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水玉消防団連載企画 第0回 2022.8.8「M.S.U.(水玉スーパーユニット)」ライブ

取材・文◎吉岡洋美
写真◎池田敬太、協力◎地引雄一

 いやはや、すごいライブだった。

「30年ぶり」と言ってもノスタルジーの入る余地はどこにもない。
 当時の音がそこにあり、しかし確実に今のリアルな音として会場の奥の奥までガツンと突き抜ける。時を何十年経ていようが核となるエッジは全く変わらず、逆に瑞々しく、そのパワー、普遍性に真正面から圧倒されてしまった。30年前と同じように。

 2022年8月8日(月)、秋葉原クラブグッドマンで行われた「M.S.U.(水玉スーパーユニット)」。ライブは、日本の女性パンクバンドの草分け「水玉消防団」の天鼓とカムラが特別ユニットを組み、当時の楽曲を実に30年ぶりにプレイするという1日限りの企画だ。謳い文句は「あの水玉消防団が帰ってくる!?」

 そもそも水玉消防団とは、79年、ほぼ楽器未経験者の5人の女性によって東京で結成され、日本の80年代パンク+ニューウェイヴシーンを疾風怒濤の如く駆け抜けた日本発の女性オリジナルパンクバンドである。メンバーの天鼓(vo,g)、カムラ(vo,b)、まなこ(g)、可夜(kb)、みやもとSAN(ds)による強靭に尖ったサウンド、リズムに、天鼓+カムラがしのぎを削るように圧倒的ツインボーカルを繰り出す。その歌詞は “インポテンツ”“ペニスを振り回して”“あんたはピーターパンにはなれない。ぶくぶく太る、ぶよぶよたるむ”“二人目の自分に出会ったら情け容赦なく殺せ”……正に情け容赦ないパンチラインの連続。かつ、ディープな心象風景は現代詩をも想起させた。バンド自らレーベルを立ち上げ運営し、完全自主制作の傑作アルバム2枚のみを残して89年に解散するも、天鼓とカムラは、その後もそれぞれがボイスパフォーマンスはじめ独自の音楽性を貫き、現在も日本を飛び越えた音楽活動を続ける。
 
 ちなみに、筆者が水玉消防団の名前を初めて知ったのは、地元岡山の女子高生だった81年頃の『11PM』だったか、あるTVの深夜番組でのひとコマ。アメリカ、イギリスの旬のニューウェイヴバンドを紹介する特集のなか、日本でも誕生している新たな存在として紹介されたのが水玉消防団だった。「女性だけのバンドでレコードは自主制作」と画面に映し出されたのは、地獄の釜が燃え盛るような真紅の中に横一列に並び浮かぶメンバーのアルバムジャケット。顔はよくわからないけど眼光だけが確認でき、ただただ不穏。「なんか怖い」と思いつつ、挑戦的な得体の知れなさは頭に刻まれた。

1981年リリースの水玉消防団1stアルバム「乙女の祈りはダッダッダッ!」(筋肉美女レコード)

 そして、翌年。その水玉消防団が岡山に来るという。ライヴ場所は30人も入れば満杯になるような地元のロック喫茶。東京の女性オリジナルパンクバンドの評判は、すでに全国の地下水脈を駆け巡っていたころで、彼女たちのライブを見るため、おそらく岡山近県中のパンク+ニューウェイヴ少年少女たちがどこに隠れていたのか(筆者も含め)、わらわらと会場のロック喫茶に集まり、中はスシ詰め状態。好奇心と情報が反比例する地方で、刺激に飢え余りまくったエネルギーがフロアー中に充満するなか、登場した水玉消防団は出音一発目から圧倒的だった。束になったオーディエンスのエネルギーを一瞬で跳ね返す有無を言わせないサウンド。頭に大きな造花を付けた天鼓は空気に亀裂が入るような声量で叫び、ベースを唸らせるカムラは間髪入れず呪術のような気迫でボーカルをとる。もうその音だけで、目の前にいる彼女たちが「女性バンド」だとかそんなことはどうでもよく、こんな人たちはそれまで見たことなかったし、こんな生音も今まで聴いたことがなかった。会場はただちに少年少女のモッシュの場と化し、とにもかくにも水玉消防団はやはり怖くてとことんオリジナルで掛け値なくかっこよかった。

 そして、30年の時を経て、あの2人があのパンク・ツインボーカルを再び行うのである。正に「あの水玉消防団が帰ってくる!?」なのだ。

1981年7月、1 stアルバムリリース当時の水玉消防団。左から可夜(kb)、まなこ(g)、天鼓(vo,g)、カムラ(vo,b)、みやもとSAN(ds) [撮影:地引雄一]

