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4.応答② 椎名保友 — 障害福祉の突端から見る社会

本書制作時の私の職場であるパーティパーティ(NPO法人日常生活支援ネットワーク)の椎名保友さんに、プレゼンを聞いていただいてからお話を伺いました。椎名さんは、大阪の障害福祉の中枢を成す団体のひとつであるパーティパーティで長年活躍しながら、各地の行政や市民団体から依頼を受けて、福祉を中心に防災やまちづくりやアートなど様々な話題で講演をされています。僕にとっては職場の大先輩であり、演劇の経験が活動のベースのひとつになっているという点が共通している方でもあります。さらに「父」という共通点ができたことで、普段からいろいろな相談をしており、今回の話についても所感を伺いたく、ゲストとしてお呼びしました。

(聞き手 茂木秀之)


共犯関係になる


―― まず、プレゼンを聞いていただいて何か思うところはありますか?

椎名 介助を贈与にする、ただの交換じゃないものにするっていう話はね、共犯関係になればいいかかもしれない。

―― 共犯関係?

椎名 公的な制度ができる前って、みんな無茶してたんだよ。障害者が街中にいるっていうことがまだまだ普通じゃないっていう中で、どんどん出かけてお店に入って、電車やバスに乗って、乗車拒否とか当たり前なんだけど、介助者も一緒になって文句を言うわけ。そうすることで街が変わっていった。

―― 出て行くことでやりとりが生まれて、関係が変わっていくわけですね。

椎名 物理的にも変わっていく。いちばん早くバリアフリーになるのは風俗だったね。ソープに三回行くとスロープができてた。

―― (笑)いちばん客を選ばない!

椎名 そうやって共犯で変えていった。それはもう明らかに、ケアする人とされる人っていうだけの関係じゃなかった。

―― だけど制度ができてそれも難しくなっていった?

椎名 そういう関係はなくなってきちゃったね。当事者も安穏としてるところがある。

あいまいな領域

椎名 学校の話が出たけど、養護学校が義務化される前は行ける子は普通学校に行って、みんなで助け合ってたんだよね。ご近所の助け合いもあったんだよ、障害者のことに限らず。今は近所に困ってるお年寄りがいたら「ケアマネさん呼んだら?」。

―― 助け合う前に専門家に。

椎名 でも、それはすごいことなんだよ。障害で言えば、全国的な制度ができるまでは、行政と交渉ができて、介助者のマネジメントも自分でできるような、ある種のエリートしか介助を使えなかったんだから。あとは作業所とか運動体とか、どこかの組織に属することが出来る人かな。福祉制度が使える人は、それぐらい限られてた。

―― 誰もが利用出来る制度という、目指してきたものが実現されてはいるわけですよね。だけど同時に、専門家への依存が加速している面もあるのでは。

椎名 そうだね。それでその自覚がない人が制度や仕組みをきちんと整えようとがんばってさらに加速させちゃったりする。

―― というと?

椎名 たとえばたんの吸引って医療行為なんだけど、家族がやるのは黙認されてた。で、こっそり友達に頼んだりもしてたんだよ。そうやってグレーゾーンで成りなってたんだけど、真面目な人たちが家族はやってもいいと正式に認めろと訴えちゃったもんだから、家族だけはやっていいっていう決まりが明確にできちゃった。

―― 真面目な人たちが(笑)。そしてグレーはぜんぶ黒になっちゃったと。まったくよかれと思って訴えてきたんだろうけど、実のところは、制度の使い勝手をよくしたいというより、あいまいさに耐えられなかったのかもしれないですね。

椎名 あいまいな領域をたくさん持っておいて、その中で選ぶってことが大事なんだけどね。それがないと、本当に自律的とか主体的というふうにはなれない。

学校とどう付き合うか

―― 学校といえば、障害のことからは離れますけど、親としてどう考えればいいか非常に難しいと思っています。椎名さんはお子さんが三人いて、いちばん上の子が森のようちえん(※)に行ってたんですよね?

椎名 うん。上の子は一人で黙々と創作するタイプだし、人と比較して、できることできないことを指摘されたら苦しむだろうから、森のようちえんは合ってた。

―― 二番目の子は、普通の幼稚園に?

