記憶の中の匂い

私は時々そこにない匂いの記憶が蘇る。
今日パソコンに向かっていると、焼けつくような太陽の光と濃い影の匂いがした。

すでに梅雨入りしてるし今日は雨。
何の記憶だろうと、ぼーっとしてるうちに思いだした。母が竹ざるに一粒づつ並べて干していた梅干しだ。

梅雨が明けた頃に数日かけ、干しては瓶に漬け戻すを繰り返しながら赤紫蘇色に染まっていく梅。

雨の見張りをしながら匂いを嗅ぐのが好きだった。匂いに誘われ

澱む

水の中に私を沈めた。
インクを一滴落とすように不安な気持ちが水面に滲んでいく。
滲んだインクは水に溶けてうっすらと水を濁らせるけど、その濁りは目立たない。

一滴、また一滴とインクで水が濁っていく。
そうやって濁った水に気づかないフリしてどうなってしまうんだろう。

洗骨ではないけれど

去年サボったハスの植え替えをしようとYouTubeで予習。ワクワク気分で鉢ひっくり返すと、そこにはダメになった根っこばかりでなんとも悲しくなった。

ひっくり返した土とハスの残骸を選り分けながら、いつか映画で観た「洗骨」を思い出す。
風葬した死者を数年後に洗い清め骨壷に納める。実際に洗骨の経験はないけど、記憶の中にある「生前の姿」と目の前の「腐敗した抜け殻」のあまりの落差にショックを受ける。

込

さよなら も
ありがとう も
言葉にする勇気はなくて
行ってきますと書いた。
それくらいでちょうどいいのかもしれない。

私を海に沈めよう。
陸の生活に疲れてしまった。
ブカブカ浮かんでしばらく海底を眺める。
海面の光と影が底の砂地で揺れている。
全身を海中へ。
髪の毛ゆらゆら。
しゃらしゃらと聞こえる砂の音。
目を開ける。
ぼんやり映る世界はとても優しい。