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【来日公演決定記念】Makaya McCravenが"ビート・サイエンティスト"と呼ばれる理由(ディスクレビュー)

 本日の音楽ファンは先ほど発表されたOasis再結成ライヴ決定の知らせで頭がいっぱい。後追い世代のOasisフリークな私も内心かなり盛り上がっているのですが、そんな中でひょっこり待望の激アツ来日公演の知らせが流れてきました。

マカヤ・マクレイヴン Makaya McRaven来日公演決定!


 昨年のBlue Note公演にも行きましたが、ジャズのライブってこんな強靭なのかと強めの衝撃を受けました。本当に生で観ると震えましたね。

 このときはBlue Noteだったので着席でしたが、今年の11月は何と渋谷WWW X(キャパ700人ほど)みたいです。スタンディングの小規模ヴェニューで観るほうが盛り上がるだろうし、めちゃくちゃ楽しみ(僕は行けるか分からないですが…)。あと、ちょっとキャパ少ない気もするので、追加公演もやって欲しいですね。

 昨年のBlue Note公演に行ったキッカケはKassa Overallの『ANIMALS』国内盤CD付録冊子でマカヤ・マクレイヴン『In These Times』のレビュー寄稿したからです。依頼を受けたタイミングでちょうど来日していたので、これは行かねば!と思って行ってよかった。

 ここから本題で、ちなみにこの特典付録は『ANIMALS』のフィジカル購入者限定だったんですが、もう1年以上経ったし、せっかく良い感じに書けたので、来日決定記念にブログにも上げることにしました(編集者の許可は取ってます)。マカヤの紹介文で必ず見かける「ビート・サイエンティスト」ってなんだ?思いながら書いた原稿です。

 

マカヤ・マクレイヴンはシカゴを拠点に活動するドラマーであり、同時にプロデューサーでもある。

 2015年の1stアルバム『In The Moment』は、即興も含めた生演奏の録音をPC上で編集して楽曲を構成していく手法が取られている。本作はジャズの伝統とヒップホップのプロデューサー的手法の高水準の融合であり、新しいジャズのスタイルを提示するものだった。

 2022年の最新作『In These Times』は、制作に7年もの歳月を費やしたという。その期間にリリースされた作品ーー米英の気鋭のミュージシャンと録音し編集した『Universal Being』(2018)、ギル・スコット・ヘロンと共作の『Were New Again』(2020)、50年代〜70年代までのBlue Noteの楽曲カタログ音源を再構築した『Deciphering The Message』(2021)ーーを通して、ポストプロダクションの過程を修練してきた。これらは並行して制作された『In These Times』にもフィードバックされている。つまり、本作はその名の通り、いくつもの時間が編み込まれているともいえるだろう。

 表題曲は歓声や拍手で幕を開ける。雨音のような不規則な拍手は、これから訪れる変拍子の嵐を予感させるようだ。繰り返す6/8拍子のおどろおどろしいフレーズにストリングスの不穏ながらも透き通った音色が重なる。マカヤのドラムが響く瞬間、そのカオスは一気に収束する。作曲・即興・編集の巧みな融合は、冒頭のたった1分40秒でこうも示されてしまう。

 2010年代はDAWの利用が安価で手軽になり急速に普及し、それによりヒップホップ的手法がアプリオリなものとなった時代にマカヤは登場した。彼が慣れ親しんだヒップホップの誕生からおよそ50年、それを可能にしたエジソンによるフォノグラフの発明から約150年、そんな時代の先端に『In These Times』はある。しかし、同時に彼のパフォーマンスは録音技術よりも遥かに昔から音楽が存在していたことも思い起こさせる。そういった人類が積み上げてきた音楽的手法を並列に扱い、膨大な実験の集積と過去の引用、再編集によって「巨人の肩」に乗るミュージシャン像を彼は図らずも提示している。彼が「ビート・サイエンティスト」と呼ばれる所以はここにある。

 以上、素晴らしいアルバムなのでぜひ!


参考文献

要らない追伸
 
コーチェラ2023のヘッドライナーとして出演したものの大遅刻&中断で大ブーイングを食らったフランク・オーシャンの配信(といってもオフィシャル配信はドタキャンだったので現地にいたファンのインスタライブ)を横目にそわそわしながらドトールで書いた原稿です。

ポッドキャスト等の制作費にします。 ありがとうございます。