ねむるまで 春夏秋冬


浮遊 雲を纏う
上昇 とめどなく
下降 急激に
停止 突如
浮遊


列を成す
夢の形を握りしめ
たった五円に
ご縁はあるか
列が脈々伸びたるそれは
参道 産道 大いに賛同
千眼 泉源 人間宣言
私は立派な人間に成る


梅のほころびは
春と共にやってきて
鬼を追い払う



 気分は昇ったり降ったりする空気のようなものだと思うが、それは春、周囲を巻き込みながら暴力的に踊り狂う。
   新たに人と出会うことが苦手な私は陽気な風に乗って、そういった新しさを容赦なくぶつけてくる春を、春を恨む。
 節分とは春の訪れと共に紛れ込んだ悪いもの、つまりその具現化である鬼を排する行事。
   私は毎年、うまく排せていないようだ。鬼は鬼の姿をしているとは限らない。
 梅の蕾が膨らみかけた時から絶望が止まず私はひとり冬眠する。
    誰からも求められずに洞窟や土の中で、新しいものに触れずに生きる。
    例えそれが、ただ生きながらえているだけであっても。
    惰性を愛したい。私は刺激と真逆にいたいのだ。
    意識を手放したい。私は孤独で構わないのだ。
 参拝。祈願。孤独祈願。
 春一番。暴力的な出会いが今日から始まる。
 春眠。寝逃げ。



******



               エスカレータから
             降りたい
           でも
         私はここから
      動けなくて
   何もしなくても
上昇



↓こ      ←
 のるわま外案もて
 世案いてきでうく
 は外る   そな
 おじ    ずい
 前ゃ    必が
 がな    る私
 いくて必ずまわる
 なくても案外まわ↑

 

生の意味を考えてみたものの、そんなものが何であろうが如何であろうが、この世界に貢献したであろうが人を貶めていようが、生まれたからには必ず死ぬということが分かっているから、無常。
終わりへのエスカレーターに乗って上昇、及び下降していても、その速度も知れぬ故恐怖する、なんて時もあったのだが、老化という全自動運動は止められる訳もなく、無常。
世界から私がいなくなったところで普遍的に日常がまわることを私は知っているが、それにしたって「じゃあなんで生きてるの」と、まだ生きているのに切なくなって、しかしながら本当に死んだらそういった思考すら叶わないことを私は知っているから、無常。
何も思わなくなる。何も想わなくなる。
情がなくなる。無情。それは無常。
日常の無常を私は知っている。睡眠。
これは死ぬための練習。



******



発熱。
半濁。
火照り。
粥を煮る音。
包丁のリズム。
お母さんの気配。
洗濯物の香。
微睡む。
半濁。
解熱。


帰りたくない
帰りたい
自分の家に
帰りたくない
自分の家に
帰りたい


 私には前世の記憶がある。
 のかもしれない。
 生まれ落ちたこの家庭で、どうにも自分の居場所がなくて、腹を痛めてくれた母親はいくら努力しても他人に見える。
 父の顔なんて、瞼を閉じると途端に薄らいで、私は顔を思い描けなくなる。
 食卓での他人行儀を隠すため、陽気におかずをこぼすフリ。
 コラコラと苦笑いする父母。
 ヘラヘラと笑う私。
 ヘラヘラと笑う父母。
 きっと前の世界で、私と今の両親は、全くの他人だったのだろう。
 それも、文化も環境も違う異国の人で、前世の私も、彼らも、互いのことなんてちっとも知らずに生涯を終えたのだ。
 本当の、本当のママ、パパ。
 私はここです。



******



夜の水。
全てを秘める。
全てを包む。
揺蕩う。
身体の内側で。


音を消したテレビ。
青白い光。
顔に浴びるテレビ。
意味はない。
中身もない。
誰もいない。


朝の音。
配達の音。
絶望。
朝の匂い。
僅かな希望。
絶望。間。



 水って神様みたい。
 喉を潤すときにも、排泄をするときにも、入浴をするときにさえ側にいる。
    どこにでも存在していて、なくなってしまうと大変困ってしまう。
 それなのに、ちっとも意識しない。
 空気中にも、私たちの身体の中にも存在していて、私たちはその水のおかげて生きることができるのに。私たちの命を循環してくれているのに。
 だから、人間が水に対して敬意や恐れをすっかり忘れてしまうと、たちまち水はお怒りになって私たちを簡単に殺す。
 青白い顔で水害についてのニュースを見る。
 津波、台風、干魃。
 水は私たちなんてたわいもなく排せる。
 そのことを忘れてはいけない。
 表と裏。希望と絶望。生と死。
 拝む。一杯の水に。



