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パターンフィオナへの恋

今日、何の気なしに駅ビルをぷらぷらしていたら、大好きな洋服屋さんの前に「閉店セール」と書かれた貼り紙を見つけてしまった。

慌てて店内に入り、品数のまばらな棚を見て回る。
大半の商品が50〜70%オフとなっていてお財布へのダメージは少ないけれど、私の心には大ダメージだ。

春先に使えそうなトップスを2枚、レジに持って行った。臨時出費だけど、今回だけは目を瞑る。
そうして、レジで店員さんに尋ねる。「ここが閉店した後、一番近くのショップはどこですか」

店員さんは、申し訳なそうに答えた。
「2月1日でブランドそのものがなくなってしまうので、全店閉鎖します」

元来、私はファッションにはてんで無頓着だ。店員さんの目を盗んでは速攻で値札を見て、半額以下でなければさっと踵を返すのがお決まりとなっている。
が、しかし、このブランド、パターンフィオナだけは唯一、定価であっても買ってしまっていた。
あるときはよそ行き用の綺麗めなお洋服を仕入れるため、またあるときは自分へのご褒美のため、と、頻繁ではないが定期的にお世話になるブランドだった。
初デートのために買った服は、ここのワンピースだった。恋人の両親に会うための服に困って、迷わず駆け込んだのもこのブランドだった。

ファッションに無頓着な私が唯一、「好き!」と言えるブランドだった。
唯一、定価分の価値を見出していたブランドだった。

基本「着られりゃなんでもいいでしょ」な私が、ハニーズの値下げワゴンの中から500円のTシャツをあさる私が、唯一ときめくブランドだった。

それが、ブランド丸ごとなくなってしまう。

”洋服ごとき”に、自分がこれほどまでショックを受けるとは思わなかった。
これから私は、何をお気に入りにしたらいいの。ここに行けば間違いないと思ってたのに、これからどこに行けばいいの。もうこれからどうしたらいいの。

さながら、順調だった恋人に突然振られたような気分だ。

失恋の最中にいる私に、早速、友人がおすすめのブランドを教えてくれた。
見たことあるブランドで、確かに私好みだ。でもパターンフィオナのような、ぱっと華やぐ明るさが足りない。やっぱりパターンフィオナじゃなきゃだめなのだ。

そうやって悲しみに暮れているけれど、でも恋人ーーパターンフィオナ側の人たちだって、めいっぱいつらいはずだ。私よりもずっとずっと悲しくて、やるせないだろう。

だから泣き言なんて、だめだ。伝えるべきは、感謝だ。

素敵なブランドをありがとうございました。
たくさんのときめきを、ありがとうございました。
たくさんのかけがえのない思い出を彩る、本当に素敵なお洋服をありがとうございました。

大のお気に入りで、かれこれ5年も履き続けた紺色のスカート。そろそろ処分しようか、なんて思っていたけれど、しばらくは無理そうだ。

恋が終わった後の思い出の品は、いつまでも捨てられない。
まさかこんなところで、私の性格が出るとは思ってもみなかった。


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