冬の色は、君の色。1716文字 #シロクマ文芸部
冬の色はどんな色だと思う?と聞かれたら俺はきっとこう答える。
『冬の色は俺の友、眞尋(まひろ)の色』だと。
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時は明治。
人は洋装に身を包む人も出てきたが、まだまだ着物姿が大多数の時だ。俺はしがない物書き。人気作家という事ではないが、食うに困らない程度には稼げている。問題なのは、俺の編集を担当していた森田が最近異動になり、それを引き継いだ編集者が…………
「秋彦(あきひこ)〜筆は進んでるか?」
「うーん。まあまあだな」
「……そうか、進んでいるなら良い」
俺の友であり、幼馴染の眞尋に引き継がれたと言うことだ。
何だか、気恥ずかしい。幼馴染で勝手知ったる眞尋。
そんな眞尋に、未完成の原稿を読まれることは何だか自分の恥ずかしい部分を覗かれている様な感覚になる。
「今日はどうしたんだ?うちに来る予定はなかっただろ?」
俺はそういうと、原稿の置いてある机に体を向けようとしたが、すぐにまた眞尋の元へと向き直った。
「…、!もしかして、何処か具合が悪いのか?それとも、足が痛むのか?」
「違うよ、平気」
「……そうか……、なら、良かった」
眞尋は、小さい頃から体が弱く、生まれつき左足に不自由があった。小さい頃から俺は眞尋と居て眞尋の事を馬鹿にしたりいじめる奴らを全てやっつけていた。
言葉を選ばずに言うなら、駆逐した。
眞尋の事を体の弱さと外見だけで判断し馬鹿にし、なじる奴らが許せなかった。
眞尋の良いところを一つも知らない癖にいい加減な事を言うなと思った。
そんな眞尋の事を馬鹿にした奴らを駆逐し続けた俺は、密かにこう言われていたらしい。
『秋彦には逆らうな。
逆らえば、血の雨が降る』と。
「今日はさ。ただ、秋彦に会いに来たんだ」
「……仕事は?大丈夫なのか?俺だけじゃないだろ。担当してるの」
「大丈夫だよ。ちゃんとやり繰りは出来てるから」
「ふ〜ん。なら、いい」
そういうと、俺は自分の部屋の中を一周見回し、眞尋にお茶飲むか?と尋ねる。
眞尋はお構いなくといい、俺はまんま受け取る。
いつもの風景でやり取りだ。
「秋彦…、」
「うん?」
「俺、好きな人が出来た」
「!!本当かっ!!本当に、本当か!!」
「うん。といっても、まだ片思いだけどな…」
「恋の初めは誰でも片思いだと思うぞ」
「あははは、確かに」
「上手くいくといいな、……でも!ゆっくりだぞ。焦ったりしたら駄目だ。絶対に」
「それもちゃんと分かってる」
「まあ、眞尋の事を好きにならない女性はいないだろうがな〜」
「そんな事ないよ。それに、俺はハンデがあるから。出版社に入れたのだって奇跡みたいだし」
「そんなハンデなんかほっとけ。
ネチネチ言ってくる奴らが居たら教えろ?駆逐してやるから」
「あはははっ!相変わらずたまに言葉が悪くなるんだから」
「それだけ眞尋の事を友として愛してるってこと」
「……それも、ちゃんと分かってる」
俺が小説家になった理由は2つある。
一つは、たまたま暇つぶしとして書いていた小説を出版社に送ったら、それを面白がり本を出版しないかと連絡が来たから。
そしてもう一つは、眞尋に何かあった時自営業なら、仕事を気にせずに向かうことが出来るから。
俺はこの事を眞尋本人には伝えていないが、眞尋はきっと気づいている。
前の編集者である森田に、こんな質問をされたことがあった。
その時は初雪が降り始め、寒さがもっと深くなった時。
「冬の色って、何だと思います?」
「冬の色?何でそんなこと聞くんだ?」
「何となくです。季節に色があったらどんなだろうって思っただけです。」
冬の色は、灰色、白色。
そんな無機質な、でも、静かな色が想像できる。
けれど、俺にとって、冬の色は、
『眞尋の色』だ。
儚くて、透き通っていて、静か。
けれど、そんな中にも温かさや優しさを秘めて、しんしんと降り積もる雪の様にその人の心のなかに溶け込んでいく。
眞尋は、そういう人だ。
「………眞尋………」
「うん?何……?」
「幸せになれ。ずーーっととは言わないけれど、幸せを沢山感じろ。いいな」
「……………秋彦もね……」
「…ああ、そうだな……」
冬に季節が傾きかけている季節。
透き通る空気の中に、陽の温かさが肌に染み込んでいく。
静かで、でも、幸せな時間だ…。
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