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【祝】打上げ成功のH3【イーロンマスクに勝つには?戦いは続く】


国産基幹ロケット『H3』の打ち上げが成功した。
本当にめでたいニュースだったと思う。

筆者もライブを見ていて、自然と涙がでた。

前回の失敗もリアルタイムで見ていただけに、
カウントダウンがゼロになってH3が打ちあがったときは次こそ成功してくれ!!って気持ちとJAXA様の諦めない姿勢からか感極まってしまった。
#本当に泣くべきタイミングは衛星が軌道投入されてからなんだが


本記事では、そんなH3の若干マニア向け豆知識と、今後の展望について紹介していきたい。


H3の用語が分かんねえ

中継を見ていた皆様の中には、

TF1は失敗!とか今回のTF2(H3-22S)打ち上げ!とか、
なんかよく分かんねえ用語が多発されてるな~と思った方も多かったのではないだろうか。

「TF」とは「Test Flight(試験機)」のこと。
今回成功したTF2は「試験機2号機」の意味である。

で、今回打ち上げた「H3-22S」ってのは、
H3のコンフィギュレーション(設定)を示してたりする。


H3にも種類がある

実は、
「H3」の後ろの1つ目の数字が第1段エンジン(LE-9(えるいーないん))の数を示してたりする(機体識別名称と呼ぶ)。

で、2つ目の数字がロケットブースターの数
3つ目のアルファベットがフェアリングのサイズ
(S:ショート、全長10.4m L:ロング、全長16.4m)を示している。

元画像はJAXA HPより

たとえば、今回の「H3-22S」は、

 ・第1段エンジンの数:2個
 ・ブースターの数:2個
 ・フェアリングの種類:短いやつ

って設定で飛ばしている。



他にもこんな組み合わせの設定があるYO!

JAXA HPより

「H3-24L」だと第1段エンジン2基、ブースター4本、フェアリングLサイズの構成となる。
また、フェアリングのロングの直径を5.2mから5.4mに拡大したワイド(W)を用いる「H3-24W」ってオプションもあったりする。


これらは運びたい荷物の重さとか大きさとか目的地(どの軌道に載せるか)によって変わってくる。


今回の成功は「スタートラインに立ったにすぎない」だと?


で、なんか、お祝いムードの中、
偉そうなおじさんたちは「今回の成功はスタートラインに立ったにすぎない」とかよく言ってる。

なぜか。

実は、H3はまだ進化を残しているのだ。


H3の真の姿とは

一番はコストだ。
打ち上げコストがH2の約半額、「50億円」というのがH3の目指す姿となる。

今回は打ち上げは成功したものの、このコスト目標は達成していない。


ブースターが高い

コストがかさむ原因の1つに「固体ロケットブースター」がある。
こいつが高い。しかも壊れやすい。
だからロケット全体のコストがかさむ。


ほう!、ってことは、
H3-30S(LE-9を3ヶ搭載、ロケットブースターは0個、ショートフェアリングのバージョン)にしたらいっちゃん安くなってええやん。

よっしゃ!ゴールや!

と思いきや、そう簡単な話ではない。

ロケットブースター無しでH3を飛ばすには、
今のLE-9エンジン「Type1」では推力が足りないのだ。
これを、推力を増した「Type2」に進化させる必要があるのである。

ほんでこれがまた難しい(くぅ~~ッ!!!)。


マニア向け

LE-9エンジンType2への道の厳しさは『エンジンサイクル』にある。

エキスパンダブリードサイクル(俺たちの魂)

LE-9のエンジンサイクルは、二段目のLE-5で実績のある「エクスパンダーブリードサイクル」を採用した。

本当に、芸術品だと思う。

JAXA HPより

これは、日本が世界で初めて実用化に成功した技術(H2の2段目エンジン)で、長年日本のロケットが世界をリードしてきた所以でもあり、我々の魂の結晶とも言える。

H2の2段目エンジンで実績があるものの、大型ロケットエンジンでは世界初の採用となる。


この方式は燃焼室の周りの細い管を燃料が通ることで気化した水素ガスの圧力でタービンを回すため、後述するガスジェネレーターサイクルに対しシンプルで堅牢性が高いと言われる。

JAXA HPより

ガスジェネレータサイクル

一方で、イーロンマスクのロケット『ファルコン9』の一段目エンジンは「ガスジェネレータサイクル」を採用。
#世界初の宇宙に到達したロケットであるドイツの『V2』もこの方式

ガスジェネレータと呼ばれる低温燃焼させた小さなロケットエンジンのガスでタービンを駆動させ推進剤を高圧で燃焼室に送り込む方式で、
シンプルに高出力を出せるとの呼び声が高い。

ただ、どうしてもガスジェネレータが必要なため、コスト・構造・重量その他もろもろ不利だ。

画像は日経Xtechより

シンプルで堅牢性が高いエキスパンダーブリードサイクルが最強!!しかし・・・

よっしゃ!
エキスパンダブリードサイクルは俺たちの魂だ!!今回の打ち上げで世界で初めて大型ロケットエンジンで開発成功したぞ!!!JAPAAAAAAAAAAAAAN!!!!!!!!!

