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突然吹奏楽部の顧問になる⑸

 音楽の先生が異動しました。後任はいません。クラス減=教員定数減で、音楽科は非常勤講師になりました。音楽の先生が顧問をしていた吹奏楽・合唱部への後任もいません。
 校長先生の考えは「副顧問の昇任」。つまりは副顧問だった私が顧問になる。副顧問に音楽の経験がなくても、楽譜が読めなくても、顧問になったら勉強して身に付ける…というお考え。
 幸か不幸か…私は少しだけ楽器経験があり、その時の友人が作曲家になっていました。その助けを借りて新年度が始まります。

いろいろありましたがコンクールでは好結果を得ました

 前任の顧問の先生が残してくれた無形の財産と、3年生の頑張りで、夏のコンクールで吹奏楽は県大会で金賞までいきました。合唱は、卒業生でボイストレーナーだった方の指揮で、県大会を突破しました。
 ここ数年は、県大会で銀賞、あるいは県大会止まりという結果が続いていましたから、かなりよい結果と言えるでしょう。
 その勢いのまま、冬のアンサンブルコンテストでは、吹奏楽は県大会を突破、合唱は全国までコマを進めました。
 一方で、私は「異動希望」を提出しました。
 私には無理です。まず体力。もちません。
 勉強時間…。科目よりも、音楽の勉強をする時間の方が長くなりました。それでも指揮はふれませんし、楽譜も読めません。
 入試問題の分析は深夜になります…。
 もちろん、大会で好成績をあげたことはうれしいですが、これはどう考えても前任の音楽の先生の残した財産と生徒さんの努力の賜物。周囲は、「すごい」と私を称えてくれますが、絶対にそうではない。しかも、好成績を上げたことで、「吹奏楽と合唱はあいつ(私)に任せればよい」となるのは本意ではない。
 このような暮らしが教員をしている間続く…、F高校にいる間に続く…と、想定される状況は3つ
 ①倒れる…
 ②科目の勉強時間が取れなくなって国語の教員としての力が落ちる
 ③吹奏楽コンクールで実績が下がって糾弾される
 どう考えても、よいことが出てこないのです。

秋にもう一つの出会いがある

 その年の秋の連休は考査機関と重なり、部活動もなく、課外もなく、少し自由な時間となりました。
 久しぶりに東京の空気でも吸いに行こうか…と考えていると、ネットで「吹奏楽指導者のための指揮講習会」を見つけました。講師の中にはSさんもいます。というわけで、申し込みました。
 講習では、指揮法・和声などだけでなく、吹奏楽部の運営ノウハウの講座もありました。講師は現役の吹奏楽部の顧問の先生。その名前に憶えがありました…。中学の吹奏楽部の先輩です。1年生の時の3年生。部長で成績優秀で、学区で一番頭の良い高校に進みました。今は、都内で先生をしてたのです。
 先輩から声をかけてくれました。その夜、Sさん、先輩などと一緒に飲みました。そして、3月に東京で行われる演奏会に、ゲストで参加しないかと言われました。
 いやいや…。その演奏会は東京近郊の全国大会レベルの吹奏楽部が参加するもので、うちではとても…。
 次回は、ゲスト指揮者に丸谷先生も来るから、ぜひ…と。
 丸谷先生とは、淀川工業高校吹奏楽部の顧問で、業界なら知らない人はいない人。この先生の指揮で一度は演奏したいと思うような人です。
 一応持ち帰って、生徒と相談しますと返答しました。
 その時、これが顧問としての最後の大仕事だな…と思いました。異動希望を出すことは、この時決めていましたから(誰にも言っていませんが)。

部員の中に対立が生じる?

 準備は大変でしたが、春休みに東京での演奏会に参加しました。
 都内在住の吹奏楽部OBがたくさん応援に来てくれて、良い演奏もできて、丸谷先生に声をかけてもらい、その指揮で演奏するという得難い経験をしました。夢のような時間でした。
 しかし、私の異動は叶いませんでした。3年生担当と吹奏楽部顧問という生活が続きます。
 吹奏楽・合唱共に4月には、たくさんの新入部員が来てくれました。定期演奏会も満員となり、周囲の期待も高まります。
 しかし、夏の吹奏楽コンクールでは、県大会にはコマを進めたものの、結果は銅賞。合唱も県大会で敗れました。 
 要因はいろいろありますが、その一つに高校特有の課題があります。
 たとえば、中学時代に全国大会などへの出場経験を持つ部員がいます。そういう人は、吹奏楽部・合唱の強豪校に進むのでF高校には来なかったのです。しかし、吹奏楽強豪校に進むと、大学進学は少し不利になる…。
 その時、F高校が県大会金賞を取った…。前任の顧問の先生の時代には全国まで進んだという元々は名門ですから、「進学校であるF高校で国公立を目指しながら全国を目指す」と考えてもおかしくはないでしょう。しかも、自分を中学時代に全国大会に連れて行ってくれた顧問の先生はF高校吹奏楽部出身なのです。
 そういう生徒さんにとって、県大会金賞は「負け」です。
 一方で、中学の吹奏楽部では「県大会に出たことはない、金賞を取ったこともない」という生徒さんもいます。そういう部員にとっては、地区予選の金賞でも「人生で初めての金賞」です。大喜びです。
 このギャップが、対立になります。
 そして、音楽が好きなのではなく、大会で勝つことが好きという価値観が表面化し始めます。いわゆる「コンクール至上主義」ですね。
 私には、全国大会に導くほどの力はありません。経験も技術もありません。何せ、正顧問×指揮者の経験はまだ1年です。
 定期演奏会を終え、コンクールへの練習期間になった時、このあたりのことで部員に意見の対立や、出身中学のコンクール実績によるマウント…のような状況がありました。
 そして、私自身にも面倒な問題が生じました

あらたな教員研修がはじまる

 この年から、「世間知らずな教員を鍛えるために、民間企業などで働かそう」という研修が始まりました。
 通称「民間企業研修」。期間は2週間です。
 前任の校長先生が定年退職し、4月から新しい校長先生になりました。
 すぐに呼ばれ、私が「今年から始まる新しい研修の対象であること」が告げられ、申込手続をするようにという指示がありました。
 私は、夏休み1週間と、冬休み1週間とにわけて申し込みました。本当は、夏にまとめて済ませたいのですが、吹奏楽・合唱の大会や、課外講習にかからないように、時期を慎重に選びました。
 しかし、研修受け入れ側の都合で、夏休みの研修日程が変更となり、吹奏楽コンクール県大会と重なってしまったのです。私は、夏の研修をキャンセルし、冬休みに2週間連続で受講しようとしました。が、学校長は「研修優先」という考えで(それはそれでありです)変更を認めません。
 本番の日・時間だけでも研修を休む・抜けるもダメ(それは当然)。
 では、県大会に出場した場合、誰が指揮をするのか問題になります。
 さらに言えば、吹奏楽・合唱部は、「文化部だから副顧問はいらない」ということで、顧問は私一人です。当日の引率は誰がするのという職員室的問題にもなります。この問題が解決できるなら、研修優先で構いません。
 しかし、この問題の解決も私がする…のだそうです。

                       つづく…

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