******



 

↑     も  ↑
↑    度で  ↑
↑   は0ま  ↑
↑  の和8つ  ↑
↑◎三形の1い  ↑
↑ ①角角やも  ↑
↑  ②内ずで  ↑
↑   ③必こ  ↑
↑    ④ど  ↑



近く。
遠く。
声。
遠く。
近く。
誰。



辛いデトックス。
発汗。
調整。
一息。



 全くもってどこに行っても、地球の裏に行っても、宇宙に行っても、過去でも未来でも、変わらない普遍的なものが欲しい。
 きっとそれを永遠という。
 永遠ってなに。永遠は幸せなのかな。
 終わりがあるから愛おしいし、終わりがあるから悲しいし。
 遠くにあるから近くがわかる。
    近くを知っているから遠くがわかる。
 普通があるから刺激が新鮮。
 刺激を知るから普通は安心。
 人間は馬鹿だから、無くした後に大切なことに気がつくから、永遠を手にしてしまうと、全てに愛を感じられなく成るんじゃないか。
 手にした人は幸せかな。どんな心地かな。
 それを完全というのだろうか。
 それは完全といえるのだろうか。
 私は今日も三角形を
    そんな風に見つめてる。



******



 はやくねむれ
 おきていると
 じぶんのことが
 どんどん どんどん
 きらいになってしまうから
 きらいだ
 じぶんがきらい
 だいきらいだ
 しこうをはやく
 てばなせ
 きょむを
 てにいれろ
 でも
 だって
 わたしが
 わたしをきらいなのは
 ずっと ずっと
    まえからの
 しんじつ 
 

 大変に悲しいことがあって、私の心はフォークでぐちゃぐちゃにされた。
 切る目的で作られていない道具で傷つけられるとこんなにも痛いのか、と致命傷。
 何気ないものが一番痛い。
 悪気ないものが一番怖い。
 布団の中でもんどり打って、呼吸困難になって、その感情をなんとか落ち着かせて。
    そうしたら今度はぶり返したように、胸を抑えて、自分の心臓どころか、全身にフォークが突き刺さる。
    首を絞められている気がするが、それは自分がうまく呼吸できていないから。
    自分で自分を殺している。
    自分が自分を殺している。
    自分の自分による
    負の自給自足をやめろ。
    花はもう、実をつけて枯れた。
    それでも私はフォークの先に怯えて候。


 

******



 言葉は
 巡り巡って
 戻ってくる
 鮭みたい
 帰巣本能
 だって
 その言葉は
 あなたが
 生んだのだから


 夢なんて
 見たそばから
 忘れるもの
 そういうもの
 起きていたって
 すぐに
 忘却



 白い兎を追いかけているうちに、是れが夢物語であると悟った。
 気がついてしまうと、出会う全ての人が私の日常を基盤に作られていて、追っていた兎は私自身だった。
「ねえ。何を慌てているの?」
「接待に遅れそう」
「それってそんなに大事なの?」
かつて同様のことを誰かに言われた気がする。
    そして今、私は白い私に同様のことを尋ねた。
「そんなことは、私が一番知っている」
かつて同様のことを誰かに言った気がする。
    そして今、白い私は私に同様のことを発した。
 夢なんてない。いつだって此処は現実だ。
 願うことを夢と云うなれば、どうして意識を失っている間に見るこの夢は、自分の願いとは関係なしに展開するのだろう。
 夢なんて幻だ。目覚めても幻だ。
 常に。其処は。幻。


******



トタン屋根。
粒の落下。。
土の匂い。。。
雨。。。。


紫陽花。
曇天の隙間。
木陰の涼。
初夏。


嘘つきが言う嘘は真
それは正しい?
それが正解?
多くが赤というと
それが赤?
どうみても
青なのに?


