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小説ですわよ第2部ですわよ

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2023年7月の記事一覧

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 身体の背面全体に痺れるような冷たさを感じ、マサヨは目を覚ました。鉛色の空が視界を覆っている。そこで自分が地面へ大の字になって気絶していたことを察した。  やや倦怠感はあるものの、怪我を負った形跡も痛みもない。ゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡す。車輪のついた自動車が行きかい、通行人たちの表情は……普通だ。真顔であったり、外套をまとって身を縮こませたり。マサヨがよく知る世界の風景である。 (もしかして戻ってこられたの?)  しかし、つい今まで乗っていたバイクはない。 「愛助?

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※↑の続きです。  Jリーグカレーを食べたあと、解散となった。ゴールドが街の監視カメラをハックしてマサヨの追跡と、田代まさしの監視を行ってくれるらしい。他の軍団も侍ジャパンとの強化試合を終えたあと、合流するよう連絡してくれるそうだ。特に何も起こらなければ、日曜は休みとなる。 「失礼します。おつかれさまでした」 「おつかれさま~。また月曜にね」  舞の挨拶に、イチコは背を向けたまま返した。事務的に、さりとて冷たくもなく。なにやらカードをテーブルに並べているようだが、舞はなにも

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※↑のつづきです。  綾子からのチャットは、いくつかに分割されていた。 『本調子ではないけど、月曜から復帰するわ。アヌス02の対策は、週明けから本格的に行いましょう』 『ブルーと2代目つんおじはセーフハウスで保護してる。今のところ無事よ。位置情報を共有しておく。警備はシルバーとレッドに任せてある』 『ゴールドの追跡で、マサヨは弟のアパートへ身を寄せているとわかったわ。ちなみにご家族は、数年前に事故で亡くなっている。デリケートな部分だから、マサヨと話すときは慎重にね』

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※↑の続きです。 -------------------------------------------------------------------- 清水沢あすか氏は、珍玉県皮剥市出身の53歳。 反社会勢力 広東包茎連合の構成員として薬物の密輸・密売に関与したのち、今回の市長選挙に立候補しました。 選挙戦で清水沢氏は、ちんたま市を大麻特区にすると掲げ、前知事を脅して全面的な支援を受けました。 その結果、支援を受けた前立腺珍手党、非生産党などの支持層を固め、無党派層

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※↑の続きです。 「さて、茶番が終わったところで……」  綾子が切り出すと、岸田がノートPCを広げる。画面にはトラックが映っていた。荷台は全方位がひしゃげており、尖ったもので貫かれたように穴が開いている。綾子が鉄扇で画面を差す。 「このトラックはTTSのカードを輸送している途中、何者かの襲撃を受けてこのように無残な姿となった。カードは奪われ、非合法のオークションサイトで転売されているわ」 「カードゲームの転売が社会問題になっているのは知ってますけど、まさか武装勢力に襲われる

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 舞とマサヨが外階段から1階駐車場へ降りると、ピンキーセプターが出発するところだった。イチコが運転席の窓から顔を出す。 「お先に~」 「はい、現場で。七宝さんもファイト!」  助手席の珊瑚が小さく手を振るので、こちらも同様に返した。ピンキーセプターは滑るように走り出していく。 「さてと、あたしらのMM号は……うわ」  マサヨの顔は、害虫と遭遇しかたのように歪む。  理由は聞くまでもない。その改造キャンピングカーは、シェルの側面は大きな窓――マジックミラーになっていて内部は見え

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※↑の続きです。  バニラ求人カーとMMは、両者共に100km/hまで一瞬で急加速。我が国が誇る二大スケベカーのデッドヒートが幕を上げた――かに思えたが、カーナビに綾子から直接着信が入る。 「貴方たち、なにやってるの! もう警察が出動してるわよ」 「……はい」 「すみませ~ん」  舞とマサヨは顔を見合わせ、小さく舌打ちする。 「聞こえてるわよ。MM、レースは中止」 「ブースト停止、法定速度圏内へ減速します」  カーナビも残念がっているのか、テンションの低い声で案内する。MM

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※↑の続きです。 「愛……助……?」  顔面蒼白とは、まさにこのことだろう。マサヨから血の気が引いていくのがわかる。思考も停止して、フロントガラス越しに立ちふさがる機械蜘蛛をただただ見つめている。 「愛助、その蜘蛛に乗ってるの!? やめて!」 「オヌシに命令される筋合いはないナリ! 死ぬナリ!」  舞は敵の機関砲がわずかに角度を調整しようとする微動を見逃さない。一度襲撃を受けているからこそ反応できた。ハンドルを右に切ると、数コンマ秒遅れて、車体の左側を閃光が連続して駆け抜け

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※↑の続きです。 「回路解放、安全装置解除……」  駆動音が強まると同時に、カーナビの案内音声が小さくなっていく。そんな中、マサヨの唾を飲みこむ音はハッキリと聞こえてくる。舞も手のひらにじわりと汗が浮かんでくるのがわかった。 「ターゲット・スコープ、表示。電影クロスゲージ、明度20……」  運転席正面のフロントガラスに、〇と十字を重ねたターゲット・スコープが映し出される。同時に車体前面へ展開していたミラーが、アームの誘導で両側面へと収まる。前方の視界が開けた。しかし目標は未

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※↑の続きです。  割れた機械蜘蛛の頭部をまじまじと見下ろしてから、イチコが舞と珊瑚へ振り向く。 「ぱっくりピスタチオ」 「イチコさん!」 「イチコさん!」  舞と珊瑚のお叱りが入り、イチコはしょんぼりと頭を掻いた。今は、ずんの飯尾をやっている場合ではない。  マサヨは頭だけになった愛助を、きつく抱きしめた。顔面のディスプレイは電源が切れかかっているのか、不規則に点滅している。 「愛助! 愛助!」 「マサ……ヨ?」 「あたしがわかるの!?」 「もちろんナリ。わ、ワガハイ“

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※↑の続きです。  イチコが着席し、顎に手を当てる。 「巨大人型ロボット兵器か。鉄人28号みたいな?」 「大体そんな感じだ。4~50メートルくらいはあったな」  ビーバー店長が懸命に背筋を伸ばし、両手を大きく上へ広げる。かなり巨大というジェスチャーのようだ。舞には鉄人28号はわからなかったが、巨大人型ロボット兵器で思い浮かべたのは、紫色で手足が長く猫背のアレだった。 「オレンジジャージのお嬢ちゃん、小松菜くれないか」 「あ、はい、どうぞ」  珊瑚がスーパーの袋から小松菜を

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※↑の続きです。  それから12月30日の金曜日までは、平常運転で働いた。イチコ&珊瑚、舞&マサヨの2班体制で、時には同時に、時には別々に返送者の対応に当たった。他にも通常業務で宇宙人が攻めて来るなど、事件が次々に起こり、師走らしい年末となった。 ------------------------------------------------------ ▼名前:ヤキュー星人(個別の名称は不明) ▼年齢:不明。平均2万歳らしい。 ▼性別:不明。 ▼職業:ヤキュー星代