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森見登美彦 著「夜行」考察その2

前回のその1では、書かれていることを時系列にまとめて、頻繁に使う言葉を定義しました。ここからは考察に入りたいと思います。作品には不思議なことがたくさんありますが、まずは「ホテルマン」「中井さんの妻」について考えます。

2020/09/02 編集:「きつねのはなし」の詳細は削除しました

注意:これより下には小説「夜行」のネタバレがあります。

怖い話も、読み進んでいくうちに「実はAはBを恨んでいた」など、裏の線が明らかになっていくのですが、「夜行」場合は何がどうつながっているかがよくわからないところが多々ありました。そこでいくつか仮説を立てて、それで話が壊れないかを考えます。仮説といってもタイムマシンとか全能神みたいな何でもありのものをもってくるのは面白くないので、なるべく「夜行」ワールドに近いものに留めようと努力します。

ホテルマンは誰だったのか

最初読んだとき、まったく解決されなかったのがこの人。最初から最後まで汗かいて怯えて、最後は致死傷を食らう。あまりにもかわいそうです。後半明らかになるかと思って読み進んだのですが、私の理解ではこのホテルマンと妻、という関係と、中井さんと妻、というのが関係ありそうだけどよくわからないという不満が残りました。読み返すと、彼らの見る夢が重なり合っていたり、山陽本線ですれ違ったりしています。そこで考えられる仮説は

仮説1:ホテルマンは別の世界(夜行世界*)から来た中井さん

ここで夜行世界*って?となりますが、私が読んだ後のもやもやを晴らすために考えた仮説がどうしても必要になります。多分今回の解釈の中で一番大事な仮説です。

仮説2:夜行世界は多数存在する。曙光世界はただ一つ存在する。
パラレルワールドのようでもあり、各世界で人に起こっていることが同期しているようでもあるので、それぞれの人が内側に持つ夜の世界という意味もありそうで、それは夢に近い世界のよう。

この作品のあちらこちらで’’世界はつねに夜”とか、”世界は無数の魔境の総体”、という表現があったと思います。あと最初理解できなかったのが、いろんな人が夜行変換をして別な世界に来ているようだけれども、その世界にいる大橋さんが見たのは「夜行」なんですね。ということは、無数の夜行があり、それらが神話的四畳半のようにつながっているのでは、と仮定してみました。この、夜行を抜けた先は夜行だった。あるいは、夜行の中で夢を見ていて、覚めても夜行なのかな、と。作品中には、「夢の中」ということを思わせる表現が夜行遭遇後に出てくるのですが、どちらが夢かはっきりしないので、夢も”別な夜行世界”とすると、私の頭はとりあえず落ち着きます。曙光世界はただ一つ、というのは最後のほうにあった「ただ一度きりの朝」の解釈です。

これを補う形でもう一つの仮説が

仮説3:夜行世界の間には魔境がある。
見方を変えると、各世界の周りはどれも魔境に満たされている。
人からすると、魔境は夜行列車の窓のようなものであり、あちらの世界はそれに映る夢か、はたまたこちらの世界が夢か。。。

中井さんの妻は夜行銅版画を見たのか

夜行世界が複数存在すると仮定すると、まあ一応4人の話の後になぜに集まったのかというのが説明できるとします。そうすると飛騨・津軽・天竜岬の夜行遭遇・周囲の人が変わる・夜行変換という流れが言えそうなのですが、よくわからないのが最初の中井さんの妻です。中井さんが4月より前に版画を見ているのならわかるのですが、この場合は尾道に行ってから見ています。ホテルマンが毎日版画を見ていたので、異世界的同一人物の中井さんにもその効果が来たのか?ということも考えられるのですが、それよりも私は”水の音”が気になりました。妻が聞いていた水の音、そしてホテルマンや高台の一軒家でした厭な匂い。これは何か奇怪な存在を思わせます。そこで

仮説4:鬼(魔、魔物のようなもの)に、ホテルマンと中井さんの妻は憑かれた

詳しくは書きませんが、「きつねのはなし」を私は第一話尾道で思い出しました。中井さんとホテルマンが会う飲み屋は「きつね」です。

長谷川さんも何かに憑かれていた、と思うのですが、水の音を感じないので水属性の鬼ではなかったんでしょうか。。。ただ、藤村さんが子供時代に遊んだ佳奈さんは池のそばにいて「魚のようだった」とか、武田さんが夜行変換後に美弥さんに会うのが温泉など、水、関係ありそうだけどさすがに考えすぎですね。

次回以降、これまでの仮説をふまえて、ほかの話・謎を見ていこうと思います。

今回のまとめ

この作品は伏線に対して明確な回収が行われないところがあるように思われ、それをまとめるために、いくつか仮説を立ててみました。

仮説1 ホテルマンはほかの夜行世界から来た中井さん
仮説2 夜行世界は複数(多分無限)存在する
仮説3 夜行世界の周りは魔境に包まれている
仮説4 ホテルマンの妻、中井さんの妻は鬼に憑かれた

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