 今回のライブ企画は、Acid Mothers Templeの河端一氏が渡英先でロンドン在住のカムラと出会ったことをきっかけに、やはり80年代の少年時代、水玉消防団の大ファンだった河端氏のオファーにより実現した(この日のライブは「M.S.U. vs Acid Mothers Temple」と銘打たれたツーマンライブでもある)。“水玉”側のメンバーは天鼓(vo,g)とカムラ(vo,synth,fx)に加え、既に音楽リタイヤしている当時のメンバーに代わり、RIE MIYAZAKI(g)、中西智子(b)、SACHI-A(ds)の新たな世代を迎え、ゆえに水玉消防団ならぬ水玉スーパーユニット=M.S.U.となる。

 さて、8月上旬の平日週始めの夜。かつてのパンク少年少女とおぼしき世代を含め、会場は満杯。中には杖をつく人もいれば、若い世代も散見され、想像よりバラエティに富んだ客層である。

 そして、スタート時間とともにステージに現れたのは、それぞれ80年代ニューウェイヴを彷彿とさせる蛍光色、原色に彩られたファッションに、“水玉”真骨頂の目張りメイクのM.S.U.5人のメンバー。

 フロント左には白のオーバーシャツに真っ赤なスカーフ姿の天鼓、右にはデコラティヴな眼鏡とミニスカート、タイツ姿がポップなカムラ。当時の立ち位置で並び、まずはどこからともなくインプロヴィゼーションが始まる。天鼓とカムラが82年から水玉消防団と並行して展開していた即興ボイスデュオ「ハネムーンズ」が蘇ったようなボイスパフォーマンスがスタート。と思いきや、太いドラムとベースのビートが鳴り響き、タイトなギターが重なると、カムラが“アイヤイヤイヤイヤーイ、めまいがする!”と歌い始める。ほどなく天鼓の張り裂けるようなコーラス。東京の都市の夜の風景を切り取ったパンクナンバー「水道橋ゲットー」の始まりだ。そう、一発目からガツンとくる“水玉消防団”の幕開けである。

M.S.U. —水玉スーパーユニット。〔上〕左から天鼓(vo,g)、カムラ(vo,synth,fx,b)、〔下〕左から中西智子(b)、SACHI-A(ds)、RIE MIYAZAKI(g)

 2人のボーカル=天鼓のストレートなキレとカムラのグルーヴ感はとにかく立ち上がりから想像以上のパワー。“30年ぶり”という和やかさを拒絶するような緊張感で迫る。凄い。「ワンダラー」「Happy End」と、曲が進むごとにこのパワーは加速しまくり、この日ボーカルに専念している天鼓とボーカルにエフェクター、キーボードもこなすカムラの声量と表現力、身体力にまず驚く。さすが、現役でボイスパフォーマンスのステージを重ね、国内外で百戦錬磨の活動を続けてきた2人のスキルと肝の太さ。それがそのまま数十年前のパンクの楽曲に吹き込まれ、これに呼応するように現役新世代の3人が確かな演奏力で相乗効果させる。妥協のないスピード感も尖りまくっている。聞くところによると当時185BPM(!)の楽曲に合わせるために何度もリハを重ねたという。

パンク健在。天鼓とカムラ、30年ぶりのツインボーカル

 まさしく、かつて80年代に見たライブ同様、彼女たちのエネルギーに圧倒され息つく暇もなくステージに釘付けになる。5曲目の「嘘月」が終わったあたりでそんな会場中の空気を察したのか、天鼓が「まだ中盤ですよ」と笑う。と言ってもテンションをゆるめるわけもなく、カムラのボーカル曲でドライヴ感あふれる傑作曲「ジークフリードはジッパーさげて」では、ついにカムラはベースを、天鼓はギターを持ち、続く「電気ショック」では天鼓の突き破るようなシャウト、カムラのボイスパフォーマー的コーラスでさらにパワーレベルが上がる。

やはりベース姿が堂に入る。水玉消防団のドライヴ感ある名ベースラインを生んだカムラ。M.S.U.では音楽監督的役割も担った
スタートからラストまで約1時間、圧倒的声量で絶叫し続けたボーカル、天鼓。ド迫力

 気づけば後ろでずっと座っていた往年のファンの女性だろうか、我慢しきれず立ち上がり、ステージに向かって熱狂している。「次の曲が最後です」と、天鼓が告げると会場中に「もう終わるの?」という空気が覆い、「もう1回、最初からやる?」(天鼓)、「水玉の最初のライブは最初の3曲を2回やったんだよね」(カムラ)と、笑いを誘う。そして、印象的なキーボードから始まる天鼓のボーカル曲、2ndアルバムの名曲「まな板の上の恋」のド迫力パフォーマンスを最後のナンバーとして全10曲、そしてアンコール曲の「艶消しの闇」、カムラ言うところの水玉消防団初ライブの流儀にのっとり、今回2回目の「ジークフリードはジッパーさげて」で大団円となった。

