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[修行日記➉] 大庫院(だいくいん)②

 大庫院での修行は食事を作る事です。
一 仏菜(ぶっさい)(仏様にお供えするお膳)
二 修行僧の食事、小食(しょうじき)(朝食)・中食(ちゅうじき)(昼食)・薬石(やくせき)(夕食)
三 戒号膳(かいごうぜん)(お客様用の特別なお膳)
この三つを作る事が主になります。
 修行僧の小食はお粥・漬物・胡麻塩の三品、中食はご飯・味噌汁・漬物・おかずの四品、薬石はご飯・味噌汁・漬物・おかず二種の五品です。当然、成人男性が一日に必要なカロリーは無いので三か月位は経験したことのない空腹に悩まされ体重が五キロ減りました。逆に良いこともあって体の内側からキレイになったのか一年が過ぎるころには肌がモチモチすべすべになっていました。
 永平寺には、全国各地の方からの御寄付が届けられていました。清掃で使う手縫いの雑巾、米、野菜、果物。どれも気持ちのこもったありがたい贈り物でしたが人参が一トン届いた日は騒然としました。当時は※1小庫院(しょうくいん)がありましたので分けていただきましたが、食事の献立はすべて※2典座老師(てんぞろうし)が考えていましたので、さすがに頭を悩ませていた様子でした。人参は基本的に皮を剥きません。皮を剥かなくても柔らかく美味しく食べられるように工夫して調理します。これは三心の中の「老心」、つまり子供や孫を必要以上に心配をするように他の人に対しても懇切丁寧な思いやりの心を持つことに繋がります。典座老師はこのニンジンを修行僧達が飽きないように煮物・和え物・天ぷら・きんぴら等に調理していました。その期間、唯一定番だったのが人参を炊き込んだ「人参ご飯」。ご飯からニンジンが消えた時「あの人参を食べきった!」と他の寮舎の修行僧たちも感じていたはずです。
 当時、修行僧の間で人気だった料理があります。それは「揚げしめじ」です。材料はしめじ・茄子・油揚げ・ポン酢。しめじと茄子は素揚げし油揚げは油抜きしてさっと焼きポン酢で和えるというシンプルな料理です。揚げたしめじと茄子の食感、焼いた油揚げの香ばしさ、ポン酢のさっぱりとした味付けが印象強く残っています。たまに当時を思い出し作ってみますが、美味しいけれど何かが違う。厳しい修行中に食べた「揚げしめじ」の美味しさには遠く及びませんでした。(第十一回に続く)

※1 お参りに来られた方が宿泊する「吉祥閣」での食事の調理を担当する寮舎。現在は大庫院が担当している。
※2 大庫院で修行僧らの食事を司る要職。

本山での規則、指導内容は当時のものです。


大庫院前にて撮影したもの

齊藤崇広
平成2年新庄市生まれ。曹洞宗大本山永平寺での修行を経て、現在は横浜の寳袋寺で納所中。


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