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Z世代化する社会~テーマパーク化する大学の中で生きる若者~

今回は、舟津昌平氏の「Z世代化する社会: お客様になっていく若者たち」よりピックアップします。

「Z世代」というワードが知られるようになってから久しいですが、タイトルを見ると「社会」がZ世代化している、ということです。筆者の舟津昌平氏(元京都産業大学准教授)が大学生への取材や大学における講義を通じて得たことも踏まえながら書かれています。
なお、最近YouTubeのPIVOTチャンネルにも本書を取り上げた動画がアップされました。

「不安ビジネス」という動画のサムネイルが不安をさらにあおっていないかというツッコミはさておき、印象的だったトピックをアップします。

大学のテーマパーク化

先述の通り、大学生について多く取り上げられていますが、まず取り上げたいキーワードは「テーマパーク化」です。これはかつてから言われている「大学のレジャーランド化」を思い出す一節です(※余談ですが、wikipediaまであるんですね…)。

このテーマパーク化とは何か?ということですが、本書では以下の二つの意味を指しています。

  1. ディズニーランドやUSJのような不快なものが徹底的に排除された空間

  2. 学生を客に見立てている

1.はレジャーランドにも通ずるところがありますね。不快なものがないということはすなわち大学において不快なものは認めない、ということになります。不快や、不安がない環境を大学に求めてしまっているのです。その背景には、(少子化もあるのでしょうが)入学前の保護者会の実施など、以前と比べて学生を集めるための活動に苦慮しています。
そして2.につながります。そうしてもてなされて入った大学に対し、学生は「テーマパーク」が如くお金(学費)を払っています。しかし実際はテーマパークとイコールなわけはなく、「客」ではないのです。それをはき違えて「金を払っている方が偉い」というカスタマーハラスメント的な発想をもたらしているわけです(怖い…)。

「コスパ」は本当にコスト「パフォーマンス」を意識しているのか?

2023年に席巻した「コスパ」「タイパ」という言葉。
元来、コストパフォーマンスとは経営指標のものです。
それを、個々人の(言ってしまえば些細な)判断においてもコストパフォーマンスという軸で迫る。これを本書では「Z世代の経営者化」と述べています。学生起業したわけでもないのに毎日のように経営判断張りのプレッシャーに追われている(かのような錯覚を味わっている?)わけですね。
逆に言うとそれしか考えていないということはケチではないか、自分都合の「コスト」だけを考えていないのではないか?という見方ですね。「あの授業コスパが悪いから切った」も最たる例の一つです。
これらのコスパ思考、あるいは経営者思考の背景には、短期での成果を求めねばならない、そうでないと乗り遅れてしまうという「不安」があります。この「不安」が、本書での重要なワードの一つです。

成長と成長実感は異なる

短期での成果、言い換えると「成長」そして「成長実感」を求めています。「成長」と「成長実感」、一見、似たようなワードですが、本書ではこれを異なるものとしています。
仕事でいえば、本来、成長とは10年程度の長いスパンで見るものです。しかし、不安で待っていられない若者にはそんなに待っていられないという気持ちもあるのでしょう。3年くらいで「学生時代の同期のあいつより成長しているぞ」という「実感」が欲しいのです。
この成長実感の裏側にあると推測されているのが先述した「テーマパーク化した大学」です。不快なものが排除され、刺激を受け続け、一人一人が主人公になっている空間。このような空間で4年間を過ごした末に社会に出ると、「なんで俺は主人公じゃないんだ!ムキー!!成長できないなら辞めてやる!!!」となってしまうのでしょう(気持ちはよくわかります)。
繰り返しになりますが、筆者は(筆者の体感で)戦力になるまで(≒成長したといえるまで)「10年」はかかる、としています。しかし不安ゆえに3年程度で他所で通用するか(これを「ヨソ通」としています。常々ワードチョイスが巧い)で見てしまうのですね。

余裕を持てるようにしよう

不安に対する特効薬はない、と筆者は述べています。そうしつつも、対処法として挙げていることがいくつかあります。印象的だったものは「満点志向にならない」「余裕を持つ」です。周りも完璧を求め、自分もそれに応えようと完璧を目指してしまい、苦しんでしまう。しかしどんなに探しても「適性があって」「自分に合って」「楽しめる」ような満点の仕事なんてないわけです(社会はテーマパークではないということ)。
ほんの少しでも、余裕があれば過剰な期待を持つことも、完璧主義にかられることもなく生きていける。行き過ぎたクオリティ、そしてエビデンスを求められる中で時に根拠のない自信を持つことこそが、かえって不安から解消してくれる。それは、Z世代によらず、全世代に共通の持つべき姿勢なのかもしれません。


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