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出来ないことのその先に

「お前の兄ちゃん頭おかしいよな?」

小学3年くらいのとき、兄の学年の人に突然囲まれて、問い詰められたことがある。

私は、どう答えていいかわからず、下を向いてしまった。

縦割り活動では、「◯◯(兄の名前)の妹はやめとこうぜ~」と仲間にいれてもらえなかったこともあったし、

帰り道、笑いながら石を投げられたこともあった。

とにかく、私の兄は同級生から疎まれ、その矛先は私にも向かっていた。

同じ小学校にいるのが、正直辛くて、正直恥ずかしくて、正直、、、本当にやるせなかった。そして、心の奥底では、なんで私がこんな目に?と思っていた。


そう思ってしまうのは、多分、私も、兄は何もできないと思っていたから。

障害者手帳の二級を持っている兄は、未だに自分で起きられないし、時間の管理なんてもっての他。

家の中をせわしなく歩き回るし、他害がひどくて、すぐ殴ってくる。

コミュニケーションを取ろうとすると、こっちが疲弊してしまう。

自分で出来ることが限りなく少ないくせに、ひとに危害を加えることは少なくない。

そんな兄のことを、私も心の中で疎ましく思っていたし、兄の学年の人たちの気持ちも、本当はわかる気がしていたのだ。

そんな兄を見る目が変わったのは、今年の母の日のこと。

久々に実家に帰ると、かわいいお花の鉢植えがあった。

思わず見ていると、

「◯◯(兄)が、職場で買ってきてくれたのよ~!」と満面の笑みで、母が教えてくれた。

その笑顔がまぶしくて、まっすぐで、温かくて。


兄が自分の意思で、自分の稼いだお金で、母にあげた初めてのプレゼント。

兄の働いてる農園で売ってた100円くらいの小さな鉢植え。

値段なんかじゃない。

ずっと兄のことで悩まされていた母には、本当に本当に、嬉しいプレゼントだったんだと思う。

難しいことはなんにも出来ないと思っていた兄に、母のことをほんの少し、笑顔にできる力があるのだと思い知らされた。

兄のことを、何もできないと言うのは簡単だ。ずっと私もしてきたこと。

でも、できないからこそ、できたとき、温かい気持ちを分けあえる。

それを大切にすることも、ひとつの幸せだ、と教えてもらった。

私は、恐らく兄よりはできることがたくさんある。

でも、母が心から笑ったのは、私が毎年一生懸命選んでいた母の日のプレゼントではなく、兄からの些細なプレゼントだった。

複雑な気持ちがないといったら嘘になる。

でも、私は私なりの方法で、頑張ればいい。

兄も、兄なりの方法で、母を笑顔にしたのだから。

この鉢植えがずっと枯れませんように。元気でいてくれますように。母の笑顔が続きますように。

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