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北村早樹子のたのしい喫茶店 第6回「新橋 パーラーキムラヤ」

文◎北村早樹子
 

パーラーキムラヤの外観

 わたしには、るみたんという魔女の友達がいる。
 これは比喩ではなく、本当に、職業が正真正銘の魔女。そんなアホな、魔女なんて実在するのか? しかも日本になんて。そうお思いの方もいらっしゃることだろう。それがまさかのまさか、本当に実在するのである。
 魔女というと、老婆が黒いワンピースを着て、とんがり帽子を被って、ほうきに乗って空を飛ぶ、みたいなイメージ。大鍋でぐつぐつと謎の液体を煮込んでいて、魔術を使って人間に悪いことをする、みたいな悪のイメージが強いことだろう。それはちょっと当たってるけど、だいぶ間違っている。
 るみたんは、現代魔女術実践家という肩書きで、魔女宗=新異教主義ウィッカを信仰している。しかし服装は着物。とんがり帽子やほうきで飛んだりはしないし、鍋で謎の液体をぐつぐつ煮込んだりはしないけど、自ら葉っぱやハーブなどを調合したオリジナルのお茶を作って販売していたりはする(めっちゃ売れていたらしい)。
 もともと、大阪のアメリカ村で魔術ショップを経営していて(現在は閉店)、そこにはほうきも売っていたし(飛べるかどうかはわかりません)、妖精も売っていた(ガラスケースのその中身は心の汚れたわたしには何も見えませんでした)。日本には魔術や魔女術を研究している人が結構な人口存在していて、そういった人御用達の貴重なお店だった。わたしも何度か遊びに行ったことがある。
 そしてるみたんは、UPHYCA(ウフィカ)という、ソロ魔女たちがオンラインで集う日本式魔女の団体の創始者でもあり、日本全国のソロ魔女たちは毎週水曜日の23時に、拝火式という儀式を催している。

 これは、毎週水曜日の23時には、電気を消してロウソクに火を灯し祈りましょう、という儀式である。そう、魔女たちは何をするのかというと、主に儀式を執り行っている。
 実はわたしも自分のライブで儀式を執り行ってもらったことがある。あれはもう7年くらい前の話。場所は神保町だった。わたしが毎月誰かゲストを招いて、お互いライブをするみたいなシリーズで、ゲストでるみたんに来てもらった。
 当時、わたしは色んなものに縛られて苦しんでいたことを知っていたるみたんは、わたしのために「解きの儀式」を執り行ってくれた。当時るみたんと一緒に東京リチュアルという団体をやっていたバンギさんという男性も一緒に来てくれた。

 冒頭からわたし含め、お客さんは凍り付いた。バンギさんがすごいボリュームで鳴きだしたのだ。あれは動物の雄たけびのような感じだった。そして四つ足で獣のように地面をうろうろしはじめた。そこへ、るみたんは半裸で降臨。たわわな両乳を放り出し、下半身も布を巻き付けた程度。ちなみに、るみたんはたいへん美女である。身体つきも、めちゃくちゃセクシーで、おなかに大きな彫り物が入っている。そしてるみたんは、魔法陣のように床に色々な植物を並べて、真ん中には、ひもにぐるぐる巻きになっている花束を置いて、そこでダンスのように少し舞い、最後にはそのぐるぐる巻きの花束に火をつけて燃やした。
 わたしはるみたんとは18年ぐらい前から友達で、魔女というのは知っていたけれど、どんなことをしているかまでは知らなかった。なのでびっくりした。見てはいけないものを見てしまったような、ドキドキそわそわする時間だった。ちなみに、るみたんはこのような儀式を色んなところで行っていて、例えば森の中で、タワマンの一室で、冠婚葬祭でと、本当に色々な場で儀式を執り行っている。
 そんな、魔女のるみたんは長く汐留のタワーマンションに住んでいて、よく近所のパーラーキムラヤで一緒にお茶していた。
 店内に入ると、まずはソファーの美しさにうっとり。赤と白のツートンカラーでV字模様に色が切り返されたソファー。ああなんて可愛い。都内の可愛い喫茶店グランプリを開いたら、ソファー部門ではパーラーキムラヤが優勝すること間違いなし。

