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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第84話

九月八日(日)

「まぁるくおさまった。」
と、ジンベエザメもホッとしている。

「ありがとう。ジンベエザメ。
 これでいいんだよね。ジンベエザメ。」

「これでいいんだよ。トキさん。」

 これでいいんだ。
 これでいいんだ。

「ねぇ、ジンベエザメ。私はこれからどうすればいい。」

 これでいいんだけど、どうしよう。
 わかんない。わかんなくなってきてしまった。
 そもそも、これでいいんだろうか。

「トキさんは、なすべきことをなしたんだ。」

「ありがとう。ジンベエザメ。
 けれど、まぁるくおさまっていいのかな。
 こんな小さくまぁるく収まっていいのかな。
 それで、おしまいでいいのかな。」

「トキさん。それでいいんだ。」

「ジンベエザメ。私はなんだか寂しいんだ。」

「トキさん、その気持ちはよくわかる。
 けれど、まぁるくおさまったんだ。」

「そうだけど、これでいいのかな。
 私は、なんとかしたい。」

 あの憎たらしくて、散々振り回されたあのぬるま湯が、なくなってみると、なんだか恋しい。


「ジンベエザメ。私たちはまた、あのぬるま湯を見つけないか。」

「トキさん。」

「それが、私たちの責任だよ。」

「トキさん。」

「ジンベエザメやってほしい。
 やってください。お願いします。」

「トキさん。」

「ジンベエザメ。私にも何か手伝えることはないか。
 いや、ジンベエザメ。私もやるんだ。
 ジンベエザメ。機械の操作を教えておくれ。」

「いや、トキさん。だめだ。それは俺がやる。」

「だめだよ。ジンベエザメ。
 交代でやろう。昼も夜も休むことなく掘り続けよう。」

 どれだけ硬い層だって、それも突き抜けて、何キロだって、何万キロだって掘ろう。


「トキさん。」

「出なかったら、また掘ろう。」

「トキさん。」

「ジンベイザメ。機械の操作を教えておくれ。小さい子供でもできるんだろう。」

「おぉ、そうだよトキさん。教えてやる。なんでも教えてやる。」


「ありがとう。ジンベエザメ。
 探そう。
 探し続けよう。」


 私たちは、探し続けるんだ!

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