桃沢もちこ

フリーライター。餅のような猫と東京ぐらし。 noteは感情記録です。

桃沢もちこ

フリーライター。餅のような猫と東京ぐらし。 noteは感情記録です。

マガジン

  • もちこの人生エッセイ

    くだらないことも素晴らしいことも全て含めて人生

最近の記事

わたしの母の味

温めたミルクに白玉とクローブ、黒糖を入れてちょっと火にかける。母が時々朝ごはんでつくってくれていたものだ。これを食べるとホッとして、体温とともに心も温まる。 父と母はわたしが生まれるまでいろんな国を旅していて、どこかの国に住んでいた時食べてたであろう素朴な家庭料理やおやつを子供の頃よく作ってくれていた。 白玉粉が家にあったので、あの味を食べたくなって久しぶりに作ってみることに。 ミルクのなかに沈んだ白玉をおたまですくいあげてお皿へ移す。最後にシナモンをまぶし、すこしのミ

    • 正論は言わなくていい

      やっとパニックが治ってきたと思ったら大事な友達が死んだ。ぼーっとしてるとあらゆる思考が頭をめぐり自責の念にとらわれ身体の至るところから力が奪われていく。髪の毛すっごい綺麗に染まったから見てほしいって彼女から群青色の髪をした自撮りが送られてきて、あのInstagramとかでよく見るやつだと思った。ごわごわだった女性の髪が、数秒後には美容師が施す特殊な技術でツヤツヤの髪に激変するCGみたいなやつ。 実際に彼女の髪はかなり傷んでいて、何年も美容院には行ってなかった。それが見違えるよ

      • 腐れ日記

        仕事をしようと思ってカフェに来たらWi-Fiがまったく使い物にならない。せっかくコンセントがある席を確保したのに。帰ろうか、どうしようか。でもこの店を出てから自分がどこに行ってなにをしてるのか想像できなかったので、とりあえずその場の椅子に腰を降ろした。 隣の席の中年夫婦らしきふたりはずっとシリアスな空気を醸し出している。どうして夫婦って熟年になるとああいうキツい言い方でしか会話ができないんだろう。女性はずっとびりついている。首にコルセットを巻き付けながらうんうん相槌打ってる

        • 寂しくなってる場合じゃない

          離婚して1年が過ぎたらしい。ということは東京に引っ越して1年経ったということ。 ひとり暮らしはもう慣れたけど、やっぱり時々寂しい。 朝昼晩自炊して食べた後の皿を片付けて洗う。この動作をひとりで繰り返してると嫌んなってくる。自分のためのごはんを自分のためにつくって、自分のために洗う。基本的に料理は好きだけど、同じ茶碗を1日に何度も使って何度も洗っていると馬鹿みたいな気持ちになってくる。なんて滑稽な。全自動食洗機を買えばこの孤独は見なかったことにできるのだろうか。 帰ったら家の

        わたしの母の味

        マガジン

        • もちこの人生エッセイ
          102本

        記事

          現実から離れるために

          頭が疲れている。 頭脳労働をしすぎてカチカチになってるこの脳みそを早く解放してあげたい。 こういう時、旅の景色を思い出す。 壮大な自然の景色、どこまでも広がる地平線、青い空、猛々しい山、自由に飛び回る鳥たちよ。今すぐあの場所に行きたい、けど行けないからイマジナリートリップでわたしはそこに辿り着く。 * 最近入った新しいバイトの女の子は5年前までインドに住んでいたらしい。お父さんの仕事の都合で3年間。 生活のなかで、なにが印象的だったかと聞いたら動物がそこら中にいること。

          現実から離れるために

          今この瞬間

          バイトが終わって、お昼ごはんを食べてからベッドの上で寝転んで窓の外の景色を眺めていた。冬に剪定されて短くなった木の枝はこの数ヶ月でむくむくと伸び、レースのカーテン越しから黄緑の葉がうっすら見えるようになった。 この家に引っ越した決め手は窓から見えるベランダの景色だった。空に伸びる青々とした葉がグリーンカーテンのようになっていてきれいだったし、枝葉に小鳥がとまったりしてて、生活のなかでも癒しの一部になっていた。ところが、去年の12月に木の枝はばっさりと切られてしまい、窓から見

          お金のために文章書いてるの?

          金がなさすぎる。だって1ヶ月以も無職だから。原稿もほぼ書いてない。依頼してもらったものは書くけど、それ以外の仕事はしてない。 「ライターもう辞めたいんですよね」 去年いろんな人に相談したけどみんな口を揃えてもったいないと言った。そうかーもったいないかあ、と思いつつも、もう無理に原稿仕事しなくていいかなあとおもいながらも、なんだかんだで去年は仕事を続けていた。 仕事の原稿は依頼されたものや、取材してみたい人を編集者に相談したりしながら、閲覧者数0のだれもみていないブログや

          お金のために文章書いてるの?

