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イップスに苦しんだ昔の話

ここでは私の昔話として、学生時代イップスに悩まされた話を書きたいと思います。結論、今となっては当時真剣に向き合ったことで精神的に強くなったことはプラスに考えています。同じように苦しむ人の参考になればと思います。

私とイップス

私は中学生時代、卓球に熱中していたと同時に、時折発症するイップスに悩まされていました。イップスと聞くと聞きなじみのない人もいるかもしれませんが、プレー中に極度に手が震えるなどの症状が出ることにより、プレーに支障が出る、もしくはほぼまともにプレー出来なくなるような状態になることを指します。

イップスは、気持ちが弱いから、練習不足だから出来なくなっているんだ、など精神論的に語られることがよくあります。おそらくイップスになりかけた、もしくはなった人は自分でも一度はそう考え、もしくは、周囲からもそう言われてきた人も多いと思います。実際にそのような人もいるかもしれません。ただ、そうでない場合も多いと考えていて、自分の場合、理性ではコントロール出来ない範囲(無意識)での身体に発生する不具合のようなものだと私は解釈しています。(このあたり、人や症状、度合いによって感じ方もまちまちかと思います。)

私の場合、中学校時代からフォア打ち(基礎練習)が打てなくなることがたまにありました。ただ、高校時代にかけてはほとんど発症せず、身体の成長に合わせて不調になったくらいの理解でした。

症状の悪化

より症状が悪化し始めたのは大学入学後です。高校まで弱小校に所属していた私でしたが、入学した大学は自分よりかなりレベルの高い、全国大会を目指す人も多い大学の部活に入部しました。その中で、武器としていたサーブ(フォアサーブ)が全く出せなくなりました。サーブを出そうとするとネットに直行してしまう、台の下に落としてしまう、極端に長くなってオーバーミスしてしまうなど、手の震えから、まったくサーブが出せないようになってしまいました。概ね1年のうち、3分の1~半分くらいの期間は症状に悩まされていたように思います。

そんなとき私は、かろうじてコントロールの利く、相手の台に入れるだけの素人のようなサーブ(バックサーブ)を出します。当然、そんなサーブが効くはずもなく、自分のサーブの番に相手に主導権を握られることがほとんど。はたから見るとそれっぽく試合をしているように見えますが、見る見るうちに、本来勝てるはずの相手にも勝てなくなっていきました。

はじめは周囲の友人たちも「調子悪いね」「今日は感覚おかしいの?」などと声をかけてくれ、練習相手や相談に乗ってくれました。周囲のメンバーはイップスに対して比較的理解があり恵まれた環境にはあったかもしれません。(自分がひどかったから理解がしてくれていたのかもしれません)

ただ、症状が改善しては、次の大会でまたサーブが入らなくなっている自分を見て、なかなか声をかけづらくなっていた人もいたと思います。自分としては気丈にふるまうしかなく、自分の症状をよく知らない人からは「なんで?」と聞かれることもしばしばありました。

「自分だってこんなみじめな試合をしたいわけではない。」

ただ、言い訳をしたところで何も変わらない。「きっと自分がみんなと同じ土俵に立つには練習が足りないのだ。」と自分に暗示をかけるように考えるようになり、ひたすら練習に打ち込み、自分の意識を正常に保とうとしていました。

結局、大学四年間で症状が完治することはありませんでした。

それでもひたすらに練習に打ち込み、何度サーブをミスしても、勝てる相手に負けても、イップスに向き合い続けたのは、それだけ卓球が好きだった。きっと、いつか症状がよくなって、みんなと同じように楽しめるようになる日が来ると、心のどこかで思いながら過ごしていたんだと、今となっては思います。

引退の決意

私は社会人になり、地元の公民館対抗卓球大会に参加するよう言われました。私の地元には2,30年くらい前から卓球部がなく、私が社会人になることが心待ちにされており、スーパーエースのような扱われ方だったと思います。

私はその大会、苦し紛れの入れるだけのサーブすら、相手のコートに入れることができませんでした。

地元の人や顔なじみの対戦相手からは本気で心配され、事情を知らない相手地区のおじさん方からはヤジが飛びます。

私はその日以来、卓球から離れることを決めました。

なぜか気持ちは晴れやかになりました。今まで苦しみながらも続けてきたことをもうやらなくてもいい。方向性があっていたかはわからないが、自分なりに必死に向き合った4年間があって、それでもなお、改善されなかった。自分には乗り越えられなかった壁。その時々では悔しい思いをたくさんしましたが、真剣に向き合ったその時間には何も悔いを残すことはありませんでした。

そのうえで、何も入らなくなってしまったのであれば、これ以上自分にできることはきっとない。本気でそう思いました。

これ以降、私は「緊張」することがあまりなくなりました。会社のプレゼンのような場で、役員に見られているようなことがあっても、イップスと戦っていたあの頃のことと比べると何ともありません。

イップスになったことで、物事がうまくいかない人を笑うようなことはしなくなりました。人に対して優しく接することができるようにもなったと思います。何より精神的に、とても強くなりました。本気で向き合ったからこそ、説得力を持って、何事にも粘り強く、前向きに、真剣に物事に向き合えるようになったと心からいえると思っています。

最後に…

きっとイップスで苦しんでいる人の中には周囲の理解が得られにくく、辛い思いをしている方もおられると思います。自分はたまたま4年間続けることができましたが、結果的には症状の克服は出来ませんでした。

自分はイップスに向き合ったからこそ、今の仕事ができていると思っています。自分も志半ばですが、同じように苦しむ人が少しでもポジティブになれること、可能ならすべての方の症状が改善出来る治療法が確立されることを願いたいと思っています。

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