア編集者って、編プロを転々とするタイプがほとんどです。

ジックリ腰を落ち着けて学び、知識や経験を蓄積した経験がなく、下手すると半年一年で転職する。そもそも、経営陣が出版社の勤務経験がないので、出版事業の全体像が見えていないので、そういう流れ者を採用する。出版とは何か・どういうノウハウが必要か、そもそも解っていないのでしょう。そこで、元○○社編集長とか、立派な肩書きを頼りに話を聞きに行ったり、アドバイザー就任を要請するのでしょうけれど。裁判事例や権利関係に詳しい編集者は、たぶん全体の1%もいないと思われます。

大手出版社には大手特有の問題があります。顧問弁護士が優秀だったり法務部が強いと、たとえ揉めても上手く着地させるノウハウがあり、炎上を未然に防いだり初期消火に成功するので。せっかくのトラブルの経験値が、末端の編集者に共有されないこともあります。また組合が強いと、編集者を簡単にクビにできないので、編集者に炎上する事への危機感が薄い、などなど。トラブルが他人事になってしまうんですね。

■地味な作業を軽視する人々■

プロデューサー気取りの編集者とかに、こういう過去のトラブル事例の蓄積や校閲の知識、制作のノウハウやら軽視する人間は多いです。だいたい、作品は編集のプロデュース能力は、さほど影響はなく、作家の才能と天の時、運の要素のほうが遙かに巨大です。大手出版社を辞めたら途端にヒット作品を出せなくなる編集者を見れば、作家の才能に背乗りしていたのが解るでしょう? そういうタイプは、トラブル対処能力は高くは無いことが多いようで。

新興のWebメディアは大手出版社の編集長クラスを引き抜くより、中堅どころの出版社の実務に長けた副編集長タイプと、知財や著作権法に詳しい弁護士に話を聞くほうが、実は得るモノが大きいと想うんですけどねぇ。というか、それこそ新興のネット媒体企業自体が、出版業に向かない部分も。多くの出版社って世襲で同族経営が多いですが、これってちゃんと理由があるんです。出版事業は、長い目で見る、文化事業ですから。

目前の利益を追求して、短期決算で利益率を云々するのではなく、こっちの利益でこっちの赤字を埋める、10年先の黒字転化を願って先行投資する。理由は「文化として必要だから」としか言えないけれど、それを見抜く大局観が必要。ドライに利益追求で作品作りができるかといえば、そんなモノでもないんです。作家の狂気と編集の狂気がぶつかる世界で、こんな作品を作れば売れるなんて方程式もない世界で、工業製品を作るのとはだいぶ違う世界ですから。

■覚悟なき出版サービス会社■

cakesは自社を、文化を創造するのではなく、出版サービスをする会社と、自社を認識しているのかもしれません。例えるなら自分で商売をするのではなく、テナントに貸し出す会社。売れるモノ・利益の出るモノを売買する場を提供する会社。なので、客のクレームにはご無理ごもっともでテナント解約。これは自体は間違いじゃないんですが、出版文化事業は時に、読者の首根っこを捕まえて無理に読ますような、横暴さやきわどさも持ちます。そりゃあ、首根っこ掴まれたら反発も出ます。そこで戦う覚悟が問われる。

先のcakesの二件の炎上は、そういう覚悟を持って首根っこを掴んで読ませようとしての炎上したのではなく、記事の問題点を編集者が判断できなかったがゆえ、記事の配慮すべき点がスッポリ抜けていたいたがゆえの、炎上でした。そして編集者のレベルをフィルタリング出来ていなかった上層部が、炎上したからと現場にしゃしゃり出て、今度はもっと酷い作品介入をやらかした可能性があるわけで。繰り返しますが事実なら、二重三重にダメダメです。

cakesが問題なのは、作品に介入するのはマズいと、ちょっとは解ってる点ですよね。でも、作家に意見を高圧的に押し付けるのはもっとマズいので、作家の側に自主的な譲歩や忖度を迫る。イコールパートナーとしての作家の側を守るのではなく、自社優先。それは悪くないんですが、やったら同時に作家にも見限られますよ、という話。凄い作家の絶対数は限られてて、cakes側の要求に応えつつ売れる作品・記事が書ける人間は、そうはいないです。こんなことやったら、よほどギャラを上げるかしないと、自分のような二流の売文業しか来ません。