          逃げるも正しい

          楽しいことだけやって生きていきたい。そういうことを言ってると甘ったれるなって怒られる。今まで散々大人に怒られてきたもんな。でもさ、楽しいことをやってても生きていけるよね。 振りかえればまあしんどいことはたくさんたくさんあったけど、それは人生を送っていくうえでの通過儀礼というか、これを経験しないと先に進めないよってものばかりで。これだけは嫌だって、心が死ぬくらい嫌なことからはすぐに逃げてきたとおもう。 学校も辞めて仕事も辞めて、貯金も無職のときにかなりつかってしまった。地元か

          逃げるも正しい

          地味な生活にみえても

          テレビを観ながら寝落ちしてしまい、目覚めたら家中の電気がついまままだった。午前3時。一緒に起きてきたたまおがにゃあにゃあ言いながら飯をせがむ。さすがに早すぎるのでもうすこし待ってくれと言い聞かせ(聞いてないけど)その間、SNSとエロ動画サイトを行き来してだらだら過ごしてたらもう外が明るくなってきた。誰かに見られているわけでもないけど、こんな自分の姿がちょっといやんなって部屋に設置されているペットカメラをオフにする。 ふと記録されている動画が気になって何ヶ月分か遡って動画を見て

          地味な生活にみえても

          言うことをきかない身体

          今週から月経前症候群(PMS)が始まって1週間メンタルが地獄の底だった。ひたすら床で横になっていた火曜日、なんで出勤してこないんですかという店長のLINEで心臓がばくばく。完全にバイトがあること忘れてた。でも身体が動かない、腰が痛い、声が出ない、あーどうしようどうしようどうしよう。どうしたらいいか考えてたら眠ってしまった。睡眠、というよりかは気絶。起きたら全身汗だくで窓の外は真っ黒で雨の音は頭蓋骨に穴が開くくらいうるさかった。バイトのグループLINEには「本日無断欠勤者がでま

          言うことをきかない身体

          人が人であるために

          朝4時57分に目が覚めた。たまおに頭を噛まれたからだ。普段はもっと穏やかに目が覚めるのに、今日は神経がぴりついてんのか単に腹が減りすぎてるのかわからんが、容赦無く頭にかぶりつき最悪の目覚めをプレゼントされた。あまりの痛みから反射的にたまおをねじ伏せてしまいぐにゃあっと悲鳴。5秒後、自分の動物的衝動に引いて我にかえった。 ひとまず今日朝起きていちばんにすることは原稿の続きと今日中に送る質問案を作成することだったのに、わたしはなぜか去年まで住んでいた大磯の景色を頭におもい浮かべ

          人が人であるために

          瞬間的記憶喪失

          とある日の日記 <20231214> * 夕飯を食べ終えるとすべての体力が尽きてベッドの上で即寝し、深夜に目が覚めて朝方まで起きている生活がデフォルトになってきた。きっと自律神経がおかしいんだ。 ジャッジャッジャッ。リビングとキッチンを隔てるカーテンの向こうから聴こえるこの異音は猫が砂をかく音。おれのうんちを見ろ。そして片付けろ、すぐにしっこをしてえんだよと、鋭い目つきで圧をかけてせがんでくるものだからはいはいはいはいと身体を起こして玄関まで向かう。 がびがびの砂がま

          瞬間的記憶喪失

          やりたいことをやりたいだけじゃダメなのか

          仕事のストレスで労働の意欲を完全に削がれていたときに、どうしたら働かないで生きていけるか毎日のように考えていたことがあった。(誰しもが一度は考えたことある悩みだろうけど)そんなとき、すこしでもヒントがほしくて本屋へ行った。 そもそも働くってなんなのか?答えを知りたくて社会問題の本棚にへばりついていたところ、栗原康さんの本に出会った。栗原さんはアナキズム研究者で、政治学者。大学の非常勤講師もしている。彼の痛快で自由な文章はわたしを虜にした。最近は『はたらかないで、たらふく食べ

          やりたいことをやりたいだけじゃダメなのか

          当日欠勤の理由

          バイト先の男の子Nくんが当日欠勤をした。店長の話してる声が耳に入ってきて「Nくんこないだも風邪で当欠したのに、今日は彼女と別れたからだってよ。ショックすぎて働けないらしいわ。そんな女と別れたくらいでなあ」 店長はそう言うけどわたしは彼の行動が正しいとおもった。 ** 10代後半から20代までなぜあんなにもバイトに熱心だったのか。その頃は当日欠勤なんてほとんどしたことがなく、親から、あんた若いのにえらいねえとよく言われたもんだ。 とはいえ、バイトに対しての無駄な真面目さ

          当日欠勤の理由

          野蛮な人間たち、上海蟹を貪った夜

          先日、池袋で上海蟹を食べてきた。この日集められた人たちは蟹ビギナーがほとんどだったので、そもそもどうやって食べるのという初歩的な疑問が飛び交っていた。誰かが「お腹をバラバラにするんだよ」と発言。言葉だけで聞くと強烈で野蛮だ。お腹をバラバラにするなんて、スプラッター映画の悪役がやることじゃんと想像しながら、ありがとう、ありがとうと心のなかで唱えながら、誰かに許してもらおうという気持ちで甲羅や足を折ったり剥いたりしていた。蟹をばりばり剥いて食べるあの感じはまるで動物に戻ったような

          野蛮な人間たち、上海蟹を貪った夜

          東京へ来てから初めてのバイト

          冷蔵庫のすぐ側にデスクトップのパソコンを置いているのだけど、フワーンフワーンフワーンフワーンフワーンフワーンフワーンフワーンフワーンフワーンフワーンフワーンという稼働音がいつも気になる。仕事をしてても、本を読んでても、こたつに潜ってても。一定のリズムで鳴り響くこの妙な稼働音は泣き声のようにも聴こえてきて、やたらとかまってほしそうなのだ。冷蔵庫がかまってほしがってると思ったら腹が立つし耳を傾けていると別の時空に吸い込まれそうになる。吸い込まれた先に銀河の果てを思い浮かべ、こんな

          東京へ来てから初めてのバイト