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弟のTシャツ

minne(ハンドメイド作品売買サイト)を見ていた。
またいつか実家に行くとき、母にプレゼントがしたかった。
本革のショルダーポーチのステキなものがあったけど、高かった。
高いものを母にプレゼントしたら、逆に叱られるかも知れない、と思いながら、ショルダーポーチいいな、便利そう、わたしもほしい、なんて思っていた。
あれこれ見ていると、限定セール本革ショルダーバッグ、お値段1,450円、というものに心を惹かれた。

これ

画像もクチコミも見たけど、良さそうだった。
「ほんとうにこのお値段でいいのか」
というようなクチコミも複数あった。
博多ハンドメイドマルシェの予算の残りがわりとあった。
(博多ハンドメイドマルシェはとんでもない人混みで、ゆっくり買い物をするどころではなかった)
わたしは1,450円のショルダーポシェットを、赤と黒の色違いでふたつ注文した。
ひとつを母に、ひとつは自分で使おうと思った。
minneで買い物をするのは初めてだ。
失敗もあるかも知れない。
失敗したら、勉強代だと思うことにしよう。
そう割り切った。

コンビニに支払いに行った帰り道、ふと弟のTシャツのことを思い出した。
22歳くらいのときだったと思う。
今みたいに病気じゃなくて、働いてボーナスももらっていた頃だ。
通販にハマっていた。
フェリシモで(確かフェリシモだったと思う)弟にTシャツを買ってあげた。
関東で弟と二人暮らしをしていて、まだ仲も良かった頃だ。
弟が、そのTシャツの個性的な柄になんてコメントしたか、もう覚えていない。
なにか言ってた。
けれど、そのTシャツをよく着ていた。

それから十数年経ち、わたしも弟も30過ぎになった頃だ。
ふたりとも九州に戻り、実家で暮らすようになっていた。
初夏のある日、わたしは離れの自室から出てきた弟を見て驚いた。
「あれ?それわたしが通販で買った服?」
「そのTシャツ10年以上着てない?」
弟は言った。
「うん。なんかこの服、ずっと着てても傷まないんだよね。
生地がいいのかな」
フェリシモだったから、そんなに安物でもない。
(めちゃくちゃ高いわけでもないけど)
生地がいいから長年の洗濯にも耐えたのだろうか。
弟が、わたしのプレゼントしたTシャツを、ただなんとなくでも10年以上着てくれていたことが嬉しかった。

それからさらに15年ほど経つ。
精神病をこじらせ、実家に迷惑をかけ続けたわたしを、弟が見限って数年経つ。
弟は、もうわたしと言葉を交わすことはない。
完全無視だ。
弟は、もうあのTシャツを捨てただろう。
わたしとの断絶がなくても、1枚のTシャツが25年も持つはずもない。

弟と仲が良かった頃が恋しい。
けれどもう、状況は変わってしまった。
割り切ろう。
フェリシモで弟に買った、目立つ柄のTシャツ。
そのTシャツを弟が過去に十数年も着てくれていた。
過去に確かに、そんな時期は存在した。
そのことだけで、わたしは救われる。


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