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書評「タピオカ屋はどこへいったのか」 菅原由一 

電車の広告で「5万部以上売れている話題の本」というところに目がとまり読んでみました。作者は税務相談よりもビジネスコンサルに主軸を置く税理士とのこと。Youtubeも開設しているようですね。

ちなみに、私は以前ビジネス戦略論や経営論、ハーバードビジネスレビューという月刊誌まで読んでいたこともあるので、ビジネスモデル周りのことは一通り知ってはいる立場です。

この本は巷で話題になりやすいビジネスのビジネスモデルを大きく捉えて説明した本と言えそうです。タイトルにあるタピオカ屋だったり、ラーメン屋だったり、スナックだったりと重厚長大産業と言うよりは、通りを歩いていると見かけるような商売について、その業態やサービス内容の特徴や存在理由について説明しています。

逆に言えば、そこで止まっている本なので、内容については読者のビジネス経験や立場で評価が分かれると思います。ビジネスに関心が無かった大学生であれば役立つと思います。サラリーマンであまり中小企業のビジネスに関心が無かった層にも読ませる力はあると思いますが、サラリーマンでも営業だったり、ビジネス経験が長くなると満足度も下がってくるかなと思います。これから商売をやりたい、商売をしているが何か参考になる情報が欲しいという層にはほとんど役立たないと思います。

理由を説明します。詳しくは原書を読んでいただきたいので、さらっと書きます。

たとえば、タイトルにもある「タピオカ屋はどこにいったのか?」ですが、これはブームが去ってとっとと違うブームのビジネスをやっている。それができるのは、初期投資(イニシャルコスト)が低いからというビジネスモデル説明です。

ラーメン屋がどうして面の硬さを選べるのか?については、カスタマイズできると利用者の満足度が高まるからという説明です。

場末のスナックがつづけられるのはなぜか?については、1(ママさん)対N(客の数)で人件費が安く、客が居心地の良い自宅や職場以外のサードプレイス(第3の場所)を求めているから。

スマホゲームはなぜ無料が多いのか?については、有料版を買ってくれるコアなファンを掴めば事業として成立するから。

なぜ通販番組の商品は数量が限定されているのか?については、入手困難であれば価値が出るという話。

容姿端麗とは言えないアイドルがなぜ売れるのか?は、応援する喜びを実感する熱心なファンが収益を生むから。

田舎の定食屋はなぜ混んでいるのか?については、周辺に競合が少なく、運営コストも低く、小さい市場から安定的に稼ぐことができるから。

等々

ざっと抜粋しましたが、どうでしょうか?少なくとも、「それは意外な答え!」というのは一つもないですよね。加えて、ビジネスが成功するかどうかとは全く関係のない、後付けかつ俯瞰的視点での物事の整理ばかりです。

ラーメン屋は3年で多くが閉店するという残酷な事実がありますが、麺の硬さを選べるだけでは永続的なビジネスは出来ないでしょうし、容姿端麗ではないアイドルで売れているのはごくごく一部で、圧倒的大多数は売れていないでしょう。場末のスナックも同じです。居心地の良いサードプレイスというのは昔のゴールデン街の様な3坪のお店であって、普通のスナックであれば女の子の1人や2人雇っていたりするものです。かわいい女の子の採用が売り上げに直結するというのは、ママさんならわかっているはず。

つまり、ビジネスモデルを自分で仮説を置いて説明をしているだけなんです。売れていないお店が数量限定で商品を並べても売れるようにはならないし、面白くないスマホゲームを無料でダウンロードできてもコアなユーザーは定着しない。田舎の定食屋が儲かっているなら、もっとお店は大きくなって今頃チェーン店もできているんじゃないでしょうかね?

途中、ランチェスター戦略(もとは兵法の一種)などもっともらしい理論も引っ張り出していますが、導き出される結論は凡庸で「小さい会社は一点突破」みたいな話で「敵を知り己を知れば百戦危うからず」レベルのことわざでしかない。

筆者の経歴を見るといろいろと凄いことが書いてありますが、レトリックも感じます。銀行融資実現率95%以上というのは、過去の経験から融資されそうな企業の融資支援しかしていないからでしょうし、顧問の企業は85%以上が黒字企業(業界平均は30%)というのも、申し込みは多いらしいので顧問先を選ぶときに黒字の企業を選んでいるんでしょう。

繰り返しますが、この本に書いてあることは、ビジネスで成功するための考え方ではなく、巷で見かける商売のビジネスモデルの説明です。なので、既に商売を始めている人がこの本を読んで売り上げが上がることはほぼ無いでしょう(ちゃんと考えてやっているのであれば)。

何だか商売が分かった気分になれる要素はあるので、そこが響く層もいると思いますが、少なくともサブタイトルの「商売の始め方と儲け方がわかるビジネスのカラクリ」というのは大げさだと思いました。

商売を成功させるには、こういうビジネスモデルから入るのではなく、何がやりたいのか、それが顧客に選ばれるにはどうしたらよいのかを実直に考えるところから始めるべきではないでしょうか。

気になる方は原書を読んでみてください。

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