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冬沢こたつの短歌と背景 part.3

はじめに

初回の記事と前回の記事はこちらです。

「嘘だけど」本当にヤバい怪談は…

「嘘だけど」本当にヤバい怪談はおまじないとしてそう締め括る

こちらはTwitterのRIUMというアカウントで行われている付句企画で、「嘘だけど」というお題の時に詠んだ一首です。
これは本当のことで、というとなんだか仰々しいですが、怪談は本気にしてしまうと呼んだ当人に霊障がある恐れがあるということで、「この話はあくまで作り話なので鵜呑みにしないでね」と締めることがあります。
最近は特にこういう「作り話(というてい)だからこそ怖い話」だったり、「次は読んだ当人に同じ災いが降りかかるみたいなタイプの話」が多い気がします。怖い話はいかに現実味を持たせるかだと思うので、こういった読者を当事者にさせる仕掛け、「体験」させる試みはすごく面白いですよね。
僕は怪談が大好きなのですが、いい怪談はそういった技巧が凝っていたり、ショートショートとしての完成度が高く、そういう楽しみ方をすれば怖い話が苦手な人でも楽しめるんじゃないかなと思っています。

全身で恋するような倦怠感…

全身で恋するような倦怠感 微熱の中に人影はない

この短歌の元になった歌詞のメモはずいぶん前のもので、今調べてみたら2018年10月4日でした。そういえばこの時期も原因不明の微熱が続いていた気がします(今もそれで苦しんでいます)。以下がそのメモです。

「この微熱の中、君のことを想えば全身で恋をしているみたいだ 甘酸っぱく疼く関節 凍っては溶ける溜息が綺麗」

歌詞のメモは書いた時点では全くメロディなどはつけておらず、なんとなく言いたいことをまとめて後で微調整を行う形で使っています。そして表現はかなり感覚で書いており適当です。そのため、この短歌に落とし込む時どうしてもうまくパッケージングできず苦戦しました。
結局、恋のことを歌うのではなく「微熱の辛い感覚を恋に例える」形で熱を主題にしました。不明熱のことで曲が一曲書けるか(長い歌詞が書けるか)となると微妙なので、フォーマットの向き不向きを実感しました。短歌を書き始めて初めて気付いたことです。

こんなにも優しい君の運転で…

こんなにも優しい君の運転で酔い止め飲むし酔うしごめんね

実際は荒々しい運転のバスに乗っているときに思いついた短歌。バスに乗るといつも車酔いしてしまい辛いので、バスという乗り物に対してロマンは感じるけどとにかく苦手です。タクシーも苦手。でも自分で運転するのはやっぱり大丈夫なんですよね。あれはいつになっても不思議です。
「優しい君の〜」というのはバス運転手に対しての皮肉ではなくて、本当に他人の運転だったらどんな運転でも酔い止めは飲みたいところなんですが、この短歌は「優しい」が「運転」にかかるか「君」にかかるかで意味合いが随分変わってきますね。
個人的にはどれだけ優しい人でも運転が上手いとは限らないので、そういうケースの歌、先ほどの話だと後者の場合だと思います。うまくいかないもんだよね。

ビル越しに見えない花火が背伸びする…

ビル越しに見えない花火が背伸びする泣き声だけは大きい子ども

こちらも歌詞に使おうと思ってストックしていたメモから作った短歌です。こちらはメモした当初から短歌っぽいと思って短歌の形で残していました。以下がそのメモになります。

「ビル越しに見えない花火が背伸びして少しだけ顔覗かせている」

この短歌は、このメモを元にもう少し表現を工夫して推敲した形ですね。これも実景で、そのまんまメモのような状況があったのですが、このメモの下に「幸せは歌にならない」とも書いてあって不穏でした。どういう気持ちだったんだろう…

重心が後ろに偏るバスに乗り…

重心が後ろに偏るバスに乗り俯きながら月へ向かった

こちらも先ほどのバスきっかけの短歌「こんなにも優しい君の運転で〜」と同様バスについての短歌です。こちらは病院帰り、後部座席(という言い方でいいのか?)にしか乗客の乗っていないバスが走っていて、「なんだかバランスが悪いな〜傾いちゃいそう」と思ったのがこういう形になりました。
俯いていたのは自分なんですが、なんかそのバスも辛気臭かったので勝手に俯かせて月に飛ばしました。自分の乗るバスも病院行きじゃなくて月行きだったらいいな。

おわりに

特にテーマを設定してまとめているわけではないのですが、バス関連の短歌が2つありました。片方は結果としては君とのドライブになっていますが。
こうして改めて見返してみると、自分の詠みがちなモチーフやテーマなども見えてきたりして面白いです。
読んでいただけたあなたは、どの短歌がお好きでしたでしょうか。個人的には一つ選ぶとしたら一番最後の「重心が後ろに偏るバスに乗り〜」かなあと思っています。ちなみに2番目は「こんなにも優しい君の運転で〜」です。どっちもバス!

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