椎名 いま通ってる。こっちは競争とか戦いとか好きだし、人に合わせられるから、普通ので合ってると思う。ただ、そこで個人が持つ資質を伸ばしてあげることができるかどうか、ということは考えるね。

―― どうするのがいいかは人それぞれってことかあ、当たり前だけど。その子がどんな子なのかを見て判断すればいいんでしょうけど、そう思っても公教育の中では選択肢が少ないですよね。

椎名 公教育に行かなくても、こうしたら生きていく力がつくって証明できたらOKなんだろうけどね。

―― あのおじいちゃんの家に通ってるとよくわかんないけど生きる力がついてる、とか。

椎名 そうそう。公教育を倒そうとしたら大変だけど、そういうことができれば基本的には誰も文句いえない。

―― 現実的に、いますぐ選びうるものからそうするには…

椎名 小中はなんとかテキトーに通って、そのあとは予備校で受験勉強して、カルチャースクールとか社会人サークルみたいなものに入るのがいいかもね。

―― 妻が家庭教師をしてるんですけど、生徒に日本人とナイジェリア人のハーフの男の子がいて。高校はインターナショナルスクールに行ってて、最近地元のジャズバーに通って大人たちにサックスを教わってるらしいんです。来年この店でライブするのが目標とかいって。

椎名 いいねえ、そういうのが理想かもしれない。

(※)森のようちえん:森や野山などの自然の中で過ごすことを主体とした保育活動、幼少期教育活動などの総称。北欧諸国で生まれ、世界各国に広まっている。活動形態は保育園、託児所、育児サークルなどさまざまだが、ここで話題になっているのは大阪府下の幼稚園。


「アートと福祉」?

―― 僕は不思議と、障害福祉とアートや演劇に縁があります。椎名さんも芸大を出て、演劇の制作もされていました。障害者という存在にも、アートにも、現代の呪術のような性格があると思います。日常を異化して、外部の力を呼び込むような。一方で、ここ数年「アートと福祉」みたいなことが盛り上がっていますが、どうもおもしろくないと感じています。椎名さんはどう見ていますか?

椎名 まあ要するに、どちらの陣営も、地方の法人主体な福祉がつくる仕組みの話だよ。

―― えっと、わかる人にはわかると思うので、何のことかは説明しません(笑)

椎名 どっちもまったく地域福祉後進地方で、自立生活なんてぜんぜんないわけ。

―― どちらも居宅の支援はやってませんしね。

椎名 居宅やってないとキラキラしてられるよね。

―― (笑)キラキラしたもので町おこししましょう、ということか。

椎名 ただ、地方はそうせざるをえないということもある。自立生活運動っていうのは都会の話で、地方のインフラじゃできないんだ。だから障害福祉を自立生活運動だけの話にいちゃいけない。地方は自分の文脈で、何かしらの物語を立ち上げないといけない。

―― そうか、その物語の中でいま「アートと福祉」がヒットしてるわけですね。

椎名 その物語をどう持続させるかも問題で、地元に語れる人がいないから東京や大阪とか、あるいはその事例が盛んな場所から人を呼んじゃったりする。でも地元の人が語っていかないと、その土地の物語は途絶えちゃうんだよ。

―― 地方の問題って、ただ人が出ていっちゃうとかいろんなインフラが弱いとかいうだけじゃなくて、物語の語り手や文化の担い手がいないっていうことが大きいのかもしれないですね。それにしても、物語の必要性があるにしたって、あれをアートと呼ぶのって…

椎名 アートではないよね。セラピーだよ。

―― (笑)実際エイブルアートは自分たちでもそのように説明してますね。表現を通じて障害者が活き活きすることが目的なんだと。

椎名 だからセラピーだってちゃんと言えばなんの問題もないと思う。先駆的な表現としてのアートっていうことで言えば、地域で暮らしてる障害者の日常のほうがよっぽどアートなんだよね。

―― 施設の中で起きたことを学会とかで発表してるのと、ソープに三回行ったらスロープができたのと、どっちが先駆的な表現かっていうことですね。

椎名 アートと福祉とか言ってる現場で働いてる芸大美大出身な若い人ともよく会うけど、悩んでるよ。悩むのも当然だよね、自分の作品つくってないんだもん。

―― 利用者がつくるのを手伝ってばかりですもんね。キュレーターとかならともかく、作家ならいかにもフラストレーションたまりそう。

椎名 だいたい、アートの感性を福祉に活かすとか言うけど、アーティストで介助やってる人は昔からたくさんいるんだよ。うちのサポーターさん(非常勤の介助スタッフ)なんか本当に多い。

―― それで黙っていい仕事してきたわけですよね。

椎名 そう、言わなくたってその感性は活きるから。アートと福祉とか言ってる人はアートもできてないし福祉もできてない。

―― うーん、辛辣ですけど、それはたしかにそうだ…

椎名 茂木くんはうちに来てよかったよ。茂木くんの長所と、大きくなって混乱も出てきたうちの活動を整理していってほしいというニーズが合致したから。いい仕事してください。

―― はい(笑)

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