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作品紹介:自傷アンソロジー

 「自傷」アンソロジー。何とも不穏なタイトルですね。今回はこちらの紹介をさせていただきます。まずは本書について。

題:『自傷アンソロジー 空虚な自己を抱えて』
(以下敬称略)
参加者:千羽稲穂 / 末千屋コイメ / 明巣 / 東雲桃矢 / みぐゆ /
    戻 / 新庄透子 / ともながあきの(主催)/
カバーデザイン:斎藤 さい

 昨年、私が参加したアンソロジーの一つです。参加者の身分で言うのも変ですが、とてもとても良い一冊なので、それぞれの作品の紹介のような感想のようなものを以下に続けて行きます。(網掛け部分は私の独断と偏見によるキャッチコピーです。)

『ブラック・ボックス』 作 千羽 稲穂

大人にはわからない。クラスのみんなもわからない。
わかっているのは、あたしだけ。 

 学校と言う名の閉鎖的かつ独特な集団の中で、不器用に息をする少年少女の物語です。一つ一つ丁寧で繊細な筆致で描かれています。学校生活の陰の部分に視点を置きつつも、ささやかなよりどころに温もりを感じる作品です。決して長くない物語ですが、短編映画でも見ていたのかと思うくらい、長い間この物語に没頭していたような気分にさせてくれます。

『茨に寄り添う蜂』 作 末千屋 コイメ

目に見えるものが全てじゃない。
本質は、真実は、目には見えない。

  傷の見方を変え、全く新しい物に変えてしまう物語です。全世界が思いつかなかったであろうことをしてしまう、それがこの物語の中心です。それを本編を知らずに知ってしまうのはあまりにももったいない。是非、実際に読んでみてはいかがでしょうか。登場人物のコミカルなやり取りが面白く、それぞれの持つ魅力に引き込まれます。発想の大勝利ばかりが目に付いてしまいがちですが、時折見える暗い影が印象的です。

『スタンドバイミー』 作 明巣

誰よりも近くにいるはず。
ただ、誰よりも遠いのはなぜだろうか。

 自分自身を傷つけるのは、刃だけではない、から回る思いが交錯する物語です。某有名映画の邦題だと真っ先に思うかもしれませんが、それは置いておきましょう。とにもかくにも、実にこの物語にピッタリのタイトルなのですから。この作品は今までの二作品とは一風違う物語です。闇を感じるような描写はほとんどありません。誰がどうしてどのように、自分自身を傷つけているのか。それを考えると、この物語が表す物悲しい真実に近づけるかもしれません。

『復讐は悪魔と共に』 作 東雲 桃矢

クソみたいな日常を送っていたら、
ユメみたいな非日常に憧れて当然でしょ。

 いじめられてばかりの主人公が悪魔と手を取り、いじめっ子たちに復讐していく、スピーディーかつ爽快感あふれる物語です。読み始めたらその勢いに巻き込まれること間違いなし。ド派手で過激なシーンが盛りだくさん。エンタメ性抜群で最高にエキサイティングな作品です。喩えるなら、ジェットコースターとでも言いましょうか。終着点になにがあるのか。その結末に何を思うのか。それは、読み手によって変わるでしょうね。

『白兎が赤く染まる時』 作 みぐゆ

私は幸せ。私はできる。私はもっと頑張れる。
私は。私は。私は。

 突然目の前に現れた、兎にような不思議な生き物と一緒に生活していく物語です。この兎がいったい何なのか、わからないまま主人公は兎の世話を焼きます。読み進めて行けば、最終的にこの兎の正体に近づくことができます。些細なことの積み重ねが、いつしか自分では扱いきれないほどの大きな影となってしまうことがある。誰にでも起こり得る小さな悲劇を、そっと優しく伝えてくれる物語です。

『傷の証明』 作 戻

噛み合わない行動。噛み合わない思い。
その間にある真意は何か。

 矛盾に囲まれて生活する主人公の、自己を見つめ直す独白の物語です。ゆっくり時間をかけて、自分の行く道を振り返りながら進みます。人生はそううまくいくものではありません。見出した答えは果たしてその後の自分にどう作用するのか。最後に主人公が見るその先に、果たして何があるのか。その後の彼はどうなったのか。考えさせられる物語です。

『虎狼』 作 新庄 透子

刃を持つ手は誰の手か、刃の先には誰がいるのか。
あなたはどちらに立つ側か。

 イベントで出会った魅力的な女性、彼女の方へ一歩踏み込み、その深淵を覗く物語です。のどかで何気ない日常の一コマと思いきや、徐々にその様相を変えていきます。迫りくる何とも形容しがたい物語の不穏な空気感が、読み手の心にしみること間違いなしの一作です。「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのです」と言う言葉があるように、主人公も己の深淵を垣間見たのではないでしょうか。

『異常のシグナル』 作 ともなが あきの

痛みは証。
だから、やめられない。

 自傷と言う行為に焦点を当てた物語です。書き表されている主人公の行動から受ける印象は、一般的な自傷に対するイメージそのものではないでしょうか。痛みのその向こう側に何があるのか、探索するように淡々と物語が展開していきます。自らを傷つけるというのは異常な行為ではありますが、その行為へと走らせる思いはどんなものか。改めて考えさせられる作品です。

最後に

 どの作品も作者様の個性の光る素晴らしいものばかりです。「自傷」がテーマと言うことで、暗く重い印象を受けられるかもしれませんが、各作品の読後に感じるものは、予想したものとは違うものになっているのではないでしょうか。それほどに人間の負の感情がドラマチックに描かれています。一冊で二度も三度も楽しめる、味わい深いアンソロジーとなっております。是非、実際に読んでみてはいかがでしょうか? 

 




 


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