音楽を嫌いになったらどうするの？

　これは高校受験の推薦面接の練習の時に一度

だけ担当になった教頭先生の音楽科に進もうと

している私に出された質問の一つでした。

　当時14歳の私は音楽を嫌いになる？そんなこ

とある訳ないでしょ？何言っているの？と思っ

ていましたが、面接の練習ですからきちんとこ

たえねばなりません。「音楽を好きだった気持

ち、初心を思い出して音楽を好きな気持ちを取

り戻します。」と言っていたと思います。教頭先

生には良い答えだと褒められたのは覚えている

ので変な事は言ってないはず。

　うつ病になってからそんなエピソードがあっ

たなぁと思い出して、そのことについて考える

事が増えました。先生の質問の「嫌いになる」

とは違ったけれど、私の「取り戻す」いわゆる

「元に戻す」という事がどんなに難しいことなの

かを知る事になりました。

　私の場合は好きなものは音楽、特に歌う事が

好きでした。なんで好きだったのかうつ病を経

験していろんな事を「再び」感じられる様にな

った時自分で理解しました。

　歌を歌う事で体の中から何かが湧く様な感覚

がしたんです。手に血が通ってポカポカしてく

る感じです。その時「私はちゃんと生きてる！」

と思いました。私が歌う事が好きだった理由は

生きている事を実感してそれを喜ぶことのでき

る一つの手段だったからではないかと思いま

す。このことについてうつ病の前には考えるこ

とはありませんでした。私にとって歌う事はそ

れ程当たり前で絶対に私の中からなくならない

ものだと思っていたからです。うつ病になって

ふと歌への気持ちがすっかり消えてからよくよ

く考えました。でも遅すぎました。なぜ好き

だったのか思い出せないのです。ぽっかりと心

の中に穴が空いているのだけがわかりました。

その穴に「歌う事」の全てが入っていたのでし

ょう。そのぽっかりと空いた穴を冷たい風がひ

ゅーひゅーと通り過ぎていき、そこからどんど

ん冷たさは侵食して体からも温度を奪っていき

ました。