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解決策は課題設定から生まれる

ある日小学生の男の子が一人で勉強できる場所が欲しいと両親に告げた。そう告げられた二人は少しの間顔を見合わせて、それじゃあと言っていそいそと着替え始める。あっけとに取られる男の子を置いて二人はそのまま出かけてしまった。これで一人で勉強できるでしょと言い残して。

男の子の気持ちを代弁すると「一人部屋が欲しいという僕の気持ちを察して欲しい」といったところかもしれない。でもこれはきっとお父さんもお母さんも察した上であえてやっている。微笑ましい話である。

では、ここで人から察するという能力が消え去った世界を想像してもらいたい。全ての人間がちびまる子ちゃんで言うところの山田くんになったような世界と言えば想像しやすいだろうか(むしろ難しくなったような気も...)。

この世界では人は他者の気持ちを察することができない。だから「一人で勉強する場所が欲しい」という男の子が提示した課題に対して、両親は当然の行動としてその場に男の子を一人残して出かけてしまう。

でもこれでは男の子の課題は何も解決しない。そこでこの世界においては可哀想だけれど男の子はもっと違う形で、つまり「一人部屋が欲しい」と両親に伝える必要がある。そうすることで初めて両親は本当の課題を理解して、一人部屋の用意という解決策を検討してくれる。

どうだろう。人間同士のコミュニケーションのあり方としてはかなり奇妙な世界感かもしれない。けれどこれを問題解決のプロセスとして捉えてみると、男の子の課題「一人部屋が欲しい」を明確にする工程は外すことができない非常に重要なものになる。

問題解決においては、課題を明確に定義しないと何も解決しない

例えば売上が悪いといった問題に対して、広告をたくさん打って認知度をあげる解決策をとったとする。しかし売上は少し上がったものの期待通りの結果ではない。だから今度は広告の何が悪かったのかという検証を始めさらなる解決策を打ち出す。このプロセスは一見問題があるようには見えない。

でも実は売上の低下はお客さんの数ではなくて、お客さん一人あたりの単価が下がってしまっていることが原因で広告は大きな効果もたらしてはいなかった、となるとこの先この会社が行う全ての改善策は的外れとなってしまう。もし自分の関わるプロジェクトがこういう状態だったら、と考えるとかなり怖い。

これはつまり「課題の設定」が間違っているから起こっている。本質的には男の子と両親の話と変わらない。まず「売上とはすなわち何が下がっているのか」を考えて課題を設定していないから、男の子を一人残して出かけた両親のような状態になってしまう。

そしてさらに悪いことにこのケースでは解決策に問題があるとして対策を考え始めてしまっている。恐らくその対策の対策はさらに的外れなものとなる可能性が高い。だってそもそもの課題にマッチしていないのだから。

解決策の良し悪しは課題設定の良し悪しで決まる

問題を意識した時にまず考えるべきことはどうやってその問題を解決するかではなく、まずその問題が抱えている本当の課題は何かを探ることで、それを怠ると解決しない問題を延々と考えることになってしまう。

もしかするとこの課題の特定を怠っても問題は解決するかもしれない。でもそれは偶然その解決策が課題と合致したからであって、同じことが何度も通用するわけではない。つまりこのステップを外してものを考えるということは、博打を打っているのと実はあまり変わらない。

これはそれがたとえ個人の意思決定でも、会社の意思決定でも、さらには政府の意思決定でも同じことが言える。本質的な課題を理解するまえにアクションに移してもそれは物事の解決に結びつかないケースが多い。(偉そうに書いているけれど、自分も結構やってしまう...)

優れたアクションを取ることができる人というのは言い換えると優れた課題設定ができる人であって、課題設定が優れているからそれに対するアクションは大きな効果を発揮する。これを解決策が優れているからとだけ捉えてしまうと、アクションから考える罠に陥ってしまう。

例えば難しい局面をアイデアで乗り切ったという話はよくあるけれど、実はそれは偶然成果に結びついたか、もしくは適切な課題設定ができていたからという話だとも言える。だからアイデア力を身につける前に「課題設定力」を身につける方が大事だと個人的には思っている。

この課題設定力に関しては"イシューからはじめよ"という本でかなり詳しく説明されている。効率的に優れたアクションを取り続けるためのエッセンスが詰まっているから、気になる人は読んでみてください。

最後にこの課題設定から考えるやり方はビジネスにおいてはかなり有用だけれども、普通の生活の全てにも適用することはあまりオススメしない。適度な無駄があるからこそ豊かな人生だと思いませんか。

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