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武術は総合格闘技

◉Twitterで見かけたこの意見。自分は梶原一騎先生の『四角いジャングル』や、アントニオ猪木の異種格闘技戦路線、UWFの誕生からグレイシー柔術の世界デビューとUFCの出現、そして総合格闘技の黎明期を見てきたので、イロイロと思う部分はあります。

1997年から平直行師の元で、ブラジリアン柔術も学び、いちおう道場を開ける資格の紫帯をもらってもいますしね。需要はないでしょうけれど、思うところをツラツラと。

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■武士は弓がメインウェポン■

そもそも武士は弓がメインウェポンで、今川義元や徳川家康の異名が〝海道一の弓取り〟ですからね。故郷の隣町の高山町には、かなり原型に近い流鏑馬神事が残っています。平安時代に伴善男の玄孫である伴兼行が薩摩掾に任命されて、豪族肝属氏の祖になりましたから。鎌倉時代の武士は騎射が中心。流鏑馬・笠懸・犬追物の三芸も、騎射ですから。鎮西八郎こと源為朝も強弓で知られ、源平合戦の那須与一の弓のエピソードでも有名。

合戦の武器としては、後の時代に発達する槍が次ぎますが、鉄砲の時代がくれば砲術がメインに。現代の兵士が、アサルトライフルに拳銃にナイフに手榴弾にと、各種の武器を携帯するのと同じで、武芸というのは一種類だけやるのではなく、複数の武芸を身に付けるには当然です。日本の大鎧は高性能だったので、組み討ちで倒して鎧通しで鎧の隙間から刺す、ということで柔術や小太刀の技術も必要。

■武術武芸は世に連れ■

ところが太平の時代には、江戸では鉄砲はもちろん、弓も規制が強かくなります。殺傷力が強いので当然ですね。赤穂浪士も弓を携帯してたのが問題視されたりします(ただし遊戯としての楊弓場などは発達します)。長大な槍はさらに使う場がなくなり、儀礼や形式上の形態が主に。そうなると、常に携帯する大小の打刀が武士の表芸になります。柔道や空手など、徒手空拳の術が廃刀令以降に隆盛したのは必然です。

武術は世に連れ。しかし、明治以降はなぜか、ひとつの武術に専念するのが一般化します。なんでしょうね、この紫綬褒章主義的な一意専心は。『姿三四郎』でも柔道対空手とか、異種格闘技戦路線。現代でも、日本は野球なら野球だけ、脇目も振らずにやるのが良しとされますが。アメリカではアメフト・野球・バスケ・ホッケーなどの四大スポーツを兼務し、複数競技でドラフト指名を受ける選手も珍しくないです。

■太平の世も併修が当然■

でも、尾張藩の下級〜中級武士の朝日文左衛門重章の日記『鸚鵡老中記』を読むと、太平の世の元禄時代でも、酒好き女好きでかなりスーダラな文左衛門でさえ、剣術に弓術に砲術に据え物斬りに柔術にと、かなりの武芸をやっています。もっとも内実はいい加減で、簡単に免状をもらっていますが。武士としての義務感もあったのでしょうけれど、武士は総合的に武術をやっているのが事実です。

かの幕末の坂本龍馬も、北辰一刀流の千葉道場(下級武士用の桶町千葉道場)では、長刀兵法目録をもらっています。確実な証拠はないですが、剣術も免許皆伝かそれに近い練度だったでしょう。そもそも故郷の土佐では、剣術が表芸で柔術が裏芸の、小栗流を学んでもいますから。柔術と剣術とポールウェポンの薙刀。後に拳銃も所持。そういう意味では、総合格闘技というのは、本来の武術武芸の在り方に、近いんですよね。

■武芸十八般と紫綬褒章主義■

剣術も柔術も、競技化によって技術が飛躍的に進化したのは事実ですが、本来はもっとクロスオーバーするモノなんですよね。かのプラトンは、レスリングが強かったらしく、パンクラチオンを不完全なボクシングと不完全なレスリングと評したとか。ここら辺が、近代以降の体育が妙なセクト主義に陥った、直接的ではないかもしれませんが、間接的なルーツかも。武芸十八般を、以下にWikipediaから転載しますね。

①弓術
②馬術・騎馬術
③水術(泳法術)
④薙刀術
⑤槍術
⑥剣術
⑦小具足
⑧棒術
⑨杖術
⑩鎖鎌術
⑪分銅鎖
⑫手裏剣
⑬含針術
⑭十手術
⑮鉄扇術
⑯鉄鞭術
⑰居合・抜刀術
⑱柔術・和術
⑲捕手術
⑳もじり術
㉑しのび(隠形)術
㉒砲術

人によって挙げる内容は異なるので、18種類以上有りますが。いちおう、剣道も小中学校でやってた自分からすると、両手持ちの日本の剣術って、応用力が高いんですよね。剣術をしっかりやってると、槍術・薙刀術・棒術・杖術・もじり術のポールウェポン(中国だと長兵と呼ぶ)や、十手術・鉄扇術・鉄鞭術・居合術などの比較的短めの武器を使う武術(中国だと短兵)は、修得が速いんですよね。

■現代に生きる武術武芸■

組技系は、柔術・捕り手術・小具足が柔術でカバーできますし。そういう意味では、剣道と柔道が現代の武士といえる警察官で、必須なのは必然です。逆に言えば、武器術を前提とすると打撃系の技術は、メインとはなり得ない。柔術の体系に当て身が含まれるんですよね。さらに自衛隊員や海上保安庁の人間は、現代の武芸がこんな形で生きていると言えそうです。

・砲術(拳銃・狙撃銃・自動小銃)
・剣術(剣道)
・小具足/十手術/鉄扇術/(警棒術)
・柔術(柔道・空手・レスリング・サンボ・相撲・現代柔術)
・捕手術(逮捕術・合気道・サブミッションレスリング)
・杖術(機動隊員)
・槍術(銃剣道)
・もじり術(刺叉術など)
・馬術(白バイやパトカーの運転術・自衛隊の車両や戦車)
・水術(水泳・ライフセーバーの技術も含む)

やっぱり総合的ですね。現代では含み針や手裏剣は使う機会が少ないでしょうけれど。獣医が動物に麻酔を打つとき、吹き矢は使うようですが。あ、スペツナズ・ナイフは現代の手裏剣術か? 実は手裏剣術も剣術をやってると、修得が速いです。剣術の手の内と通じますし、小塚は剣の備品ですから。鎖鎌や分銅鎖はさすがに、現代では使いませんが。軍隊や暗殺技術として、ワイヤーを使う技術は、一部残っていますね。

馬術は、アメリカやイギリスの警官は今でも一部、使用していますし。現代という時代に合わせると、剣術・柔術・砲術が必修で、馬術相当の自転車・バイク・自動車・特殊車両の運転術、水術が選択必修でできれば理想的ですかね。日本では砲術は一般的ではないですが。通信術やら他の技能が必要なのは、現代ならではですが。身体文化としての剣道や柔道って、今でも重要で息づいていますね。

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