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突然吹奏楽部の顧問になる(18)

 吹奏楽・合唱部のコンクールシーズンが終わりました。
 吹奏楽は地方大会、合唱は全国。終わってホッとしました。
 この後は、アンサンブルコンテストとソロコンテスト。
 そのココロは「指揮者不要」。
 地区吹奏楽連盟事務局と、担任・授業に集中できます。

10月になって少し体調が戻ってくる

 合唱の全国大会は「銀賞」。これも奇跡です。
 東京から戻ると、吹奏楽の地区吹奏楽祭があります。
 こちらは、今まで指導してもらってきた、F高校吹奏楽部OBの音楽家の方に指揮をお願いしました。何せ、右耳が聞こえないですから、合奏そのものが無理です。そういう理由があるので、周囲も外部講師による参加を認めてくれます。
 やはり、指揮をしないで済むと、少し楽です。授業準備の時間が確保できます。何より、「今年度いっぱい」と心を決めています。この後「指揮を振る」のは、卒業式の演奏くらい。始業式・終業式の校歌伴奏は、合唱部員に任せました。
 とにかく、運営を「部員中心」に移行していきました。一方で、吹奏楽・合唱共に、「指揮はプロ」に任せました。ピアノ伴奏は妻が引き受けれくれました。合唱の伴奏だけでなく、ソロコンテストに参加する吹奏楽部員の伴奏も。
 顧問への依存を断ち切る一方で、部員の能力にふさわしい音楽の専門家に指導をお願いする。顧問になって3年、やっとそういう体制ができてきました。

冬のアンサンブルコンテストも全国へ

 合唱も、吹奏楽も、1チームずつ全国にコマを進めました。
 たぶん、これがF高校の生徒さんの実力。指導にあたってくれたF高校OBの音楽家の指導力。私は、推薦入試に必要な書類を書き、国公立二次の記述対策を進めていただけ。大きなトラブルはなく、怪我人も出ず。
 要するに、顧問はなくても部員は育つ。
 この経験から、クラスへの接し方も変わりました。
 担任はいなくても、生徒は成長する。
 出題の意図を正しく理解すれば、記述答案も正解できる。
 近代論がわかれば現代文は読めるようになりますし、わびさびを理解すれば古文も読めます。そういうことなんですね。

異動願を提出する

 しばらくして、校長から呼ばれました。校長室に行くと、なぜか教頭も同席しています。
 聞かれたのは「異動を希望する理由」。
 校長は、今年度からF高校に来ましたから、私が音楽素人であることを知りません。もちろん、吹奏楽・合唱の顧問になった経緯も。感謝しているのは、吹奏楽・合唱の活動に理解を示し、協力してくれていること。ただ、それは吹奏楽・合唱だけではありません。どの部にも、どんな生徒にも公平・公正に接し、励ますというスタンスを示しています。
 学校の空気が少し変わりました。しんどいことは多いですが、働きやすい雰囲気になりました。そういうスタンスが、大会の結果に結びついたとも感じています。感謝しています。
 でも、限界です。
 限界の要因は、人事の価値観です。
 音楽科の専任教諭を異動させ、経験のない素人を音楽の部活動の顧問にする。文化部は運動部より楽だから、副顧問はつけない。むしろ、文化部の顧問は、運動部の副顧問との兼任が慣例だ。文化部の主顧問だけというのは、特別な配慮なのだという。
 100人を超える部員を預かりながら、担任もする。
 国公立大学の進学率を上げるために課外講習などの実施が新設された。それを担当してほしいからという理由で、F高校赴任以来4年連続で3年生を担当している。国語で小論文を指導しているからという理由で、新設の総合学習も担当している。
 文化部だから、国語だから、元予備校講師だから…。
 そして、妻まで巻き込まれています。娘は知らないうちに自転車に乗れるようになっていました。
 期待されていることに感謝はしています。どれも頑張っています、仕事ですから、生徒さんのためですから。でも、限界です。
 国語の授業準備がおろそかになりつつあります。入試問題の勉強・分析も同じです。
 副顧問をつける、担任を外す、課外講習の負担を減らすという、そういう解決は望んでいません。それは、現在の人事の価値観を都合よく反転させただけのものです。解決ではありません。むしろ、私に対する特別扱いは、職員室内の反発を呼ぶでしょう。あるいは、私の負担が、他の先生に移動するだけです。それは、解決ではありません。

異動の理由を校長・教頭に告げる

 私は、「研究」の魅力を次世代につなげたいと考えています。
 現実問題として、大学は就職の入り口です。でも、「研究」を志して大学に進む高校生がいなくなると、日本は滅びるんじゃないですか。
 「部活動×体育会×封建主義」で鍛えられた方が就職では有利でしょう。
 でも、国民がみんな、そうなったら、研究・文化・芸術はどうなるんですか。F高校は、そういう人材も育ててきましたよね。それが「進学校」というものではないんですか。
 音楽の部活動は、音楽の専門家が指導すべきです。
 進学率を高めたいのであれば、3年生になってから「対策」を始めるのではなく、3年間かけて「学力」を育てるべきではないですか。
 私は、そういう場所で働きたいと考えています。
 残念ながら、私にとってF高校はそういう場ではありません。
 また、本県の公立高校に、そういう学校はないというならば、予備校に戻ることも考えています。組織の都合に振り回されて倒れるならば、収入や身分は不安定ですが、個人として働ける予備校で全力を尽くしたいです。

 ついでに、気になっていることを伝えました。
 新学習指導要領で始まった「情報」の授業のことです。これは必修です。
 前校長は、大学進学率の向上のために、情報の授業を数学にしていました。時間割には「情報」と記されていますが、中身は数学です。
 「情報の免許を持つ数学教員が担当すれば大丈夫」というのが前校長の見解でした。ただ、どう考えてもやばいのです。教頭はうつむき、校長の顔色がかわりました。
 同じころ、他県の「履修漏れ問題」が新聞に載りました。
 必修科目である情報や家庭科の単位を「大学受験教科」に振り替えたことで、卒業要件が満たされない状況が発生したのです。
 前校長は、別の高校の校長になっていましたが、そこで処分されました。
 そして3年生は、大学入試直前の冬休み、情報の授業を受けることになりました。
              つづく…
 
 
 

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