SS【画家のよりどころ】
時はxxxx年ーー。
彼女はある新聞の単独インタビューに応じた。
なぜなら、彼女は世界最高齢記録を更新したからだ。
このニュースに世界中が彼女の噂で持ちきりになり、メディア関係者が彼女の元に押し寄せた。
医学の進歩と社会情勢の発展が、平均寿命の延長をもたらしたのだ。
さらに、歳を取るにつれ衰えていく体の部位があれば、臓器や血液、骨格、筋肉諸々を人工のソレに取り換えれば良い。
もっとも、医療を受けられる金銭的余裕のある人間に限られるが。
そして彼女は、その条件を誰よりもクリアしていた。
高度な医療行為に身を投じ、手に入れた世界最高齢の座。
そんな彼女の肉体は、原型をとどめぬまでにサイボーグ化していた。
機械音声の声が流暢に彼女の人生を語る。
彼女は画家であり、納得のいく作品を作るために寿命を延長し続けたこと。
そうしてがむしゃらに生き続けた結果、
人工頭脳と取り換えたことで独創的な絵のセンス、および我が子やその孫を寿命で失ってしまったこと。
そこで彼女はようやく、今まで感じていた不安がはっきりとした恐怖に変わっていくのを実感していった。
しかしその時にはどこまで生きるのか分からない域にまで達していたこと。
そこまでを語り終えた彼女だが、涙は見せなかった。
できなかった。
感情の起伏すら、医療行為により蝕まれていたのだ。
新聞記者は、絵の具がこびり付いた彼女の爪と、
無機質な横顔を交互に見つめていた。
おわり
今日のお題:絵の具
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