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アメリカ大統領選挙とCSNY

やっと選挙結果が出ました。
まあ当分はモメにモメそうな気配ですが。

アメリカ在住者から見た大統領選挙、みたいな文章は既に沢山の人が書いてるような気がするので、ちょっとした思い出を書きます。

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(コンサート会場で買ったTシャツ)

2006年のCSNYの全米ツアー 
当時住んでいた家の近所 Irvine Meadows シアターという野外ステージ、南カリフォルニアのオレンジカウンティー最大、1万人のキャパを誇るコンサート会場にCSNYがやって来たので観に行きました。
(Irvine Meadowsシアターはその後土地のリース契約が切れ、2016年に地主であるデベロッパーにステージも解体され更地になってしまいました)

CSNY (Crosby, Stills, Nash & Young) 、  まあ、バンドの説明を書き始めると終わりなき長文になってしまうので細かくはハショりますが、1969年結成のフォークロックバンドです。時代背景はベトナム戦争が泥沼化し、全米で学生の反戦運動が活発化してた頃。そしてCSNYが1970年にリリースしたOhioという曲が相当な物議を呼ぶことになります。(と言っても僕は当時、まだ半ズボンはいた小学生ですからこの曲の背景はずいぶん後になってから知ったことですが・・)

1970年の5月、オハイオ州ケント大学のキャンパス内でベトナム反戦運動の最中、4人の大学生が州兵に射殺されるという事件がありました。その悲惨な事件を書き下ろした曲 Ohio は歌詞の中に当時の大統領リチャード・ニクソン(共和党)を名指しで非難する controversial な内容。そしてCSNYはカウンターカルチャーの中心的バンドとして全米、そして世界中の若者に影響を与える存在になっていきます。

それから36年後、2006年の全米ツアー。1970年当時の熱い季節に若者だったCSNYのメンバーも歳をとり、彼らのアルバムを聴いて学生時代を過ごした人たちも結構なオジサン・オバサンになっとります。なので会場に集まった観客の大半は青春の頃を懐かしみ「そんな時代もあったねと〜」みたいなノリだったののではないかと想像出来ます。

まして僕なんかは彼らよりも1周り若い世代なので、単純に Stephen Stills (CNSYのS)のキレキレなアコースティックギタープレイや生のNeil Young (CSNYのY)を見に行こうかいな、みたいな感じで会場に行きました。

ライブもCarry on など懐かしの曲で盛り上がり、Familiesでは会場のオジサン、オバサンも大合唱という感じでピースフルに進行していきました。そして野外会場の西の空がオレンジ色から濃い紫色に変わる終盤に入った頃でした。

このツアー用に書き下ろされた新曲の演奏が始まりました。

Let's Impeach the President
(大統領を弾劾しよう!)

すげえタイトルです。曲オハイオを書いたニールヤングの作詞。相変わらすやっちゃってます。そもそもこのツアーはFreedom of Speech 2006 Tour. なんと言っても「言論の自由ツアー」ってタイトル。他の大御所ミュージシャン達がよく最後に行き着くようなただの懐メロライブで終わる訳もなく、現在進行形バンドとしてアップデートされた反体制で攻めてくるわけです。

考えれば2006年はイラク戦争4年目で泥沼化、前年ブッシュ大統領(これまた共和党)が開戦理由だった大量破壊兵器の情報は間違いだったことを認めましたが、その時点で米兵の死者数は2000人を優に超えていた頃。ニールヤングのオッサンが黙ってるわけはありません。

僕が驚いたのは、曲が始まると結構多数の観客からブーイングが起きたということ。当時の僕は今に比べるとアメリカの政治にほとんど関心もなく当然知識も限定されていて「どういうこと?」というリアクションでした。

今ならある程度理解出来ます。

1970年頃若者だった2006年の観客たち。このオジサン、オバサンたちも、もちろん当時はその時代の空気を感じてそういうムーブメントに賛同していたんでしょう。長髪、ヒッピー、フラワーチルドレンな人も多かったと思います。ただバリバリ学生運動に参加してたり命がけで活動してた人たちの数はどれほどだったのか?ほとんどの人たちは70年代も半ば前後には髪を切って生活のために仕事についたのは当然の流れかと思います。

そして仕事を続け、家族を築き、家を買い、子供たちが巣立つくらいの年齢層にもなります。それまでの36年間の人生の過程でイデオロギーも人それぞれになってきます。単純な白黒、いや赤青で割り切れない立場の人だって多くいるでしょう。

もちろんカリフォルニア州は民主党の牙城、ゴリゴリのブルーステートです。でもライブ会場になったエリア、オレンジカウンティーはマイルドな保守(共和党支持)もそこそこ住んでるエリアです。ワインでも飲みながら青春だった頃の音楽を聴いて昔を懐かしみGood Timeを送ろう、と単純に考えていた観客の一部の保守層の気持ちをニールヤングがエグったわけですね。

演奏中のブーイング、そして怒号、曲が終わりMCが始まる頃には、結構な数の人たちが席を立ち会場から出て行き始めます。僕の記憶だと自ら退場した人はおそらく数百人はいたんじゃないかと。1万人規模の箱で数百人なので割合はわずかですが、それでも目立ちます。そして立ち去る保守系の人たちに向かって観客席からブーイングする人も結構いました。

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(Photo by mocha)

そのコンサートから14年、その間、ブッシュ(共和党)、オバマ(民主党)、トランプ(共和党)、そしてバイデン(民主党)。

色々あった2020年は確実に年表に残る年になりました。

今回の大統領選挙は分断というキーワードが頻繁に使われてます。そして今回の選挙を見ていて僕がふと思い出した2006年のコンサート、時代としては特にブックマークもされてない年に僕が目撃した小さな分断の話でした。

んじゃまた

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