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降る

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シリーズもの書きたいなと思うけど長編はなかなか続かないから短編集、詩集として試してみる。 書ける時に書く。 テーマは降る
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#66日ライラン

雷と降る雨

もう梅雨は明けて、次は台風が近づく季節
エアコンを効かせても涼しく感じない室内で雨の音を聞いている
まだ台風は来てなくて、風は弱い
その代わり大雨と雷が降っている
晴れていたと思ったらいつの間にか暗くなって、大量の雨が地面に叩きつけられる音がする
うるさい扇風機に似た音
雷が何度か鳴って、しばらく鳴らないと思ったらもう小雨になっている
ほんの少しの通り雨に傘を忘れてびしょ濡れになった人たちが雨宿り

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刃降る網

もういいからさ
僕なにもしてないからさ
悪者にしていいから
悪者でいいよ
もう疲れたから
濡れ衣着せろよ
好きにしろよ
その代わりお前たちが自分の手で殺せよ
その手に生身に僕を殺したこと刻みつけろ
焼きつけろ
一生忘れるな

別にいいよ攻撃したって
そうしなきゃ守れなかったもんね
お門違いもどうでもいいよ
一緒に見えたんでしょ
赦してあげるよ
その方が君たちは苦しむんだろ?
事実なんてどうでもいい

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幸降る四つ葉

幸せを呼ぶ四つ葉のクローバー
そのほとんどは事故で分かれた三つ葉
公園にシロツメクサと一緒に大量に生えているクローバー
まだ夏が体温近くまで上がってなかった頃、よく取りに行った
周りの子はいくつも見つけた
中には五つ葉、六つ葉を見つけた子もいた
いっぱい取ったからって一個ずつくれた
そのクローバーはお母さんに頼んで栞にしてもらった
別に本は読まないけど、この形ならずっと持っていられる

今ではたま

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光降る

天井を眺めて降ってくる光の気泡を浴びる
網戸から流れ込んでくる風にカーテンが揺れる
無気力に抗わない
声が聞こえないフリをする
何も見えないフリをする
体に慣れ染み込んだ空気も
何も知らないフリ
柔らかい布に身を任せて
目を動かさずにどこも見つめない
どこの場所も見つめない
そのままそれだけを知らないフリ

降ってくる光が勝手に瞳に張り付いてどこにも行かない

舞い降る風

忘れてた
あとストック切れてた
あと一ヶ月半持つのだろうか
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
見えない手と手を握り合って
空気に舞う風
降りて、上がって、また降りて
レースのような柔らかさを振りまいて
千切れて一つになって数え切れない量になって
測り切れない大きさになって
見えるものを揺らして
存在を誇張する
周りの気温に染まって舞う
水色の空気

声の降る

人間は声から人を忘れていくものらしい
僕には忘れられない
知らないはずの声が
聞いたことのないはずの声が
頭にこだまして止まない
音のない世界に生まれたはずなのに、いつからか、一つの声が聞こえた
それは二つになって四つになって、どんどん増えていった
今ではもう数えきれないほどの声に日常を侵されている
静かなはずの現実はずっとうるさかった
止まない雨のように無限に降り注ぐ声に疲弊して寝て、また疲弊す

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陽だまり降る庭

暖かい陽光と涼しい夜風を交互に浴びる
毎日毎日ずっと同じ場所で

少しずつ身長が伸びていく
時々来る友達は私たちを別のところに運んでくれる
あの子たちには羽がある
ただ風に揺られるだけの私たちと違って
その風に乗って好きなとこに飛んでいく
私はあの子が羨ましい
でもあの子は私を羨ましがる
それで喧嘩したこともあったけど、それが可笑しくなって友達になった

私はあの子に食べ物をあげて
あの子には私た

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「 」降る

足りないものは分かってる
でもそう簡単に埋まるものじゃない
なにもかもが壊れてる
心の扉すら、鍵穴が壊れて自分も開けられない

社会が求めているのは有能であって才能ではない
どんな才能があろうと、需要に応えられなければただの無能

棺に潜り込んでしまえば、マーガレットをサルビアを降らせてくれるのだろうか
一人で育てたって摘んだって虚しく枯れていくだけの花を
目いっぱい

死後の余興に過ぎないたった

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暗がり降る海の日

生き物が消えた水族館
なにも泳いでいない
誰も餌を撒かない
暗い水槽に光だけが揺れている
透き通った水に息をする
丁寧に清掃された水槽に手をつける
空気を閉じ込めた割れない容れ物と指を握る
鼻に入った水の痛みも解けて染み込む
力と重力を抜いて
溶けて溶けて
蓋に閉じ込められる前に
海の味に飲み込まれないように

熱降る

現実で熱出ました
37.5超えたの小学生以来
ストックは一応あるんです
ただ熱降るって題名やりたかっただけ
この線から下はフィクションです
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
熱に魘されるのは久しぶり
喉がガラガラで上手く喋れない
イントネーションが勝手に変わる
なんか不思議な感じ
いつもは布団に倒れ込んだら沈むように受け止めてくれるのに
今日は四肢が反発して浮いてるように感じる
なにもな

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降る涙

ただの知り合いだった
学校も違う
年も知らない
夜の公園であるいは廃ビルの駐車場で
誰もいない場所でそいつと会った
話したのは的外れな天気予報の話がほとんどだった
晴れ、曇り、雨の三択だから当たることもあるにはあった

数日に一度会った
いつもジャージだった
夏も冬も

ある時から会わなくなった
一週間会わないことくらいはよくあったから、どうせまた風邪でもひいたんだろうと気にしなかった
さすがに風

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風降る鞦韆

ブランコは鞦韆(しゅうせん)と言うそうです
こっちの方が雰囲気語呂がよかった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
緩く切る空気
青空を流れる雲
イヤホンから流れるミックスリスト
足をついたまま漕いでると、歩いてるような気分になる
風が吹いてきて前髪が跳ね上がる
このまま高く高く飛び上がれたら

暗くなってきたけど、向こうの空はまだほんのり日光が残ってる
ふと見るだけじゃ止まってる雲も、ずっ

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爪降る紅色

今月近所のショッピングモールに新しくオープンしたJK、JCの財布に優しいコスメショップ
終業式後のクラスメイトの女子たちの半分以上はその話題で持ちきり
校則でメイクは禁止されているけど、マスクの下に口紅を塗っていたり、靴下の中にペディキュアを塗っている子たちもいた
ほんとは、ノートを買いに来ただけだったのに、ふとそこに寄ってしまった
質素な文具屋と対照的で初めて見るコスメショップは宝石箱のようにキ

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香り降る

天井に吊るされたバラの香りが優しく鼻を擦る
真っ赤なバラたちから時々花びらが降る
僕の仕事着に落ちればその赤がこびりつく
ここは僕たちの楽園
今日もまたバラが増える
騒音から逃れられる秘密の花園
煩いお客はお断り
そろそろ、天井が埋まってきた
枯れかけているものは売ってしまおう
床と、壁は白く保ち、天井は赤く保つ
そのために色褪せそうなものから売りに出す
たまに新鮮なバラも売る
しばらくここに居さ

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