⑧~他者から尊重された、大事にされたと実感した出来事について~

最近「利用者が蔑ろにされているのでは?」と感じる場面があった。

ちょうど、NさんやAさんとの関係を通して「他者を尊重すること、大事にすること」を考えていた頃の出来事だった。ぼく自身ふりかえってみると、他者から侮辱されたり、非難されたり、蔑ろにされたり、振り回されたり、過干渉されたりしたなと実感する場面に関する記憶がある。

そんなぼくだが、最近のNさんとの関係を通じて、「他者から尊重された、大事にされたと実感した出来事について」今日は書いていきたいと思う。

⑥でも書いたが「関東在住の大学院生が福岡移住に至る物語」を書いているんだとNさんに話した際、彼女から完成したら是非読みたい!と言われた。

福岡移住に至る物語には、自分の半生もざっと書いた。
移住に至った経緯と自分の歩んできた人生は不可分だったからだ。

ぼくは自分の半生、具体的には、「虐待サバイバー」「宗教二世」「元不登校・ひきこもり」「留年」「DV加害/被害者」「躁鬱病=精神科ユーザー」などの経歴や後ろ暗い、社会的に決して誇れたものではない自らのアイデンティティ、ラベリングをNさんに伝えることにビビり散らかした。

自分としてもNさんに「関東在住の大学院生が福岡移住に至る物語」を読みたい!と言われて、とても嬉しかった。しかしその反面、それをNさんに読まれてしまうということはすなわち、「後ろ暗い、社会的に決して誇れたものではない自らのアイデンティティ、ラベリング」を、自ら進んでNさんにカミングアウトするのとほぼ同義だと直感していた。

そのため、「読みたい!」と言われてしばらくして、ぼくはNさんと話す時にとり乱してしまった。とり乱しつつも、相談をし、どのような形ならこちらが安心して読んでもらえるか話し合ったりしたところ、ぼくが指定した番号の文章は読まないで欲しいという約束のうえで、完成後、URLを送るというような形に落ち着いていった。

その時かわした、若干とり乱したぼくとNさんとの電話口での一連のやりとりをよく覚えている。

「私は別に、やそらさんが私に対してブラックボックスにしている部分について、話して欲しいなんて強いていないし、急かしてもいません。むしろこれが逆の立場で、私にやそらさんから見てブラックボックスがあったとして、それについてやそらさんなら無理にでも聞き出そうとか思いますか?」

Nさんからの質問にぼくはだいたいこんな感じで返した。

「無理に聞き出そうとは思わないかな~。話したいなって思ったら話してもらえればいいと思うし、それで、こちらとしてもブラックボックスだった部分を敢えてNさんがぼくに話してくれたんだなってわかったら、話してくれてありがとうとか言うと思いますよ」

口下手を自認するNさんはこんな風に返してくれた。

「私は口下手なのでさっきはあんな表現になってしまったんですけど、私が言いたかったことも大体やそらさんが今言ってくれたようなことです。言いたい時に話せばいいと思います。やそらさんのブラックボックスについてもやそらさんが話したいと思ってくれた時に話してくれればいいです。話したいと思った時が100年後でも構わないです」

話したい時に話せばいい。そのタイミングは100年後でもいい…。
ぼくはNさんとの電話でのやりとりをしばらく反芻して余韻にひたった。

こちらのタイミングを尊重しようとしてくれているNさんの姿勢が、その言動からビシバシ伝わってきた。言わなくては…!と力んだり、誠実さとは?と悩んだり葛藤したりしがちなぼくは、Nさんの言葉にとても救われた。

今回書こうと思っている内容からすると余談でしかないが、この電話をした後、Nさんと会った時にNさんからそれまでぼくにとってブラックボックスとなっていたNさんの秘密を教えてもらえる場面があった。

前々から、Nさんが何がしかの推し活をしていることは知っていたのだが、推しているものの正体を聞けたのだ。妙に嬉しかったのを覚えている。

さて、そんな風に「関東在住の大学院生が福岡移住に至る物語」に関する取り決めが二人の間でかわされ、実際にぼくの方からこことことは読まないで欲しいと伝えた上でURLを送ってみると、予期せぬ事態が起きたのである。

URLを送ってからしばらくしてもNさんからなんのフィードバックもなかったので、読んだのかな~?と気になったぼくは、ある時の電話で「そういえば読んでくれました~?」と聞いた。

Nさんの返事は予想外のものだった。
「読みました。すみません。指定されていた読まないで欲しいと言われていた部分も読んでしまって、その後ろめたさもあって読んだと自分から言えなくて…。訊かれた時に正直に話そうと思っていました…」

Nさんからの予期せぬ返答にぼくは再び狼狽え、とり乱した。

「あ~、そうだよね。あんな文章じゃ、途中だけ読み飛ばすなんてとてもできないよね。そっか、じゃあ、全部知ってるんだ…。」

自分は何を考えていただろう。
とにかく、隠していたことが実は露見していた事実に狼狽えた。

いろいろゴニョゴニョ話した後、ぼくは観念して身構えた。
隠していた自分が悪い、同時に、ぼくの経歴を知った上でもNさんがぼくと
関わってくれていた事実をありがたいとも思い、その旨も伝えていた。

ぼくはてっきり、Nさんからぼくの経歴に関する質問が来ると思っていた。
しかし、いくら身構えていても来ると思っていたその質問は来なかった。

約束を破って読んでほしくない箇所を読んでしまいぼくの「「虐待サバイバー」「宗教二世」「元不登校・ひきこもり」「留年」「DV加害/被害者」「躁鬱病=精神科ユーザー」などの経歴」を知ってしまったNさんだが、それでも、「後ろ暗い、社会的に決して誇れたものではない自らのアイデンティティ、ラベリング」だとぼく自身が捉えているその自己物語を、ぼくが進んで自らNさんに話したい時に話し出そうとするタイミングを保障し、Nさん自身はそれまであくまでも待ち続ける姿勢を行動で示してくれたのだ。

「何か質問とかあると思ったんだけど…、もしかして、話したいと思ったタイミングでぼくが話し出すのを待ってくれている、の?かな??」

「うん」

以前、人に自分の半生をどう伝えるかにどうしても悩み、Nさんの時同様、とり乱した時が何度もある。ある人は、「そんな秘密を抱えられたまま一緒になんかいられない。ちゃんと話して」とぼくを急かしてきた。

あんなとり乱し方をしたら、まあそれもある面では正常な反応だとも思う。

けど、そういう対応はぼくからすれば「とても自己中」なものだった。
Nさんの対応がぼくにはとても新鮮で、約束は物語も気になってしまってしょうがないので破ってしまったけれども、それでもあくまでぼくの話し出すタイミングを尊重しようとしてくれるNさんがとてもありがたかった。

実際、その時ぼくは嬉しいやら尊重されている!という実感も手伝って、電話口で涙ぐんでしまった。

これが、ぼくが実感したNさんとの関係を通じて「他者から尊重された、大事にされたと実感した出来事」だった。

皆さんは最近、他者から尊重された大事にされたと実感した出来事、何かありますか?

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