■秋元康商法ではダメな理由■

作品作り・記事作り・本作りは、秋元康商法とは違います!(ゴゴゴゴゴ…)。秋元康商法とは、素材勝負・付加価値勝負の手法。要するに、才能を育てるのではなく数を集めて、その中から自然に淘汰された人間をピックアップし、売り抜ける商法。秋元康氏本人が、AKB商法はプロ野球ではなく高校野球と言っていますが。要するにプロの技術ではなく、天性の器量や若さや旬やひたむきさという、素材や付加価値で勝負しているだけ。甲子園で肩や肘を壊しても、そいつの人生なんか知らんって、無責任な高校野球ファンと一緒。

高校野球に限らずスポーツはそれでも、プロへのピラミッド構造の中でちゃんと価値があります。しかし秋元康商法では若さがなくなったら、セルフプロデュースできる才覚のある個人以外は、ほぼほぼ使い捨て。それって、中高生の若さという付加価値を売る援助交際と、本質は同じでしょ? おニャン子クラブの頃から変わらない、悪しき焼畑農業です。いや、焼畑農業の方が、経験則から導かれた合理性や知恵が詰まってるので、こういう例えが失礼なぐらいなんですが。

素材を見つけ・その才能の活かし方を考え・10年後20年後の姿を考え・才能が育つのを見守る。出版事業って、プロ野球選手を育てるのにも似てるわけで。でも新興のWeb系出版って、目前の利益を追う秋元康商法タイプが目立ちますね。そりゃあ、海の物とも山の物とも知れぬ業種に飛び込む人間は、一攫千金や売り抜けしたい、勝ち逃げしたいっていう傾向が、顕著ですが。でもcakesって加藤貞顕氏が立ち上げて、もう9年目です。目前の利益から10年後20年後、さらには創業者の死後を考えた組織作りに、移行すべき時期では?

■アイドル商法興亡史に学ぶ■

「作家になりたいヤツ、ライターになりたいヤツなんてゴロゴロいる、そいつらに仕事は頼めば良い。文句言うヤツはお断り」なんて殿様商売では、厳しいでしょう。おニャン子クラブやモーニング娘。やAKBグループが、先細りしたように。本物の才能を育て、太く長く・細く長くの商売することは、秋元康商法ではできません。同じアイドル商売でも、ジャニーズ事務所は芝居や楽器演奏やコントなど、プラスαの一芸を身につけさせ、広く薄く利益を得て、比較的長く生きられる方法論を持っていますね。

しかしそれも、ジャニー喜多川氏が亡くなって急速に綻びが出ていますが。素材としては鳴かず飛ばずだったSMAPを、1から育てた飯島三智マネージャーを干して、クビを切ったツケが回ってきたわけで。そういう育てるノウハウとプロデュース能力を持った人間は貴重な財産なのに、一族経営の悪しき部分を維持しようとしたメリー藤島女帝の問題なのかも知れませんが。こういう芸能界の興亡を見て、cakesが気付きを得るかどうかは、解りませんが……。

CLIP STUDIO PAINTで知られるセルシス社の推計で、プロの漫画家は全国に3000人から6000人ぐらいだとか。これはアニメーターも似ていて、4500人から6000人ぐらい。東京大学には毎年3000人ぐらいが合格し、京都大学には2800人ぐらい。才能というのは、それぐらい稀少なのです。ちなみに、医師国家試験に合格して、厚生労働省に登録している医者の数だけで約32万人もいるとか。さらに吉本興業だけで、所属タレントは6000人もいます。AKBグループは国内17団体で、これだけで816人もいます。OGも含めれば1000人を軽く超えるでしょう。才能と市場の数の違いを、先ず認識すべきかと。

■数ではなくて質を問うべき■

芸能界はそれだけ巨大で、まさにマスを相手にしているわけです。そういう世界ならば、秋元康商法も全否定はできないです。むしろニッチを見つけたなと、評価もできます。しかし、漫画家やアニメーターの少なさを見れば、小説家やコラムニスト、エッセイスト、ライターの才能も、そうは多くないと推測できます。数が多いように見えるラノベ作家も総数はだいたい600人ぐらいで、毎年だいたい200人が流入し200人が流出するという統計もあります。出入りからの推計で、ひょっとしたら2000人ぐらいは居そうですが……。

