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インサイト創造~エクストリームユーザーが効果的である理由~

マーケティングにおけるリサーチといわれるものは、ほとんどが「人」に関わっています。
そしてインサイトとは“人の意識”に帰属しているため、当然ながら「人」が対象のリサーチとなります。

リサーチは、だれ(人)に聞くかがとても重要です。それは目的によって、あるいはジャンルなどによっても変わってきますが、この対象となる人を間違わなければ、感覚としては7~8割の確度で調査はうまくいきます。

例えば、よくあるインタビュー調査に、すでにあるブランドの価値を明らかにする、といった人の意識を探る定性調査があります(ブランドとは人の意識に存在しているものなので必然的に意識をさぐる調査となります)。この場合でも、ただそのブランドを使っている人に聞いてみよう!、だけでは、インタビューで聞ける内容は限られます。
「昔から使っているから」といった曖昧な回答で、そのまま大きな不満もなくブランドスイッチするほうが面倒という考えから使い続けていたり、あるいは「なんとなく」とか「コスパがいいから」といった強い自分の意志が感じられないケースが往々にしてあったりします。

この場合は、ユーザーの中でもロイヤリティの高い人にインタビューをすることが効果的です。“なぜ、そのブランドを好きなのか”を自分なりに語れるということが大切になります。
ブランドはその人の意識下にある価値なので、正しいかどうかは問題ではありません。それゆえ、メーカーが正しいと信じていたものがいい意味で裏切られ、メーカーサイドが想定していなかった価値を発見できたりする大きなメリットがあります。

エクストリームユーザーとロイヤルユーザーの違い

ロイヤルユーザーがそのブランドへの忠誠心が高い人だとしたら、エクストリームユーザーはブランドではなく、カテゴリに対し異質・極端な考えを持っている人になります。エクストリームユーザーは逆に特定のブランドに強いこだわりがない人を選ぶ方が正解といえます。

エクストリームユーザーが向いているマーケティングの課題としては、新商品の開発や新サービスの開発、新事業開発など、「新しい」ものを開発する際に最適です。


エクストリームユーザーとは?

あらためてエクストリームユーザーについて説明します。エクストリームとは、異端、極端といった意味があります。すなわち、エクストリームユーザーとは極端な利用者といった意味になります。

例えば、
・お金はもっているのにカップ麺を毎日食べている人(カップ麺のエクストリームユーザー)
・歯磨き粉を5種類使い分けしている人(歯磨きのエクストリームユーザー)
・サプリを10種類以上摂取している人(サプリのエクストリームユーザー)
などなど、あるカテゴリーにおいて常識とはかけ離れた使い方をしている人のことをいいます。

こういった人は、そのカテゴリ、あるいは自分の生活スタイルに対し、まわりがどうしているかは関係なく、自分なりのこだわりがあって、自分にとってこの使い方がベストだと考えて極端な使い方をしています。この考え方をしっかりと語ってくれることが出来る人が新商品の開発には効果的ということになります。

エクストリームユーザーは偏ってる?

よくエクストリームユーザーをおすすめすると、「このような人は偏った意見だから、一般層に落とし込むことが出来ないのではないか?」と質問をもらいます。

しかし、新商品や新サービスという“新しいもの”は、そもそも一般層がいきなり欲しいとなることはありません。イノベーター理論にもあるとおり、初期の購買者となるのはイノベーターであり、次にアーリーアダプターが続きます。

スマホで考えるとわかりやすいですが、2008年頃にアイフォンが登場したときには、ごく限られた人しか使用していませんでした。イノベーターといわれるような人たちです。
そこから5年後の2013年には4人に1人がスマホを利用するまで広がりました。現在のスマホ利用については、もはやいうまでもないですよね。
ここで重要なことは当時、スマホが人間にとって必要だと思って開発し発売したのはスティーブ・ジョブズというエクストリーム1人でした。

このようなケースからみても新しい何かを生み出す際には、既存市場からみて偏った意見が新しい価値構築に有効であることは納得できるのではないでしょうか。重要であることは、「今」の常識にとらわれず、あくまで人の暮らしをどうポジティブな方向へ変化させることができるのか、そのストーリーを創ることさえできれば、市場にしっかりと普及していきます。
そして、そのストーリーを創るための気づきを得るには、エクストリームユーザーの常識を超えた価値観・考えを参考にすることがとても重要になるのです。

京大には以前、変人講座があった


変人講座書籍表紙にあるメッセージ


京都大には以前、変人講座というものがありました。京大の教授陣には変人が多くいたのがキッカケです。
その筆頭が当時、総長だった山極氏です。「誰も経験していないことを経験して、未知の世界を身体ごと知った上で常識の世界を見渡す」ということで、なんとジャングルでゴリラと生活を共にするのです。実際に10か月生活を共にしたらしいですが、そうするとまず、人の言葉を忘れるようです。また、戻ってきて人間の顔をみると変な顔だなと感じるようです。毎日ゴリラの顔しかみていないとそうなるのようなのですが、まさに変人ですよね。

ゴリラと生活するとどうなるのか?

ゴリラと生活を共にしようといっているわけではないですが、人はいかに普段の常識に縛られて多くの新しい気づきの芽を見過ごしてきているのか、この意識を持つことが現代の成熟マーケットにおいてとても重要なことだと信じて疑いません。

いい問いを生むには、常識にとらわれることは弊害


常識にとらわれると新しい気づきを得にくいと説明したのは、常識にとらわれることでいい問いが生まれにくいことと同義です。常識にとらわれると自身の頭の中で、それこそ無意識に解決してしまっているからです。インサイトとは無意識なものといわれているので、自分自身も無意識にならないよう出来るだけ排除することを心がけるべきです。いい問いは、当たり前のことを当たり前と思わず、シンプルな問いに変換するといいのです。

常識・前提を疑うマインドが大切

ゴリラの話にはもう一つ意味を感じています。それは、ゴリラとは会話が出来ないということです。人間なら言葉によるコミュニケーションで概ね済んでしまうことを、行動を観察しないとゴリラの本能的な意図を理解できないのです。なぜ、この方向を歩いているのか、聞いても返答はありません。それゆえに、行動や周囲の環境を観察することが求められるのです。この方向に歩いている答えを観察から自分なりに解をもつことが求められます。正しいかどうかではなく、自分なりに推論して共感させるようなストーリーにしていくことが重要なのです。正しさは、実際に形にして上市するまでわからないのですから。そこにこだわっていては、結局前に進むことはできないでしょう。
そういう意味では、科学者が仮説推論と検証を繰り返しながら、あらたな真実を発見していくことにも似ていますね。

エクストリームユーザーを対象にするメリット

エクストリームユーザーが新しい価値づくりに有効な説明をしてきましたが、まとめると以下のようなメリットがあります

●既存価値ではない、新しい価値発見に効果的な対象である
→自分の常識を壊してくれ、いい問いを生み出しやすい
→偏った考え方は、潜在している価値を掘り起こしてくれる


あとがき


エクストリームユーザーをどう探し見つけるのか?ここが結構難しい部分です。リサーチ会社でも、あまりその方法を構築しているところはなさそうですが、私なりにいくつかおさえるポイントがあります。そこさえクリアできれば、エクストリームの幅はありますが、概ね特徴的な人物に出会えます。
そういう意味では、新商品開発など新しい開発の工程において重要なことは、まずエクストリームユーザーを見つけるところからになりますね。

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