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悪い女 1136文字#シロクマ文芸部

※不倫の描写があります。
苦手、不快に思われる方は、バックする事をオススメします。


◈◈◈◈
『青写真』なんだと、彼は自分の撮った写真に名前を付けていた。
そんな彼の撮る写真は青が基調になっている。

とても綺麗な青や
どす黒い青、薄い青、青と言っても色々な青色がある事を彼の撮る写真で知った。
けれど、私に青を教えてくれた彼は、あっという間にこの世から旅立った。
新聞のお悔やみの欄を見たら彼の名前が載っていて、その名前を見た時、最初は信じられず、同姓同名だろうと思ったが、喪主の名前を見たら、これは現実なんだと嫌でも認識させられたのだ。


「この度は、ご愁傷様でした。……私、達晃(たつあき)さんとは、同じ大学に通っていた同級生で、たまたま同じ授業を履修していた時に顔見知りになって、友達になって、それからは、よく私のお友達何人かと一緒に勉強を教えて貰っていたんです。」

「……そうだったんですか。わざわざお忙し中ありがとう御座いました。」

「いえ。奥様のご準備の大変さを思えば、私など大した事ありませんから」

「本当に、生前、主人とお友達になって下さりありがとう御座いました。」

私が彼の奥さんと話したのは、この時が初めてだった。
私は彼の奥さんから踵を返し、式場を跡にする。

「んふ………んふふふふふふ」
私は、笑いが止まらくなりそうだった。

気づいてない。
彼の奥さんは、気づいてない。

気付いてないふりをしている感じもしない。本当に知らないのだと思う。
彼は、何処までも上手く隠し通してこの世を去ったのだ。

私と彼は、不倫していた。
本当は大学生の頃にも付き合っていたけれど、彼が勤め始めた時に上司の紹介で上司の娘である彼の奥さんと結婚した。

もちろん。そこに愛なんて一つもない。
彼は自分の利点だけを考えて彼の奥さん……彼女と結婚したのだから。

彼が結婚したあとも彼と私の関係は続いていた。頻繁には会えなかったけれど、私もそれで良かったし、彼の趣味で、彼が撮る写真が大好きだったから私は寂しくも苦しくもなかった。

彼が写真を趣味にしていることを知っているのは私だけ。
彼が自分の写真を『青写真』と呼んでいるのを知ってるのも私だけ。

……くだらないって思うでしょ?
でも、私にはこの上ない優越感なの。

それに、彼は奥さんとの間に子供は作らなかった。一体どうやって騙し騙しやっていたのだろう。

……でも、私は思う。よくやったって……

あはははは、最低ね。
最低過ぎて自分に辟易してくる。

………………でも、それでも良い。

私は彼女に彼を取られたんだから。
これくらい良いでしょ?

それに、彼と私は言い合ったの。

『落ちるなら、地獄に落ちるね』って。

さようなら。
大好きだった。
貴方の付けていた香水の匂いが好きだった。

貴方の手が好きだった。
貴方の髪が好きだった。


そんな貴方と行くなら、とことん悪い女になって、地獄に落ちてやるわ……。


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