「聴いたこともないドラムを叩く人」と、天鼓の呼びかけでアンコール前、ステージに現れた元水玉消防団のオリジナルドラマー、みやもとSAN。「まさか、自分が客として見る日が来るとは」

 30数年前の楽曲を再び演奏するというライブ。「水玉消防団を再度やるということは、ただ“お懐かしい”レベルのライブを見せることは出来ないと思っていた。今のこの時点で出来るクオリティを形にして、見ている人が面白いと思ってくれるところまで持っていかないと」と、ライブ後に話してくれたカムラの言葉が物語るように、企画とはうらはらに懐かしさ、馴れ合いを一切拒否する美意識、迫力。過去と今が交差するタイムレスで稀有なライブだったと思う。水玉消防団の楽曲の持つもともとの強さはもちろん、フロント2人がアップデートし続けてきた音楽キャリアとセンス、楽曲と対峙した新世代のメンバー。さまざまな組み合わせと意識が重なったことに加え、水玉消防団の持つ独自の位置が自ずとエッジを生むことになったとも思わざるを得ない。

 と言うのも、もともと彼女たちはロックシーンとは異なり、女性解放シーンの流れから誕生したバンドなのである。バンド結成時、メンバーの半数は実に30代だったことも話題となった。今と異なりフェミニズムという言葉も一般化されてなく、また30代の女性自体がもっと冷遇された時代だったことは想像に難くない。そのなかで「音」だけで有無を言わせず自分たちの場所を切り開いてきた道はどのようなものだったのか。カムラ以外はロックを聴いたことがなかったともいうメンバーたちが、どのようにパンクと合流し、如何にかくも鋭き音楽性を獲得するバンドに変貌したのか。そして、当時彼女たちが実感していた女性と社会の関係とは。水玉消防団には、そうしたさまざまな興味、キーワードが浮かび上がる。

 そこで、次回からは水玉消防団の当事者中の当事者、天鼓とカムラにインタビューし、水玉消防団の足跡を2人の証言によって連載シリーズとして紐解く。

平日の夜にも関わらず、ほぼ満員のオーディエンス。1日限りが惜しまれる
M.S.U.に続きAcid Mothers Templeもこの日「最兇にして最強」時代のメンバーがAcid Mothers Temple Magnificent Four(津山篤[b,vo]、志村浩二[ds]、河端一[g]、東洋之[synth,g])として限定再集結。正に最兇ライブのラストは天鼓+カムラのボイスと合体

2022年8月8日(月)「M.S.U(水玉スーパーユニット)」

@秋葉原クラブグッドマン

[SET LIST]

  1. インプロヴィゼーション〜水道橋ゲットー

  2. ワンダラー

  3. Happy End

  4. ゴブリンの目

  5. 嘘月

  6. しるし

  7. ジークフリードはジッパーさげて(全員Ver.)

  8. 電気ショック

  9. 残像

  10. まな板の上の恋

<アンコール>
艶消しの闇
ジークフリードはジッパーさげて(オリジナルVer.)

M.S.U. [水玉スーパーユニット] 天鼓 (vocal)、 カムラ (vocal, synth, Fx)、RIE MIYAZAKI (guitar)、中西智子 (bass)、SACHI-A (drums)

水玉消防団 70年代末結成された女性5人によるロックバンド。1981年にクラウド・ファンディングでリリースした自主制作盤『乙女の祈りはダッダッダ!』は、発売数ヶ月で2千枚を売り上げ、東京ロッカーズをはじめとするDIYパンクシーンの一翼となリ、都内のライブハウスを中心に反原発や女の祭りなどの各地のフェスティバル、大学祭、九州から北海道までのツアー、京大西部講堂や内田裕也年末オールナイトなど多数ライブ出演する。80年代には、リザード、じゃがたら、スターリンなどや、女性バンドのゼルダ、ノンバンドなどとの共演も多く、85年にはセカンドアルバム『満天に赤い花びら』をフレッド・フリスとの共同プロデュースで制作。両アルバムは共に自身のレーベル筋肉美女より発売され、91年に2枚組のCDに。水玉消防団の1stアルバム発売後、天鼓はNYの即興シーンに触発され、カムラとヴォイスデュオ「ハネムーンズ」結成。水玉の活動と並行して、主に即興が中心のライブ活動を展開。82年には竹田賢一と共同プロデュースによるアルバム『笑う神話』を発表。NYインプロバイザーとの共演も多く、ヨーロッパツアーなども行う。水玉消防団は89年までオリジナルメンバーで活動を続け、その後、カムラはロンドンで、天鼓はヨーロッパのフェスやNY、東京でバンドやユニット、ソロ活動などを続ける。


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