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虎の子日記    北海道のナンパ事情

その昔、日本一周フーテンの一人旅をしたことがある。
軽自動車で、ゆっくりローカルな道をゆく。
ナビなどない(30年前の話)ので、地図を見ながら人に聞きながら、今日の目的地まで進むのである。

道中のトイレ問題は大きい。
男性のようにちょっとその辺で・・というわけにもいかないので、コンビニなど、見つけたらもようしてなくても行っておかねば次にいつトイレに出会えるかわからない。今のようにどこにでもキレイで無料で利用出来る「道の駅」などそうそうなかった時代だ。

北海道の、小さな町にさしかかった時、観光名所でもないこんな小さな町にしてはえらく立派な道の駅らしきものを見つけた。1億円トイレというのが福岡の地元にあるがまさに町おこしか話題性か、こんなきれいなトイレは珍しいので、早速利用させていただくことにした。

男子と女子の入り口が分かれるあたりに、観光パンフレットタワーが置いてあり、ふんふん、と眺めていたところ、「観光ですか?この町は初めて?」と話しかけてくる男性がいた。「はあ、まあ・・・」と濁して立ち去ろうとしたが、彼がどこかに案内すると言い出したのだ。

24~27歳くらいだろうか、地元の社会人らしき青年だったが、こちとら24歳のうら若き乙女。知らない町で知らない人に声をかけられてほいほいついていくなんて危険が危ない。観光じゃないから、と断ったがどうしても、と食い下がってくるのだ。馴染のお店でお昼ご飯でも、というので、一食経費が浮くからいいかな、なんて思い始めていた。

彼の馴染の喫茶店に着いたが、そこには私たちの他にお客はない。
昔ながらの純喫茶といったところか、蝶ネクタイをして睨みをきかせたマスターがひとり。店内は薄暗く、流行っているような雰囲気ではない。本当にここがオススメの店なのか?はっ!もしやこの男とマスターはグルで私はこのまま拉致られるのかもしれない、そして北朝鮮とか中国とかに売りとばされるのかも・・・・

やがて出てきたオススメのナポリタン。もしや睡眠薬でもふりかけられてるのかも?しかも彼はジュースのみ。ますます怪しい!
拉致られるかもしれない恐怖と戦いながら、彼にずっと見つめられながら食べるナポリタンは、すでに味さえしないままただ喉を通るのである。

そんな妄想劇場をよそに、約束通りもとの駐車場まで来て「じゃあ、元気で、運転気を付けてね」と彼は立ち去った。
え?ご飯おごってくれただけ?ただのいい人?安堵しながらもちょっと拍子抜けした私が彼のほうを振り返ると、彼はまた、さっきのトイレのパンフレットタワー前にスタンバっていた。

そう、あそこは彼のナンパ(?)定位置で、私は今日の何人目かで、彼は何度もあの喫茶店に行っている。だからあんな不審そうな目でマスターが見ていたのか!いや、もしかしたら彼はこの町の観光大使か、はたまた供食ボランティアかもしれない。いや、もしかしてトイレの神様かもしれない・・・

ボーイズよ、キャッチ&リリースとはこのことだ。
バチェラー改造計画はまだ続く。

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