引き寄せろ、流れ!742文字 #シロクマ文芸部
変わる時は、一瞬だ。
今までこちらに吹いていた向かい風が、ある一つのプレーによって追い風に変わったり、今まで吹いていた追い風が、相手の好プレーで一気に向かい風に変わったり…。
流れ、という目に見えないものでありながら、確かに存在し、その後の勝敗を左右する…。
俺達は、そんな流れを掴もうともがき、
流れを流さないように抗う。
肌で感じる流れだから、囚われ、従順になる。
⚾⚾⚾
「流れ変わってきてるよ。もう少し」
「……わかってる」
「……疲れた?」
「ふふっ、少しだけ、けど皆疲れてるだろ?試合してるんだから」
「そうかもしんないけど、でも、投手と野手は違うよ。同じじゃない。」
今は試合中だ。
それも、これを勝てれば、目標にしていた『甲子園』という3文字が現実のものになる試合だ。
試合スコアは3-2 俺達の高校は1点ビハインド。
回は8回の表。
ワンアウト、ランナー1、2塁。
夏の日差しは刺すように照りつけている。気温よりも、日差しの方が痛い。
今はキャッチャーで主将の大(だい)がタイムを取っている最中だ。
「……攻めよう。何処までも」
「……うん。」
「これを耐えられたら、流れがこっちに振り向いてくれるかもしれないよ、」
「……分かってる」
「最後に、ちゃんと笑えるように頑張ろう。……皆で!」
「ああっ。」
ピンチと言えばピンチだ。
ワンアウトでランナー1、2塁。ワンヒットでもあたりが良ければまたホームを踏まれ、点が入ってしまう。
俺は、グローブの中に収まっているボールを力強く握る。
大丈夫、握力はまだまだあるし、足の力が抜けてしまいそうな疲労感もない。
大と、守るんだ。
あと2回、皆で守るんだ。
そして流れを引き寄せ、振り向かせ、
最後に皆で笑うんだ!!
終
こちらの企画に参加させて頂きました。
小牧さん。ありがとうございました。
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