北村さんが愛するパーラーキムラヤのソファー

 場所柄、サラリーマンのおじさんたちが商談をしておられたりもするが、気にせずにわたしとるみたんは、いつもあけすけな話をして盛り上っていた。るみたんは魔女だけど、わたしと話すときは、普通に同い年の友人としてきさくに話してくれて、関西人なのでめちゃめちゃ話がおもしろい。アイスコーヒーを吸いながら、時には下品なぶっちゃけ話をしたり、道ならぬ恋の相談をしたり、最近行った魔女の儀式の話を聞いたり、占いも出来る魔女に占ってもらったり。いつも話が盛り上がりすぎて、気づけばドリンクが空になってしまっているので、追加オーダーを選ぶ。

昭和のムードを堪能できるアイスコーヒー

 15時をまわったおやつの時間。ちょっと小腹がすいたねって言い合い、プリン・ア・ラ・モードを分けっこして食べることもあった。むっちりと固めの手作りプリン(恐らく固さでは都内の喫茶店プリンの中でトップ級)にアイス、うさぎのりんごにバナナにメロン、缶詰のみかんに桃にパイン、そしててっぺんには真っ赤なさくらんぼ。

かたい手作りプリンが魅力のプリン・ア・ラ・モード

 プリン・ア・ラ・モードは子どもの好きなものが詰まっている宝石箱。プリンのカラメルの光沢、瑞々しいフルーツの輝き。見ているだけでうっとり。ところで、ア・ラ・モードってなんなんだろう? 調べてみたところ、フランス語で、「流行の」「現代風」という意味があるそうだ。が、果たして今、流行しているかどうかはわかりません。喫茶店でプリン・ア・ラ・モードを見つけると懐かしいような気持ちになるのが正直なところ。というのも、わたしの祖父がケーキを買って帰ってきてくれるとき、いつもわたしが選ぶのがプリン・ア・ラ・モードだった。
 ケーキ屋さんのプリン・ア・ラ・モードは、マグカップくらいの大きさの透明のカップに、プリンとフルーツが可愛く乗っかった一品で、いちごショートやチョコレートケーキなどより、見た目が楽しく美しいので、子どものわたしは大好きだった。
 しかしプリン・ア・ラ・モードのことを何故か祖父は「チョック」と呼んでいた。方言でしょうか?(祖父もわたしも大阪の人です)チョックってなんなんや。ネットの大海原を調べてみたが、どこにも載ってなかった。もし、プリン・ア・ラ・モードのことを「チョック」と呼んでおられる方がいらっしゃいましたら、ぜひご一報ください。
 

今回のお店「パーラーキムラヤ」

■住所:東京都港区新橋2―20―15新橋駅前ビル1号館B1 
■電話:03―3573―2156
■営業時間:月~金8時~20時半(20時LO) 土11時~17時半(17時LO・土曜日は土曜日は途中休憩あり)その日の混雑状況で変更があります 
■定休日:日・祝

撮影:じゅんじゅん

北村早樹子

1985年大阪府生まれ。
高校生の頃より歌をつくって歌いはじめ、2006年にファーストアルバム『聴心器』をリリース。
以降、『おもかげ』『明るみ』『ガール・ウォーズ』『わたしのライオン』の5枚のオリジナルアルバムと、2015年にはヒット曲なんて一曲もないくせに『グレイテスト・ヒッツ』なるベストアルバムを堂々とリリース。
白石晃士監督『殺人ワークショップ』や木村文洋監督『へばの』『息衝く』など映画の主題歌を作ったり、杉作J太郎監督の10年がかりの映画『チョコレートデリンジャー』の劇伴音楽をつとめたりもする。
また課外活動として、雑誌にエッセイや小説などを寄稿する執筆活動をしたり、劇団SWANNYや劇団サンプルのお芝居に役者として参加したりもする。
うっかり何かの間違いでフジテレビ系『アウト×デラックス』に出演したり、現在はキンチョー社のトイレの消臭剤クリーンフローのテレビCMにちょこっと出演したりしている。
2017年3月、超特殊装丁の小説『裸の村』(円盤/リクロ舎)を飯田華子さんと共著で刊行。
2019年11月公開の平山秀幸監督の映画『閉鎖病棟―それぞれの朝―』(笑福亭鶴瓶主演)に出演。
2019年より、女優・タレントとしてはレトル http://letre.co.jp/ に所属。

■北村早樹子日記

北村さんのストレンジな日常を知ることができるブログ日記。当然、北村さんが訪れた喫茶店の事も書いてありますよ。


■北村早樹子最新情報

7/26(火)
『アウト&セーフ』
場所:下北沢ろくでもない夜
時間:19時開場19時半開演
料金:前売3000円
出演:第十四代目トイレの花子さん、北村早樹子、白玉あも、かものなつみ
ご予約はwarabisco15@yahoo.co.jpまでお名前と連絡先を。





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