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【ものがたりと心と声】シリーズ集

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女優・望木心の頭の中の想像力を短編ストーリー化。自分の体験ベースにフィクションを織り交ぜております。不思議な世界観がお好きな方、癒しが欲しい方に是非。週1回〜2回更新予定。
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#ショートショート

魔法の僕たち1【処方箋】

「この薬を飲むと未来があなたの思う通りに進んで行きます。ただし、あなたはその度に寿命が縮むような思いをするでしょう。」 魔女から薬を買った。自分の過去全部を売って。薬と引き換えに過去を引き渡した。こんな過去は要らないと思ったから。 魔女は僕が店から出る時に声をかけた。 「いつでも未来を手放すことはできますからね。」 僕は薬を握りしめていた。 彼女との未来を手に入れる為に、僕は自分の過去を売った。僕の過去は誰かの過去になるらしい。生まれも、思考も、経験も他人のものに。

僕はキミのスマホ

買ったばかりのスマホから 小さな人が出てきた 自分そっくりだ スマホの強化ガラスの上に堂々と立っている 堂々とした自分を見るのは初めてだった スマホの自分は 「僕は君のスマホ」と喋った 気味が悪い 僕はスマホを自宅のベランダから外にぶん投げた 隣の空き地の草むらにスマホが落ちる 茂みから「いったあ〜」と聴こえる その直後、激しい頭痛に襲われた 脳内で灯りがひとつずつ消えてゆくような 記憶が遠のいてゆくような感覚がする 「なんで僕はここにいるんだろう」 恐怖に心が支配されて

とけない雪

根雪の中に頭を突っ込んだ。 脳回路がショートしそうだったから。 衝動的なまま冷却行為に移した。 馬鹿馬鹿しい事をしている自覚はあった。しかし、これ以上嘘をつき続けるのは死にに行くようなものだと感じ、どうしようもない状態の中で見出した行動が頭を根雪に突っ込むという結果になった。根雪は眠っていた冷静な自分を呼び起こしてくれた。 クラスメイトの友人から「お前ほんと死ぬよ?」と笑われながら言われる。冷たい世界の中から顔をゆっくりと上げる。 燦々と盛大に降りしきる大粒の雪が、友人の隣

なりたいもの

穏やかな河の水の流れだった 輝く水の中で泳ぐ、この魚になりたいと思った 脚から頭の先っぽまで、肌という肌が水と一体になってゆく 魚になるより気持ちが良いかもしれないと高揚した 私は笑って何日もそうしていた しかしある日の夜 曇り空から強くすり抜けてゆく風が私の体をざわめかせ、流れが速くなる その内、雨が降り始めた 私は流されるまま岩にぶつかり、飛沫をあげながら 何日も何日も激しく体を揺さぶられた 油断していたら、いつの間にか私の体は二手に分かれた もう一方の私の体は分か

大吉

大吉の葉っぱを切った その方が新しい葉が大きく育つからって お花屋さんが言ってた 大吉の腕から 真っ白な液体が出てびっくりした まるで血じゃないか 大吉が可哀想だと思った しばらくの数日間 大吉は元気がなかった 私は彼の事を傷つけてしまったんじゃないかと不安に思った 外は雷雨になっていた 私も血を流した 沢山たくさん みずから過去と今のハサミを使って 余りにも血が止まらず出続けるものだから 最初の強烈な痛みも麻痺していた 朦朧として横たわる あのひとを愛し続けたか