と、言いたいところではあるが、
実はまだ素直に喜べる段階には来ていない。

エキスパンダブリードサイクルには技術的な難点がある。
「大型化」だ。

LE-9に必要な推力はLE-5より一桁上である。
燃焼ガスの熱交換は燃焼室の表面でしか行えない。
つまり、燃焼室の体積のルートしか表面積は増えない。
#いわゆる2乗3乗の法則

つまり、我々の技術の結晶であるエキスパンダーブリードサイクルは、大型化すればするほど不利なエンジンサイクルとも言えてしまうのである。


どこを改良する~?

できるだけガスの圧力を取り込もうとタービンブレードを大きくすると、それだけ振動モードが増える。
回転機械の弱点はそこで、ロケットの固有振動数と共振すると致命的な破壊モードに入る危険が増える。


また燃焼室の熱交換器も溝を細かくしたり表面を薄くしたり工夫はするが、液漏れで失敗したりしている。

実際、H3エンジン開発中にターボポンプが共振で破損する不具合が見つかり、その後の修正が間に合わず,1号機はType1エンジンとして回転数を落として飛行させている。

さぁ、貴方ならどうする?

JAXA HPより

Type-2の開発が残ってる

結局、今回の二号機もType1、あえて出力を落としたバージョンでの打ち上げとなっている。
#もっと正確に言うとType1とType1A(若干,Type1よりも燃焼効率がUP)がついてた

これだと補助ロケットブースター無しの打ち上げは出来ないので、
一発50億円のローコスト化は達成できない。
そして、また約2000億円クラスの予算を使ってType-2エンジンの開発をやることになる。
#開発完了には更に数年かかる模様

ってことで、
数年は『H2Aよりちょっと安い』というレベルで打ち上げを続けることになる。


ふぅ・・・。
これが「H3の挑戦がやっとスタートラインに立ったにすぎない」と偉そうなおじさんが言っている所以の1つだ。


ついでに、イーロンマスク vs H3


宇宙輸送ビジネスというと、米国のSpaceXが運用する打上げロケット「Falcon 9」が2015年に1段再利用を実現して価格、頻度とも革命を起こした。

ちょっとここでH3とFalcon9を比較してみたい。

大きさ

サイズ感はこんな感じ。
ファルコン9方が全体的に細く、荷物を入れるとこだけ太くしてる感じ。

ファルコン9は1段目ロケットがこんな感じでたくさんついてるから、横のロケットブースターが必要ない。
#だからコストを抑えられる

出典:SPACE NEWS「SES Rethinking Being First To Fly a Full-throttle Falcon 9」

打ち上げ回数

スペースXは「Falcon9」を2022年に61回、23年に96回打ち上げている。

対し、H3の発射場は種子島の1カ所しかなく、年6回の打ち上げが限界とされる。国内のロケット発射場不足が課題となる。
#打ち上げ回数が圧倒的に違う。。。


ペイロード(運べる荷物の重さ)

固体ロケットブースタを持たない「H3-30S」形態は高度500kmを南北に飛行する「太陽同期軌道」に対し4トンを運べる。
※オプションを追加したH3-24L形態での価格設定は非公表だが、静止トランスファ軌道(静止軌道に到達するための軌道)へ6.5トンと大型の衛星を搭載可能だ。

対し、Falcon9。静止軌道には8.3トン、火星へは4トンを輸送できる(参照:スペースXウェブサイト)。

コスト

価格面では正直SpaceXが圧倒的だ。

Falcon 9の使い切り価格は6,200万ドル(約92億円)。
再利用の場合はさらに安く、4,800万ドル(約70億円)となる。
Falcon 9に続いて超大型の「Starship」が商業デビューすればさらに価格差が生まれる可能性もある。

H3が70~80億円で打上げられれば、能力面では小さいものの価格だけならFalcon 9に並ぶ。

信頼度

ただ、「日本のロケットは高コストすぎて海外客が見向きもしない」という水準ではない。
シェアを取ってから値上げするSpaceXの姿勢に対する懐疑的な視線もある。

ウクライナへの侵攻後に歴史ある宇宙輸送ビジネスを自ら破壊したロシアと比べれば、日本のロケットの信頼性はビジネス面において世界トップクラスと言っていい。


まとめ


確かに様々な課題はある。
本当の完成はType2エンジンになってからで、H3が最大の力を発揮できるType2エンジンの完成、切り替えが待たれるところではある。

がしかし、とにかく今回のH3打上げ成功は本当に素晴らしいものだったことに変わりはない。

闇は抜けた。

H3の未来は明るいものになると信じている。


最後までご覧いただきありがとうございました。
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