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南瓜のポタージュ


南瓜のポタージュ

私が人生で一番美味いと感じたスープは、仕事で口にした南瓜のポタージュである。
取材を終えた私は、そのままホテルで行われる懇親会に参列した。
フォーマルなイベントであったため、懇親会も立食ではなくコース料理を振る舞われた。
本来ならば己の席に隣接する、他社から参加した記者との会話を盛り上げねばならぬ所だが、目の前に並ぶエビやらサーモンやらが積み重なったなにか…前菜、またはオードブルなどというやつを前に、私の意識は食事のマナーにばかり頭をもたげていた。
なにか粗相をしてはいないかと不安の最中、次に運ばれてきたのは南瓜のポタージュだった。私はそれを口にした瞬間、その美味さに思わず顔を綻ばせてしまった。
笑みがこぼれるほど美味かったのだ。
その様を隣接した記者が見たようで
「このスープ、とっても美味しいですよねぇ」
と、語らいを持ちかけてくれた。私はポタージュがもたらした綻びにより、それから恙無く会話を弾ませることができた。
フランスでは食事の時間を大変貴重に扱い、何時間もかけて料理を口にすると聞く。
その中で大切なのは料理の美味さと、コミュニケーション。この二つが揃っていないと、それは魅力的な食事ではないのだろう。
美味い料理を前にすると、人は真っ裸になる。
そんなことを、私は南瓜のポタージュを見る度思うのだ。

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