見出し画像

魔法の僕たち1【処方箋】

「この薬を飲むと未来があなたの思う通りに進んで行きます。ただし、あなたはその度に寿命が縮むような思いをするでしょう。」

魔女から薬を買った。自分の過去全部を売って。薬と引き換えに過去を引き渡した。こんな過去は要らないと思ったから。

魔女は僕が店から出る時に声をかけた。
「いつでも未来を手放すことはできますからね。」
僕は薬を握りしめていた。

彼女との未来を手に入れる為に、僕は自分の過去を売った。僕の過去は誰かの過去になるらしい。生まれも、思考も、経験も他人のものに。

夜明けと共に薬を飲んだ。
小さなこんぺい糖のような薬は強烈な甘さがした。
これで全てが終わったような気になった。
そして僕は眠った。眠る時に彼女との未来を思い描いて。

翌朝、なんの変化もない僕は彼女に会いに家へ向かった。
しかし彼女は家にいなかった。ドアの鍵が開いていて、中はもぬけの空だった。テーブルにはこんぺい糖が散らばっている。
はっと振り向くと、開け放たれている窓には白い鳥が一羽留まっている。白い鳥と目が合う。鳥はさっと快晴の空へ飛び立った。
遠くへ、高く、自由さしか持たずに。

未来を握りしめていたはずの僕の手は、痺れて力が入らず、だらんと動かなくなっていた。



【食事】につづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?