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人生はいくつかの”係”でできている

歳を重ねるたび自分の”係”が増えていく。
学生時代は、学生・娘・部活やバイト先でのポジションなど軽く見積もって3つくらいの係をこなしながら生きていた。
しかし、社会人になり結婚してから自分の”係”が一気に増え、本当の自分をどこで息抜きしたらいいのか分からなくなっていた。

西加奈子さんの短編小説である「おまじない」に出てきた「孫係」という話から、人生を進めていくごとに増える、自分の役割(この小説を参考にして”係”と呼びたい)と本来の自分とのバランスについて書きたい。

この数年で、学生係から社会人係に変わり、親が再婚したので新しい形での”娘係”が増え、結婚したら新たに”妻係”が加えられ、舅、姑がいるので”嫁係”も加わるなど、ここ数年で立場に合わせた複数の係が一気に増えた。

もちろん全部良い人生のステップで、いまのところこの数年で増えた関係者との関係性は良好に築けていると思う。
家族は血のつながりだけが全てじゃないと思うほど、新しい家族の存在は大切だ。

しかし、良い関係性を築きたいと思えば思うほど、本来の自分に負荷をかけてしまう。
新しい家族の前では、例えば食事をする際、苦手な食べ物が出てきたり、満腹でもう食べれないと思っても、せっかくなので平らげないと!!と思って何が何でも無理してでも食べきる。
新しい父親の前では、娘として甘えた方が喜んでくれるのかな?と思って、甘えてみたりもする。



このようなことは、誰もが経験のあることだと思う。
恋愛ではあるあるだ。”相手が望む自分でいられるように”と無意識のうちに少し負荷をかけて生きている。
ありのままの自分を貫いている意志の強い人もいるとは思うが、社会を生き抜く中で、”相手が望む自分”でいたほうが楽なこともある。

しかし、いい子に見られたい、相手に気に入られたい、と思って本来の自分と違う振る舞いをすることに、性格に裏があるとか、何だか相手を騙しているように思ってしまうときもある。

でも西加奈子さんは小説を通じて、”いい人でいたい自分と本来の自分との違い”があることを認めてくれた。

素敵な一説を引用してみる。

”それは誰かを騙しているのとは違う。騙して、それで得をしようとしているのではないのだから。ここが大切です。
つまり、得をしようと思って係につくのはいけません。
あくまで思いやりの範囲でやるんです。
その人が間違っていると思ったら、そしてそれを言うことがその人のためになるのだったら言わなければいけないし、相手を傷つける覚悟を持って対峙しなければいけない。
でも、その人が間違っていないとき、ただ性格が合わないだけだとか、
その人の役割的にそうせざるを得ないんだなぁと分かるときは、
その人の望む自分でいる努力をするんです。”

西加奈子(2021)おまじない. 筑摩書房:東京, pp82-83.

少し難しい表現かもしれないけれど、
私はこの一説に、救われた気がした。

人生で増えていく自分の役割を”係”だと思って、”係”を務めるにあたって出てくる愚痴や、本来の自分の姿は、心から信頼できる人だけに思いっきり見せる。
そうやって、本来の自分の姿を出す場所があるからこそ”係”も頑張ることができる。


少し重荷な人生での役割は”係”だと思ってこなすだけでも何だか心が軽くなる。


繊細な感情を分かりやく表現してくれた西加奈子さんの小説、出会えてよかった。

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