 紫陽花に色が灯るころ、空は大抵ねずみ色。
 世界が鉛に染まる中、力強いあの赤や青の集合は心を燃やしてくれる。
 あれは土がアルカリ性だと赤色に、酸性だと青色の花びらになる。
 理科の実験で行なった、リトマス紙の結果と逆。
    あべこべ。うらはら。正反対。
    人生も、習ったことと反対ばかり。
 バスを待つ私の傘にノックする雨。
    この世で最も重力を感じるのは雨音だ。
    時に小さく、時に激しい、あの水の粒が。
    まるで肌身に直接触れたかのような、
   瑞々しさや、鋭さすら、音を聞いただけで体現できる。
 軒下の猫は雨宿り。
    カエルはその身に重さを浴びる。
 重さに逆らえなかった水たまり。
 愛おしい水たまり。
 空から雨が落ちてくる。



******



愛は呪い
呪いは熱
熱あるものは
全て呪い
冷たさとは
その逆なのだ


蚊取り線香
静かな笑み
風鈴


都会には
人間がいない
街には
ロボットがいる
心を失った
元人間
オツカレサマデス

 灼熱の太陽に照らされ続けたコンクリートは、日が暮れると仕返しをしてくる。私は彼奴等の内に残った太陽の熱で、全く快眠できない。
 この呪いにも似た、恨みにも似た熱は四肢を絡めとり、ゆるく、しかし粘着性を孕んで自由を奪う。
 ヒートアイランド。都会はなお深刻。
 身の毛もよだつ蚊の音色。夜遅くにお疲れ様です。
 ドウにもコウにもいかない時は、保冷剤の快を味わうのだけど、昼間の日差しを浴びせられたコンクリートが遣る瀬無い。
 彼奴等の嘆きがドウにもコウにも心苦しくありまして、いつも彼奴等を受け入れちゃう。
 今宵も私は眠れない。
 風鈴が身を捩る。
 都会の呪いを五体に受ける。
 蚊が鳴いている。
 コンクリートも泣いている。



******




潮風

都会
幻の


まるい。
まるい。
きいろ。


誰かに包んでほしい
タオルケットで
端同士を結びつけ
風呂敷みたいに
包んで欲しい
途端に私は
物になるから

 タオルケットの中にこもって泣くと、
    空間が潮まみれになって海が生まれる。
 夜更けにさめざめとしていると、
    ふいにこの幻の海に出会えて、
    悲しみが少しだけ和らぐ。
 もう何も信用できなくて、
   自分自身も信じられなくて、
    いっそ海底に沈むことができたら。
    底で密やかになりたい。
    止め処なく、気持ちが沈む。
 そんな風に、心から海底を望むような時でないと、
    この海は現れない。
 波はちっとも立たない海で、
    まんまるいお月様がぽってりと浮かんでいる。
 波紋のように広がったその淡いひよこ色が
   心を凪色に染めてくれる。
 私はいつも、この海に感謝する。
 でも、できることならこの海に
    出会わないような日々を過ごしたい。



******



濡れた髪。
乾いたシャツ。
甘い疲れ。
歴史の念仏。
緩やかな呼吸。


肌寒さ。
毛布の感触。
抱きしめる。
丸くなる。


秋の中に
ふいに冬
早すぎるけど
準備もあるから
もう来た
そうか
お入り


  この世でいちばん心地よかった睡眠はなんだと問われれば、それは水泳を終えた後の授業と答える訳で、あの何とも言えない痺れた疲れと、水中で冷えた身体が夏の空気に触れてほっこりした、身体。開け放った窓からそよぐ風が、教室中を巡って掲示物やノートを擽る。歴史の先生はとても高齢で、抑揚のない声で淡々と授業を進めるものだから、それは最早幼い頃耳にした子守唄の如く。一種の催眠術的授業であり、私はあれ以上の心地よさをまだ知らない。
 ではその次によかったと思う睡眠はなんだと問われれば、それは秋口。残暑を越えた頃、ふと床に着くと部屋の隅に冬のかけらが落ちている。私はタオルケットだけで眠っていた敷布に毛布をプラスして、どこか寂しげな冬の匂いのする空間で、タオルケットと毛布にくるまって、久方ぶりの「あったか〜い」を感じる。これが次に心地よい。



******



下に 下に。
やきたてのパン。
包まれて。
う宙。


しき布とん
沈むぜんしん
早よねろ
はよねろ
ねたふり
しだいに
にゅうみん


また
あした
あさって
しあさって

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