給金が出る十両以上が70人ちょいの大相撲や、163人しか現役がいない将棋のプロ棋士、400人ほどの囲碁のプロ棋士、支配下選手登録が最大840人のプロ野球選手ほど狭き門ではないですが、それでも才能の世界です。そう言えば、新興のWeb系出版の編集者に、TwitterやInstagramでフォロワー10万人いないとダメとか言われた新人作家とかの証言が、たまに出てきますが。いかに彼らが基本的なデータが不足しているか、暴露しています。

Twitterで10万フォロワー以上って田中圭一先生クラスで、作家や小説家の全カテゴリーでも120人ぐらいしかいません。漫画家限定ならさらに半分でしょう。そんな、上位3%レベルの才能を要求する時点で、無知です。そのレベルの作家には、新興のWeb系出版なんか相手にされないでしょうに。芸能人ならそのレベルのフォロワー数は大量にいるでしょうけれど、そもそも相手にしているファンの母集団が違うし、芸能人と書籍・情報では、消費の在り方が違います。

■次の10年を生き抜くために■

Twitterとnoteのユーザーもだいぶ違いますが。それと同じ。例えば、noteの自分フォロワーは現時点で123人しかいませんが、わずか180ビューの記事が100円で16人に売れたりします。でも、Twitterで100万インプレッションいっても、金を出して買うかといえば、そう単純じゃありません。フォロワーの数ではなく、質を問うべきなのです。逆に言えば新興のWeb系出版の編集者が、いかに秋元康商法的な思考のパラダイムに陥っているかがわかります。元芸能ライター崩れの、業界ゴロが多いのかな?

残念ながら、作家の才能は相互承認制度的で、編集者側にも作家の才能を見抜く才能が必要です。10年やろうが20年やろうが、才能を見抜けない編集は、見抜けません。だから、才能のある編集者って、稀少なんです。出版社でも、8割が無能な編集者と断じる理由です。作家とは、己の才能を認めてくれた編集者と、作品を創造する共犯関係なので。だから編集者が出版社を辞めると、いっしょに出版社を移る作家も多いわけです。大手から中堅弱小にさえ移籍することもざら。

作家と編集者の関係性は、金銭より信頼関係とか浪花節とかダブルクロスとか、いろんな愛憎入り交じって作る世界であると、cakesさんには見えていなかったようですね。広告代理店と制作会社の関係とは、違うのです。見えている編集者も現場にはいるのでしょうが、見えていない編集者の方が多数派。そして、炎上から過剰反応して創作の現場に介入したであろう役員氏には、まったく見えていないと断言できそうです。作家と編集者の関係性は、その前近代的な部分の弊害もありますが、プラス面もあるのです。ここら辺に興味ある人は、コチラのマガジンの記事をどうぞ。

できればcakesさんには、そこを理解して軌道修正されんことを、願います。次の10年を生き残るために。個人的には、記事が飛ぶなど腹が立つ部分もありますが、noteには可能性も感じていますから。セルフプロデュース能力に長けた人間には、商売を始めるのに都合の良い、良くできたプラットフォームです。なお、当方へのアドバイザー就任や社外取締役の就任要請は、喜んでお受けします。ギャランティー次第で(半分本気・半分冗談)。

どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

◉…▲▼▲▽△▽▲▼▲▽△▽▲▼▲…◉

さてこのnote、無料で公開していましたが、なかなか好評でしたので、投げ銭をもらえる有料記事の仕様にしますね。有志のサポートでもいいのですが、有料という形で積極的に支援を求めた方が、あんがい購入する人が多いので。以下をクリックしても、出てくるのは御礼の言葉だけですが、7000文字弱の労力に対して、150円ぐらいは投げ銭してもいいという方は、よろしくお願いいたしますm(_ _)m

◉…▲▼▲▽△▽▲▼▲▽△▽▲▼▲…◉

ここから先は

25字 / 1画像
この記事のみ ¥ 150

売文業者に投げ銭をしてみたい方は、ぜひどうぞ( ´ ▽ ` )ノ