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深い深い海の底 レプンカムイ

久しぶりの投稿となります。レプンカムイです。
この度、国立研究開発法人海洋研究開発機構、通称JAMSTECの若手人材育成プロジェクト「ガチンコファイト航海2020」のクルーに選出され、実際に参加して参りました。
 航海を通して、新たな知見を得、古き自分に別れを告げて、人間として一回り成長したと確信しております。この航海の素晴らしさについて語りはじめたいところですが、これについてはTwitterで「レプンカムイ」宛に直接ご質問ください。

 さて、前回の「あぶら」にて紹介したように、深海には圧倒的な水圧と貧栄養の極限環境を耐え抜くために発達した機構を持つ多様な生き物が生息している。今回参加した航海においても、熱水噴出孔付近に生息し、化学合成細菌(硫黄などからエネルギーを作る)をそのエラに宿して共に生きるアルビンガイ(JAMSTECのInstagramで是非ご確認ください!) のサンプリングを行った。残念ながら、貴重な研究材料であり、安全性の確保もなされていないことから食すことは叶わなかったが、こぶしほどの大きさの殻に詰まった身には深海の味が詰まっていることだろう。


 代わりと言っても珍しいことだが、今回の航海中、同乗した学生の提案により実現した、深海の圧力で調理された超圧縮蜜柑、そして300℃を超える熱水噴出孔で行った深海焼き芋を紹介したい。いずれも安全性には十分に配慮したうえで行っているため、安心していただきたい。

超圧縮蜜柑[水深:約1,300m,水温:約7℃]
 水深10mで1気圧(我々が普段受けている気圧)と同等の水圧がかかる。つまり、100倍以上もの圧力にさらされた蜜柑は、潰れてぐちゃぐちゃになると思う方も居るのではないだろうか。心配はご無用。蜜柑の中にも水分が豊富に含まれており、内側と外側の液体部分は均衡を保っているため、全体として潰れなくなっているのだ(皮や筋は単なる繊維なので潰れる)。
 この超圧縮蜜柑は船内で冷凍保存されていたもので、しんかい6500(JAMSTECの保有する有人探査艇)へ括り付けて深海へ沈めていった。潜航後の実際の写真がコチラ。

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多様のシワが見られるものの、先ほど説明した通り原形は保っている。海水からの保護を目的として袋内に注入しておいた純水(無味無臭)には、少し色がついており、蜜柑の香りが抽出されていた。
実食。蜜柑自体の甘味が最大限に出されている、ということは無く、スキー場で食べるカレーと同じく、その場所で食べる付加価値という美味さがあったように思う。しかし、実際に糖分が凝縮されている可能性は大いに考えられるため、冷凍保存されていない新鮮な蜜柑であればよりおいしいと感じるかもしれない。
抽出されていた蜜柑汁は、蜜柑のアルベド(白い筋の部分)の味がした。勿論、美味しい飲み物ではないが、アルベドにはビタミンやポリフェノールが含まれているため、健康的ではあるだろう。

深海焼き芋[水深:約1,300m,水温:約300℃]
 熱水噴出孔とは、簡単に言えば「深海の温泉・生命の泉」といった感じであろうか。ただ、硫黄などの陸上の温泉でみられる成分に加え、その熱の高さ(日本では稀だが、優に300℃を超える水温)により溶出する金属成分も豊富である。また、生命の泉の名の通り、貧栄養の世界で生命をはぐくみだす母なる源泉でもあるのだ。
今回は、この熱水噴出孔の約300℃の熱に、アルミホイルで巻いたサツマイモをかざし、焼き(?) 芋を行った。調理中、恐らく深海の熱水中の成分とアルミホイルが反応し、多量の水素と思しき期待が発生していたが、健康に害はないと思われる(食べたクルーに影響はなかった) 。
実食。300℃を超える熱水噴出孔とはいえ、周囲はただの海水であり、混ざり合う場所では低温になってしまい、均一に熱を通すことは難しかった。そのため、芯まで熱は通らなかったものの、完成したのがコチラ。

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皮がむける程に熱を受け、スイートポテトのような香ばしい見た目をしている部位が見て取れるが、熱水噴出孔での化学反応を経由した何らかの物質の苦い(深海のように深い…不快?)味になっていた。適度に川の残っている内側は好評で、普通の焼き芋という感じであった。実際、船上でクルーは「美味しい、美味しい」と食べていたが、泡を吹きだしている一部始終を見ていた私は、小さな欠片を二つ食べ、食べるのを終えた。(良い子は真似しないでね)

今回は、少し長くなったが、深海の特性を生かした調理及び実食をご紹介した。何年後になるか見当もつかないが、皆さんが普通に深海に行けるようになったころには、深海圧力クッキングの時代が到来しているかもしれない。

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