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季節の匂い



春風に靡く公園の桜を見ながら大きく息を吸う。
暖かくもどこか冷んやりする風の匂いは寂しいものだった。


私にとって春は一番嫌いな季節だ。
小学校から高校まで転校ばかりだった。新しい環境、新しい友達、身の回りが目まぐるしく変化した過去。別れと出会いの季節とはこのことだと。大事な人達と離れなければいけない、新しい学校で新しい関係を築かないといけない、自分の"居場所"を作らないといけない季節。
最後には何もかも"最初から"始めなければいけないことにうんざりしたあの時。面倒になり「もう、いいか。」と心の中で呟いた。その生活を諦めた瞬間だった。毎日が苦しく、泣く日々だった。




みんなが部活をしているのを保健室の窓から見ていた夏の放課後。夕日が落ち始めた頃、ひとり音楽を聴きながら帰る田んぼ道。夏の夜の匂いを十分に感じた。


やっと学校に慣れ始めた季節だった。
正直、何をしていたのか全く記憶にない。
どんな日々を送っていたのか、何を考えていたのか、
これっぽっちも覚えていない、今。
思い出せないくらい、薄い日々だったのだろうか。
消したくなるような過去だったのだろうか。
もう少し"思い出"が残っていてほしかった。



夏の暑さが溶け、9月の夜には涼しい風が吹き、夏の夜と秋の夜の混ざった匂いが好きだ。なんだか切ない気持ちになる。セプテンバーさんを聴きながら毎日、家に帰っていた。帰りの坂道の夕焼けはいつもいつも綺麗だった。


放課後、保健室に行くことは毎日の日課だった。
学校が丘の上にあり、保健室から見える夕日は水彩画に描いたような色だった。毎日、くだらない話を先生にもちかけ困らせていた。きっと、その頃の私は、何でもいいから聞いてほしかったのだと思う。自分の 言葉 に耳を傾けてほしかった。自分を見てほしかった。そんな気がする。



鼻にツーンと通る冷たい空気。冬の朝の匂いは最高に澄んでいる。朝日が雪に反射してキラキラしていた。学校に向かう途中、雪の写真を撮りながら歩いた。


冬は教室にストーブが出された。クラスメイトはストーブを囲み、冷えた身体を温めていた。お昼休み、
女子は持ってきたマシュマロを焼いて教室にとても美味しそうな香りを充満させていた。怒られないか、大丈夫じゃない?とわちゃわちゃしているその姿は青春そのものに見えた。




季節は香りがする。
香りは人によって違う、背景にある過去も。
香りで思い出す出来事や人がいる。
その度に思い出し、懐かしむ自分は歳を重ねていると実感する。
思い出せる思い出は大切なものに違いない。例えそれが小さかろうと。
そんな思い出は大事に心にしまっていてほしい。
季節が巡り、香りを感じた時、また、思い出して懐かしむ、そうして歳をとっていけることは幸せではないだろうか。



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